ニューオータニ美術館で「ジャパン・ビューティー 描かれた日本美人」を観てきました。明治・大正期から昭和の戦前期までの近代日本画における日本女性の輝きを描いた「美人画」展です。この展覧会は、浮世絵のコレクターとして知られる中右瑛氏の主導で形成された「朝比奈文庫」から、これまで纏まった形では後悔されたことのない美人画コレクションが紹介されていました。
明治・大正期から昭和初期にかけて活躍した美人画の三大巨匠と謳われた上村松園、鏑木清方、伊東深水をはじめ、竹久夢二、山川秀峰、池田輝方、池田蕉園、栗原玉葉、北野恒富、寺島紫明、伊藤小坡、島成園、中村大三郎のほか、大正期のデカダンスを代表する岡本神草、甲斐庄楠音などを含む、画壇で実力を発揮した日本画家たちの妖艶優美な作品を観ることができました。
僕が一番に注目したのは増原宗一の「いれずみ」、背に龍と火炎の刺青のある長髪の裸女が、湯気たちのぼる浴室内で、浴槽に右手を伸ばしてもたれかかっている様を凄艶に描いた作品です。次に、山口八九子の「桜花を見る舞妓」、蝶に心を奪われたのか、丸顔の舞妓が口を開けたその表情は、どこか戯画的で洒脱です。桜のゴツゴツした樹木や、舞妓の着物や帯は色遣いも豊かで力強く、美しい。
今回の目玉は、チラシにもなっている栗原玉葉の「朝妻桜」でしょう。満開の桜を愛でながら、散りゆく花の儚さに自らの運命を重ねる吉原の遊女朝妻を可憐な立ち姿で描き、首にかけられたロザリオは、死への旅立ちを意味します。そしてもう一つ、島成園の「舞妓」です。成園は恒富の影響は色濃いが、、描く対象としての女性像に自らの姿を重ね合わせる作品を描くなど、女性自身がとらえる女性像の凄絶な表現を目指す点で、恒富の美人画よりも更に現実的な迫力と凄みを持っているかもしれない、と菊屋吉生はいう。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 雪月花
第2章 四季の風情
第3章 心の内と外~情念と装い
第4章 技芸と遊び
小林忠は「美しい近代日本女性の絵姿」と題して、図録の巻頭で以下のように述べています。
東京画壇であれば、歌川派系の浮世絵の流れにつながる鏑木清方とその門流、たとえば伊東深水、山川秀峰、小早川清や鳥居言人、あるいは清方と同じく水野年方門下の池田輝方とその妻池田蕉園には、同じ流れにつながる等質性と求めた美質の違いとを、併せて味わい分けることができるだろう。一方、京都画壇であれば、円山四条派の伝統を受け継いだ上品で温雅な上村松園や伊藤小坡と、その対極にあるような、祇園井特や三畠上龍にも淵源を曳くかと思われるデロとして妖艶な岡本神草や甲斐庄楠音などの女性表現に、大きく二分される。さらには大阪ならではの都会的で清澄な画風を開いた北野恒富を加えて、三都市それぞれの文化的風土を農耕に伝えた画家たちの活動ぶりが、興味深く受信できるに違いない。
また、多くの男性画家に対抗して、同性ならではの感覚と視覚で日本女性の美質を理想化して突き詰めようとした、女性画家の一群も活躍している。「閨秀美人画家の三園」とうたわれた上村松園、池田蕉園、島成園のほか、伊藤小坡や梶原緋佐子らの作風には、いずれも共通して、同性のかもし出す美しさへの親しみとあこがれとが宿されているように思われる。
また図録では、「日本画における美人画の変遷(明治・大正・昭和初期)」と題して、菊屋吉生の論文が載っており、作品と作家について詳細な検討を加えています。その中で菊屋は、今回の展覧会の特色は、これまでよく知られた美人画の巨匠の作品のほかに、むしろ今までよく知られていなかった作家の作品を多く取り上げていることだと述べています。いずれにせよ、これだけの作家とその作品を網羅した展覧会は初めてのことであり、その図録の出来栄えも見事なものです。
第1章 雪月花
第2章 四季の風情
第3章 心の内と外~情念と装い
第4章 技芸と遊び
知られざるプライベートコレクション
「ジャパン・ビューティー 描かれた日本美人」
美人、すなわち美しい女性を描くことは、日本美術の長い歴史における重要なテーマの一つです。 このジャンルで活躍した近代の日本画家たちは、技法や形式において伝統を継承しながらも革新的な表現を模索し、多様な人物表現を試みました。明治、大正、昭和初期に絶大な人気を博した「美人画」に注目し、三大巨匠と謳われる上村松園、鏑木清方、伊東深水の作品をはじめとする約80点を、前期・後期に分けて展観します。日本の四季、風俗、歴史、文学に着想を得た女性表現の多様性と、その姿に託された理想美をお楽しみください
ジャパン・ビューティー
描かれた日本美人
図録
展覧会監修:菊屋吉生(山口大学教育学部教授)
編集:小川知子(大阪市立近代美術館建設準備室主任学芸員)
南由紀子(アートシステム)
発行:アートシステム
2013年3月発行
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