町田市立国際版画美術館で「空想の建築―ピラネージから野又穫―展」を観てきました。観に行ったのは4月13日(土)、展覧会開催初日で、なぜか入場料は「無料」でした。
もちろん、「空想の建築」といえばピラネージ、僕がピラネージの作品を、初めて纏まって観たのは、町田市立国際版画美術館での「ピラネージ版画展2008」でした。その時は感動のあまり、ピラネージの版画と、僕が観たローマの風景とを重ね合わせて、ブログに載せた記憶があります。建築の世界ではピラネージの名前はよく聞きますが、町田での「版画展」と、その時の図録ほど、ピラネージの全貌を紹介しているものは他にありません。西洋美術館で「牢獄」だけを取り上げた版画展を観た記憶がありますが・・・。そんなこともあってか、アセテートで刊行していた「ピラネージ建築論 対話」(2004年10月31日発行)を手に入れて、一度は読んだのですが、まだブログには書いていません。国立西洋美術館で開催された「ユベール・ロベール―時間の庭―」で分かったことは、ピラネージがユベール・ロベールのイタリアでの師だったことです。
ピラネージの描いたエッチングはローマを訪れた旅行者の手に渡ってヨーロッパ中に広まり、古代ローマやギリシャについて人々がそれまでもっていた観方を、すっかり変えてしまった。ピラネージの描いた古代建築は、それまでの明るく澄み切った均衡のとれた世界ではなく、暗く、逆巻く、崩壊していく世界であった。美は、ここにおいては、心安らぐ、きれいなものではなく、むしろ、恐ろしいもの、曖昧なものとして提示される。・・・ジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージ(1720-78)は、ヴェネチアに生まれ、ローマで仕事をした建築家であった。しかし彼が実際に建てることのできた建物は、マルタの騎士団のためのローマの教会、サンタ・マリア・プリオラートのみであった。ピラネージの想像力は、むしろドローイングそのものの中で爆発した。図面は建築を実現するための手段ではなく、図面そのものが建築となったのである。(香山壽夫著「建築家のドローイング」より)
ピラネージの他に、建築のドローイングとしてよく出てくるのはルドゥー、ソーン、シンケルです。この3人の略歴を以下に載せておきます。(香山壽夫著「建築家のドローイング」より)
クロード・ニコラ・ルドゥー(1736-1806)は、フランス革命の時代を生きた建築家で、貧しく生まれた彼は銅版画家として出発した。この技術が晩年自らの作品をまとめた図版集「芸術、習慣そして法律との関連で構想された建築」(初版1804、増補版1847)において実を結んだ。しかし彼の建築は余りにも革新的なものであり、依頼された建築も実現されずに終わることが多かった。ルドゥーは、ギリシャ・ローマの古典建築を愛し、ルネサンスの建築家パラディオを尊敬した古典主義者であり、しかし、モダニズムの先駆けでもあった。
サー・ジョン・ソーン(1753-1837)は、イギリスの生んだ最も独創的な建築家であり、イギリス新古典主義の建築家である。彼もイタリアへ旅し、1780年にロンドンへ戻って、実務を開始した。彼の生涯をかけた壮大な仕事は、1788年に始まるイングランド銀行の設計である。複雑な要求に基づく大小の空間を、古典的な軸構成による手法を自由に駆使して解決し、また意匠的には幾何学的に単純化した古典様式によって、ロマンチックで変化に富む空間を生み出した。
カール・フリードリヒ・シンケル(1781-1841)は、ドイツ19世紀の最大の建築家であり、プロイセンに生まれ、プロイセンにおいて作品を残した。今日、ベルリンの中心地区を構成しているシャオシュピールハウス(音楽堂)やアルテス・ムゼウム(美術館)といった記念的な建築は、1816年から30年にかけてシンケルの設計によって出来上がったものである。いずれも厳格な古典抄紙機、特にギリシャ様式に従っている。力強く、格調高い衣装は、民族の統一を目指し、誇りに満ちた国家の精神を高らかに示すものであった。
朝日新聞日曜朝刊に「ザ・コラム」という論説があり、そこに書かれている絵が妙に建築的で、この人はどんな人だろうと、以前から注目していました。それが野又穫ということはつい最近知りました。今回、「空想の建築」の他に、関連企画として野又穫ドローイング展「ELEMENTS-あちら、こちら、かけら」が開催されていました。そこでは野又ワールドの原型とも呼ぶべきドローイング約80点が展示されていました。これは約2年にわたって朝日新聞の挿絵として掲載されていたものの原画展でした。野又穫は1955年生まれ、東京芸術大学美術学部形成デザイン科を卒業後、1986年に初の個展を開催し、現在まで一貫して空想の構造物を描いてきました。
最終章、Ⅴ.逍遙せよ、空想建築の森を、では、野又穫が1980年代から最新作であるピラネージへのオマージュ三連作までを含む35点の作品が展示されています。
展覧会の構成は、以下の通りです。
Ⅰ.空想の古代 Part1 エジプトへの憧憬
Ⅱ.脳内に構築せよ、空想の伽藍を コイズミアヤ(1971-)
Ⅲ.空想の建築―その系譜―紙上の建築家たち
1.ルネサンスからバロック、そして近代へ
2.物語を紡ぎだす幻想の建築
3.幻影の建築劇場
4.近代都市の幻想―魔都出現
Ⅳ.空想の古代 Part2 ピラネージの見た夢―壮麗なローマ
Ⅴ.逍遙せよ、空想建築の森を 野又 穫(1955-)
Ⅰ.空想の古代 Part1 エジプトへの憧憬
<ピラミッド幻想> 阿部浩(1946-)
Ⅱ.脳内に構築せよ、空想の伽藍を コイズミアヤ(1971-)
Ⅲ.空想の建築―その系譜―紙上の建築家たち
1.ルネサンスからバロック、そして近代へ
2.物語を紡ぎだす幻想の建築
3.幻影の建築劇場
4.近代都市の幻想―魔都出現
Ⅳ.空想の古代 Part2 ピラネージの見た夢―壮麗なローマ
Ⅴ.逍遙せよ、空想建築の森を 野又 穫(1955-)
「空想の建築―ピラネージから野又穫―展」
この世にはない建築を空想すること、それは私たちが今、存在している世界とは別の世界を空想し、その世界に形をあたえることかもしれません。だとすれば空想の建築群は、人間のイマジネーションと創造力を駆使して生み出されるもうひとつの世界、<アナザーワールド>への入り口ともいえるでしょう。本展ではヨーロッパの古い版画から現代美術へ、時空をも飛び越える<空想の建築群>を展示し、世界を空想の建築というかたちで目に見えるものにしようとした人々の系譜をご紹介します。絵画、立体、版画 … さまざまなかたちで人は現実には存在しない建築を創造してきました。本展では、遥か古代ローマに思いを馳せ、その空想的復元を版画として結実させたジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージや、壮麗なバロック的空間を描いた<紙上>の建築家たち、考古学的調査と想像力を駆使して古代エジプトの建造物を描いた18 世紀末の絵師たち、そして今まさに創作活動を展開している現代の美術家までをとりあげます。それにより、空想によって構築された建造物の面白さ、美しさを探ります。世界を空想の建築というかたちで目に見えるものにしようとした人々の系譜が浮かび上がることでしょう。昨年25 周年を迎えた国際版画美術館が、新たな飛躍をめざしてスタートを切る2013 年春、この展覧会は版画のみならず、絵画や立体、書籍など、変化に富んださまざまなタイプの作品によって、見る者を遥かな世界へと誘うことをめざします。ヨーロッパの古い版画から現代美術まではばひろく<空想の建築群>を渉猟する得がたい機会となるにちがいありません。また本展開催にあわせ、特別展示として、出品作家の一人である野又穫(のまた・みのる)のドローイング展『ELEMENTS-あちら、こちら、かけら』を開催いたします。あわせて、ぜひご観覧ください。
「ピラネージ版画展2008―未知なる都市の彼方へ―」
企画構成:
佐川美智子(町田市立国際版画美術館)
新田建史(静岡県立美術館)
編集:
町田市立国際版画美術館
発行:
2008年10月4日
発行日:2004年10月31日発行
著者:G・B・ピラネージ
訳者:横手義洋
校閲者:岡田哲史
編集:中谷礼仁、北浦千尋
発行者:中谷礼仁
発行所:編集出版組織体・アセテート
1994年11月21日初版
著者:香山壽夫
発行所:東京大学出版会
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