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佐藤泰志の「そこのみにて光輝く」を読んだ!

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佐藤泰志の「そこのみにて光輝く」(河出文庫:2011年4月20日初版発行)を読みました。1989年、第2回三島由紀夫賞の候補となった作品です。受賞したのは大岡玲の「黄昏のストーム・シーディング」(文學界1988年12月号)、他の候補作品にはいとうせいこうの「ノーライフキング」が見えます。審査員は江藤淳、大江健三郎、筒井康隆、 中上健次、宮本輝でした。ちなみに第1回の」三島賞受賞作品は、高橋源一郎の「優雅で感傷的な日本野球」でした。


僕が佐藤泰志を知ったのは、映画の「海炭市叙景」からでした。その後、文庫本で「海炭市叙景」と「きみの鳥はうたえる」を読み、先日、ドキュメンタリー映画「書くことの重さ作家佐藤泰志」を観ました。その時に、佐藤の作品「そこのみにて光輝く」が映画化され、「2014年春 テアトル新宿他 全国ロードショー」という情報を得たので、映画を観る前に読んでおこうと思い立ちました。


文庫本の「そこのみにて光輝く」は、第一部「そこのみにて光輝く」、第二部「滴る陽のしずくにも」となっています。第一部は、拓児と千夏、そして達夫の3人を軸に進んでいきます。第二部は達夫と千夏は結婚し、子供も授かり、それなりに幸福な家庭を作っています。


主人公の達夫は造船会社を中途で辞め、ブラブラした生活を送り、パチンコ屋で拓児と知り合う。高層住宅が建ち並ぶ前の取り残されたようなバラックが拓児の家だ。軒下に高山植物が並ぶ家に上がると、老母が出てきた部屋で犬のような唸り声がした。拓児は「大変だな、婆さんも」とからかうように喋った。「拓児、あんたいいかげんにしてよ。他所様の前で」と女の声がした。襖をあけて、黒のスリップ姿の女があくびを噛み殺しながら出てきた。


その女が拓児の姉の千夏でした。千夏のつくったチャーハンを食べ、麦茶をいただき、礼をいって玄関を出ます。誰かが追いかけてくる足音が聞こえ、振り返ると千夏でした。花柄のブラウスのボタンをはめながら、草の中に入ってくる。立ち止まって千夏を待つ。千夏も肩で荒い息をつきながら、歩調をゆるめた。照れたように顔を下向け、ブラウスのボタンをはめながら達夫を上目遣いに見た。ブラウスを透かして、黒いスリップが身体の線を浮かび上がらせている。家の中で見るより若々しかった。「驚いた? あたしの家」という。達夫は「泳ぎたい」と、無関係なことを口にして答えます。


解説を書いている福間健二は、「佐藤泰志の小説の魅力のひとつは、人と人の出会いの描き方にある」という。まず、達夫がパチンコ屋で拓児に出会う。偶然の出来事、達夫が拓児にやった100円ライター。そして、拓児の家に連れて行かれた達夫の前に、黒いスリップ姿の千夏があらわれる。登場のしかたとして、これ以上ないというほどの場面である、と福間はいう。


映画はキャストが問題です。千夏の黒いスリップ姿。映画ではこうである。「造船会社を辞め、無為な日々を送っている達夫(綾野剛)は、パチンコ屋で知り合った青年・拓児(菅田将暉)を通じ、水商売で家族を養う拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う」。


映画の千夏役は池脇千鶴でした。実は「爆心 長崎の空」で脇役でしたが池脇千鶴を観たのを思い出して、黒いスリップ姿が似合うと思いました。かつての清純な少女役から、やや太った、捨て鉢で、投げやりな、だらしのない姿の池脇千鶴に大きく変わっていました。千夏役は池脇千鶴で間違いない、と確信しました。


内容:
北の夏、海辺の街で男はバラックにすむ女に出会った。二人がひきうけなければならない試練とは――にがさと痛みの彼方に生の輝きをみつめつづけながら生き急いだ作家・佐藤泰志がのこした唯一の長篇小説にして代表作。青春の夢と残酷を結晶させた伝説的名作が20年をへて甦る。


佐藤泰志:
1949年、北海道・函館生まれ。國學院大學哲学科卒。高校時代より小説を書き始める。81年、「きみの鳥はうたえる」で芥川賞候補になり、以降三度、同賞候補に。89年、「そこのみにて光輝く」で三島賞候補となる。90年、自ら死を選ぶ。他の著書に「海炭市叙景」「黄金の服」「移動動物園」「大きなハードルと小さなハードル」などがある。


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とんとん・にっき-hikari 「そこのみにて光輝く」

監督:呉美保

脚本:高田亮

綾野剛

池脇千鶴

菅田将暉

高橋和也

火野正平

2014年春

テアトル新宿ほか

全国ロードショー


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