小島剛一の「漂流するトルコ 続『トルコのもう一つの顔』」 を読みました。以前読んだ「トルコのもう一つの顔」の続編です。一度目の国外退去で終わっていますが、今回の話は再びトルコへの入国を果たし、波瀾万丈のトルコ調査旅行が始まります。そして、二度目の国外退去までの話になります。トルコの官憲は、まったくうんざりするほど暖簾に腕押し、というか、これはまるでカフカの「城」です。
トルコ、といえば、イスタンブール、いまイスタンブールはオリンピック招致合戦の最中にあります。イスタンブールは、ヨーロッパとアジアの接するところ、そしてイスラム圏から名乗り出た、初めての国でもあります。東京都の猪瀬知事の失言問題が、マスコミを賑わしています。トルコは昔から親日の国、事を荒立てたりはしていません。猪瀬知事は発言を撤回し、東京の「立地」についてのみアピールする構えに転換したようです。
小島剛一の略歴は、以下の通り。
1946年(昭和21年)、秋田県に生まれる。
1978年、ストラスブール大学人文学部で博士号取得。
現在はフランスで自由業。専攻は言語学と民俗学。
著書:「トルコのもう一つの顔」(中公新書)1991年
「ラズ民謡集」(Chiviyazilari イスタンブール、2003年3月)
「ラズ語文法」(Chiviyazilari イスタンブール、2003年7月)論文
「三省堂言語学大辞典」の「ザザ語」の項など、多数。
漂流するトルコ 続「トルコのもう一つの顔」
2010年9月15日初版第1刷発行
著者:小島剛一
発行所:有限会社旅行人
名著「トルコのもう一つの顔」から20年。著者渾身の続編がついに完成!
弾圧され続けた、トルコの少数民族の言語と、その生活の実態を明らかにした画期的トルコ紀行
政府に弾圧され続けるトルコの少数民族の言語と、その生活の実態を、スパイと疑われながら、調査し続けた著者。前著「トルコのもう一つの顔」(中公新書)が、まるで推理小説のようなスリルに満ちた物語と、著者の少数民族に対する愛情に涙が出たと絶賛され、長らく続編が待望されながら20年。
前著でトルコを国外追放されたあと、再びトルコに入国を果たし、またもや波瀾万丈のトルコ旅行が開始される。著者の並外れた行動力と、深い知識、鋭い洞察力が生み出した画期的トルコ紀行!
前書に書いた主要項目
1.建国以来トルコでは「トルコ共和国にトルコ語以外の言語は存在しない」という建前になっていたこと。
2.それが事実無根であることを言明したために逮捕投獄されたままの人が数知れないこと。
3.筆者にはその事情が分かっていたために「一介の観光客」として人知れず長年月をかけて少数民族諸言語を習得していったこと。
4.デルスィム語域で理由もわからず夜中にホテルで憲兵隊に叩き起こされた挙句に身柄を拘束されたエピソード。
5.その帰路アンカラでたまたま知り合ったトルコ人外交官Y氏との親交。
6.Y氏のおかげで1986年の夏「クルド語、ザザ語、ラズ語などの臨池調査許可」を得た紆余曲折のいきさつ。
7.公式に言語研究者としてザザ語やラズ語域を再訪したときの官憲や随行員との駆け引き。
8.その合間を縫っての虐げられた少数民族との交流。
この公式調査中、ラズ語域で結婚式の披露宴に招かれたときにラズ民謡を一曲ラズ語で歌おうとして官憲に妨害され、調査は中断されてしまった。アンカラまで護送されて外務省で「トルコ国外へ自主退去勧告」を下されるに至り、イスタンブール経由で陸路ギリシャに抜けたところで、前書「トルコのもう一つの顔」は筆をおいた。刊行直後から「続きが読みたい」という声は多数あったが、さまざまな事情で先延ばししているうちに、早くも20年近い年月が経ってしまった。
トルコが共和制樹立の際に多言語・多民族の事実を否定して「トルコ共和国は単一言語・単一民族国家である」という幻想を国是にしてしまったことは、現在に至るまで底知れない禍根を広汎に残している。トルコ国民は数世代にわたって、小学校に入るとすぐに強制的にその国是を暗唱し復唱することを教え込まれたのである。公の場で少数民族語を話したという「罪状」で何年もの獄中生活を余儀なくされた人も少なくない。
さあ、そろそろ結論を、とまでいかなくてもなんとかこの記事を終了させなければ、と思っていると、朝日新聞夕刊(2013年6月1日)に「トルコ数千人デモ 五輪開発への抗議発端」という記事が載っていました。2020年夏季五輪のイスタンブール招致をめざす政府は、タクシム地区の再開発に着手。その一環として、公園の樹木を伐採してショッピングモールにする計画がある。環境活動家らは「市民の声を無視している」と撤回を求め、数百人が5月27日から座り込んでいました。タクシム広場は、新市街側のイスティクラル通りのホキ単にある、イスタンブール一番の繁華街です。5月31日、近くの公園の取り壊しに反対するデモ隊を、警官隊が大量の催涙弾などを使って強制排除したという。親イスラムの公正発展党(AKP)は02年の総選挙で政権に就いて以降、高い経済成長を実現。国民の支持は高い物の、世俗野党は、エルドアン首相を「独裁的」と批判してきた。強制排除を機にエルドアン氏に対する世俗派の不満が一気に噴き出した形だと、記事は伝えています。
小島の略歴にも挙げてある通り、2003年には「ラズ民謡集」や「ラズ語文法」が、曲がりなりにもトルコ国内で刊行されています。小島にラズ語を教えてくれた人たちに文法書を進呈して廻り始めた日から、胡散臭い人物画小島の周りに寄ってくるようになります。そして見当外れの質問ばかりをします。いくつの言語が話せるのか。なぜラズ語のような「何の役にも立たない」言語を研究するのか。スポンサーは誰か。ラズ語はトルコ語の方言ではないのか。研究はいつ終わるのか。ラズ人の起源は何か・・・などなど。ある日の夕方、「MIT(トルコ諜報機関)の者です」とおっぴらに言う男が憲兵に連れられてやって来ます。
小島は二度目の国外追放の日がぐんぐん迫っていることを予感します。自国の言語事情を間接的で不正確な報告でしか知らないトルコ人為政者の判断で、少数民族語を会さないために少数民族を恐れている一握りの軍人と政治家の判断で、「トルコ共和国にトルコ語以外の言語は存在しない」という幻想の国是を言い続けることができなくなって、小島を逆恨みしている連中の判断で、国外追放が決定されるのです。海辺近くの食堂で昼食をとっていると、至福の男が4人、食事中の小島を取り囲み、「警察の者ですが、日本人のゴーイチ・コジマさんですね」と問いただします。警察の車で空港に送られ、翌日未明の飛行機で国外追放ということになります。
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