「一時的に在庫切れ; 入荷時期は未定」だった本谷有希子の「嵐のピクニック」(講談社:2012年6月刊)、アマゾンに注文しておいたのがやっと届き、一気に読み終わりました。4月6日、この作品が第7回大江健三郎賞を受賞したことは、新聞紙上に掲載されていました。すかさず本屋へ走り、群像2013年5月号を入手、大江さんの「選評」を読みました。もちろんその時点では本文を読んでいないので、「選評」も実感のないまま読んだわけです。その辺りの経緯は以前、ブログに書いておきました。
講談社の「内容紹介」では以下のようにあります。
可笑しいけれど、どこかブラック。ワクワクするほど、不思議でキュート。
リアリズム、ファンタジー、恋も、ホラーも、クラシカルからモダンまで――。
異才・モトヤがその想像力のすべてを詰め込んだ、13の“アウトサイド”な短篇集。
――さあ、“アウトサイド”へ飛び出そう――
優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気を描く「アウトサイド」、ボディビルにのめりこむ主婦の隠された想い(「哀しみのウェイトトレーニー」)、カーテンの膨らみから広がる妄想(「私は名前で呼んでる」)、動物園の猿たちが起こす奇跡をユーモラスに綴る「マゴッチギャオの夜、いつも通り」、読んだ女性すべてが大爆笑&大共感の「Q&A」、大衆の面前で起こった悲劇の一幕「亡霊病」……などなど、めくるめく奇想ワールドが怒濤のように展開する、著者初にして超傑作短篇集!!
短編集「嵐のピクニック」は、大江さんに倣うと「ゆったり組んだ四六変形判で、だいたいの長さをページ数で示しますが、10ページまでのもの7編、20ページ1編、その中間が5編の本です」とあります。一番短いのが「パプリカ野郎」で7ページ、一番長いのが「悲しみのウェイトトレーニー」で20ページです。
大江さんは、「英語圏の、上等な紙に刷ったハイブローな雑誌にしっくりする短編なのに、どう分類して良いか迷う、しかしとにかく面白い小説」、「しかしそうした作家たちの文学的評価と言うことでは、『奇妙な味』の、というくくりによってエンターテインメントの特別席に限られて、自由に行われることのなかった」短編、ロアルド・ダールや筒井康隆を例に挙げていますが、先日も芥川龍之介の短編を少し読みましたが、本谷有希子の短編は表現や発想が非日常的・超現実的であるシュールさがあり、確かに「奇妙な味」といえそうです。なにが奇妙かは読んでみないと分かりません。
「アウトサイド」は、思春期に9年間もピアノを習っていながら入門編のバイエルさえできない問題児だった「私」と、下町の一軒家でピアノを教えている先生の話。
「私は名前で呼んでいる」は、会議中に窓側のカーテンの膨らみが気になって、会議室での部下たちの企画の説明に集中できない女性部長の話。
「パプリカ次郎」は、屋台の売り子として市場に立っていたときに、突然現れては屋台を壊しながら逃げていくアジア系の男ときれいな足の白人の女の話。
「人間袋とじ」は、しもやけを利用して足の小指と薬指をくっつけようとする女と、10年前に彫ったタトゥのお互いのイニシャル「T」と「D」の文字の話。
「哀しみのウェイトトレーニー」は、夫が観ていたボクシング中継から、次の日から突然ボディビルダーを目指すオーガニックストアでレジを売っている私の話。
「マゴッチギャオの夜、いつも通り」は、動物園で、マゴッチギャオという名の猿の檻に、知能の高いチンパンジー、ゴードンが入れられて死んでいく話。
「亡霊病」、あるコンクールで入選し贈呈式の壇上で、次々に挨拶が続く中、「亡霊病」の兆候が現れ始めて、全身に広がりかけている「私」の話。
「タイフーン」は、駅前のバス停で、傘を持ったおじさんが、「3.2.1.」と言うと、傘が風にあおられてナイロンの布地ははぎ取られ、傘の骨が剥き出しになる話。
「Q&A」は、長く続いた悩み相談をQ&A方式で回答してきた家庭と仕事を両立してきた女性が、「私たちがみんな知りたい、今さら聞けない13の質問」に対する回答。
「彼女たち」は、とにかく決闘するとしか言わない彼女、場所は河原でと訊いた。決闘と言えば橋の下。「そのままの君でいて。そのままの君が好きだよ」という男。
「How to burden the girl」は、俺34歳、俺の実家の隣に越してきた彼女は、父親と5人の弟と暮らしている。彼女は外へ出ない、弟たちは一人ずつ減っていることに気がつきます。
「ダウンズ&アップス」は、お世辞ばかりの世界もいいと思っているデザイナーが、ある若者と知り合って本音でデザイン論を戦わし仕事ができる場所をつくらせたが、結局はもとへ戻る話。
「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」は、試着室に入って何時間も出てこないお客を相手に誠心誠意対応する店員の話。(イラスト入り)
「劇団本谷有希子」Website
「群像 2013年5月号」
第7回大江健三郎賞発表
2013年5月1日発行
発行所:株式会社講談社
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