「かわいい江戸絵画」の後期を観ようと府中市美術館へ行きました。いつも入る正面玄関ではなく、なぜかカフェのある裏口の方から入りました。カフェとは反対側、受付や売店のある方へと歩き出したところ、市民ギャラリーでの催し物が目に入りました。「山紫水明の彩墨画家」とありました。いわゆる水墨画と違って、会場が妙にカラフルで明るい。これは「江戸絵画」を観た帰りに必ず寄ろうと思いました。
「かわいい江戸絵画」の会場に入ったら直ぐに、若い女の人が近寄ってきました。そうなんです、家人の姉の娘、つまりは姪っ子というわけです。結婚はしているのですが、若い頃からもう10数年、府中市美術館で監視員のアルバイトを続けているようです。以前映画「クリムト」を観た時に、以下のように書きました。
そうそう、クリムトの「パラス・アテネ」が来るというので、府中市美術館へ観に行ったときのことを思い出しました。なんという展覧会だったのか覚えていませんが、この「パラス・アテネ」だけは他の展示物に比べて一つだけ異質に見えた記憶があります。比較的すいていた館内で「パラス・アテネ」を観ていると、突然「おじさん」という声が後ろから聞こえて驚きました。府中に住んでいた家人の姉の娘、つまり姪が、美術館の監視員のアルバイトをしていたのでした。まさかそんな場所で会えるとは思っても見ませんでした。あとで調べてみたら、以下のような展覧会でした。「ウィーン、生活と美術 1873-1938(クリムト、シーレと黄金期のウィーン文化)」展(2001/03/30-04/22)
帰りがけにまた姪がまた近寄ってきて、1階の市民ギャラリーで水墨画の展覧会をやっているから是非見て行ってください、と言われました。それが。「山紫水明の彩墨画家 宮本和郎展」だったというわけです。「彩墨画」という墨と顔料を用いた独特の描法、しかも描く対象が、一般によくある水墨画とは異なります。のびのびとして明るい作品が多いようです。マッターホルンなど、スイスの山並を描いたかと思うと、一転、屋久島の切株を描いたりしています。そうかと思えば、甲州の山路にある民家を描いたりもしています。育ったばかりの筍を描いたり、使い込まれた背負い篭を細密画風に描いています。スケッチの状態で完成、という作品も多いようです。いわゆる日本画風の絵画は「藪椿図」1点のみだったように思います。
宮本和郎はある会合で、「日本画のたどってきた道と私の創作」と題して、以下のように述べています。
人間は自然とどう向きあって生きてゆけばよいのだろうか、そして美術はそれとどう関わってゆけばよいのだろう。いま、それが改めて問われている時だと思います。明治以後の日本の近代化は、地球の生命そのものを縮めようとしています。西欧の絵画が人物・風景・人物画と分類されてきたのに対し、日本、アジアでは人物・山水画・そして花鳥画と呼び分けてきました。花鳥画とは「厳しい自然条件の中で生を育むものと人間との一体化した姿だ」と思います。一部を残して鎖国政策をとった江戸時代は、さまざまな優れた文化を生みだしました。小さな窓(長崎の出島)から丸山応挙、渡辺崋山たちは、西欧の多くのものを吸収し、模倣ではない独自の世界を築きました。貧才にもかかわらず、私はその時点から視つめ直して描き続けようと思っています。(2012.3 宮本和郎)
宮本和郎:略歴
1936年、東京・日野市に生まれ、15歳より府中市に住む。東京藝術大学日本画科卒業。現在、日本美術家連盟、日本美術会、日本山林美術協会会員。公募展、グループ展に出品のほか、山形、群馬、東京、山梨、名古屋、大阪などで個展、企画展などを30数回。著書に画集「スイス・アルプス花の旅」「墨で描く基本」画文集「山里の彩譜」「四季の花」シリーズなど10冊。
「山紫水明の彩墨画家 宮本和郎展」
彩墨画という墨と顔料をもちいた独特の描法で、どこまでも澄みわたる山岳風景、瑞々しい野の花々を描くことで知られる在住作家宮本和郎氏の近作を展示します。宮本和郎さんは、武蔵野をはじめとして、甲州、日本アルプスそして遙かにスイス連山など、水・山・空・澄み切った自然の美を求めてきました。伝統的な水墨画の手法を守りながらも、色と墨線を惜しみながら描く彩墨画という手法を手がけられておられます。宮本さんが画題を選ぶのは、「切り花」ではなく、決まって「寝付き・泥付き」の植物、つまり生きたままの植物たちです。足下の小さきイノチたちにも宮本さんの優しい眼差しが向けられています。悠久の自然の中で、季節ごとのほんに一瞬に咲き乱れる小さき花々や果実、そして野菜たち。宮本さんは、描くべきテーマを「清らかな生命」とし、名もなき植物たちの中に確かな命のつらなりを見出し、優しい眼差しで描きつづけておられます。
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