八王子夢美術館で「坂本一成 住宅めぐり」を観てきました。偶然、この展覧会が開催されていることを知り、時間の都合をつけて八王子まで行ってきました。坂本一成の建築展は、2008年に東京工業大学百年記念館で開催された「坂本一成建築展 日常の詩学」を観たことがあります。今回の展覧会は大筋では前回とほとんど同じですが、新たに区分けして加わったのは「Social Buildings」の項目です。「コモンシティ星田」以降、集合住宅などの他に、「東工大蔵前会館」(2009年)や、「宇土網津小学校」(2011年)などでした。
坂本はいわゆる住宅作家で、東工大の篠原一男の直々の弟子にあたります。代表作である「水無瀬の町家」(1970年)の他に、「雲野流山の家」1973年、「代田の町家」1976年、「南湖の家」1978年、「今宿の家」1978年、等々、70年代は次々と住宅作品をを作り続けます。その頃「都市住宅」という建築雑誌があり、若い建築家のほとんどが購入していました。「都市住宅」のスター建築家は、宮脇壇や東孝光でした。そして坂本一成の住宅作品も次々と「都市住宅」に掲載されました。坂本の師である篠原一男も、次々と話題作を発表していました。
つい最近、秋山さんのブログで知ったことですが、秋山東一は1942年生まれ、立川高校13期、坂本一成は1943年生まれ、立川高校14期、野沢正光は1944年生まれ、立川高校15期、偶然にも同じ高校だったようです。立川高校卒業後、秋山と野沢は芸大建築へ、坂本は東工大建築へ。大学卒業後は、秋山は東孝光の事務所に入り、野沢は大高正人の事務所に入ります。坂本は東工大篠原スクールというわけです。3人とも、出発は住宅でした。芸大は、吉田五十八や吉村順三の指導のもと、東工大は、谷口吉郎、清家清、篠原一男の指導のもと、日本の建築界を代表する建築家を数多く輩出しています。
もちろん、坂本の初期の住宅作品にも影響されましたが、僕が衝撃を受けたのは「House F」(1988年)でした。雑誌に載った写真を見て、こんな住宅ができるんだと、驚きました。それが後の「コモンシティ星田」(1991-92年)につながるわけですが。(以下、解説は図録による)
「House F」1988年
「祖師谷の家」から、7年ぶりに発表された住宅。「Project KO」での試みを発展させて、「自由な架構と広がりの領域」を実現させた。鉄筋コンクリート造の壁から離れて鉄骨の柱が立ち、その上に細い斜めのパイプでつながった折板の屋根が架かる。その下には、様々な高さの床が場所に応じて設定され、壁は天井まで達せず必要な高さで領域を仕切る。この住宅では、床、壁、天井画独立し、それぞれに展開している。
「コモンシティ星田」1991-92年
「戸建て住宅における共有化」をテーマにしたコンペティションの1等案。2.6haの敷地に、112戸の戸建て住宅と緑道、集会施設などが建設されている。斜面の住宅地では各住戸を建設する前に雛壇状に造成しておくことが当たり前だが、ここで採られたのは地形をそのまま残すスロープ造成。各住戸は1絵画鉄筋コンクリート蔵、2階が鉄骨蔵で、1階部が擁壁を兼ねている。住戸をつくることにより、住宅地をデザインするという手法だ。
「Project AO」2011~
計画中の住宅プロジェクト。敷地の片側が急斜面となって落ちている敷地で、周囲の条件を勘案しながら、必要とされる空間を縦方向に積んでいる。ここでも採られているのは、床レベルを微妙に違えながら、つなげていく手法。断面における綿密な検討が、この作品でも行われている。
「水無瀬の町家」1970
「散田の家」にも見られた入れ子状の空間配置を踏襲する一方で、正方形の平面や中心の柱といった形式性は失われた。壁の配置も敷地の条件に合わせて、微妙に揺らいでいる。建物の高さは1階建てと2階建ての中間的なスケール。外壁は「やりっ放し」といわれる凸凹のあるコンクリートに、銀色のペンキを塗って仕上げている。虚構的であると同時に実在的。象徴的であると同時に物質的。坂本作品の特徴である両義性が、幾重にも織り込まれた初期の代表作。
「坂本一成 住宅めぐり」
坂本一成(1943~)は八王子出身、日本を代表する建築家の一人です。氏は東京工業大学および大学院で篠原一男に建築を学び、その後武蔵野美術大学で助教授、東京工業大学で助教授、教授として後進の指導にあたりながら、住宅を中心に作品を発表してきたプロフェッサーアーキテクトとして有名です。東京工業大学坂本一成研究室からは現在、建築界においてその活躍がめざましいみかんぐみの曽我部昌史、アトリエ・ワンの塚本由晴や西沢大良などを輩出し、その師としても坂本の名は知られています。氏の作品を読み解く上で特に触れておきたいのは、氏の「建築を自由にする」姿勢です。この姿勢は設計上の物理的制約からの自由を単に指すだけではなく、社会や生活の中にある建築や住宅の既存の有り様からの自由をも示します。例えば、私たちにとって馴染みのある住宅の間取り、いわゆるnLDK(リビング・ダイニングキッチン)タイプは氏の住宅で使われることはありません。代わりに、例えば、「代田の町家」(1976年)に顕著に見られるように中心となる部屋を主室、そして室と室をつなぐ間室、中庭は外室といったように部屋を場所との関係の中で位置づける間取りとしています。これは生活様式の内容まで含むいわば用途を前提とした室名が住宅の構成を不自由なものにしていると氏が考えるからに他なりません。この事例のように「建築を自由にする」姿勢は今日まで一貫する氏の重要な作品の特徴といえるでしょう。展示では、1969年から2011年の間に氏が設計した作品のうち「水無瀬の町家」(1970年)、「House F」(1988年、日本建築学会賞作品賞)、「コモンシティ星田」(1991-92年、村野藤吾賞)、「House SA」(1999年)など20件を、模型とまるでその場にいるかのような巨大建築写真タペストリーで紹介。加えて現在計画中の住宅「Project AO」も1/3サイズの模型で初公開します。本展では氏の作品を通じて、私たちが普段あまり意識せずに住む住宅のあり方について改めて考えます。
図録
2013年5月17日発行
監修:坂本一成
制作・編集:高木伸哉+磯達男+山道雄太
/株式会社フリックスタジオ
発行所:株式会社フリックスタジオ
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