私にとって、永く連れ添える物は、技術の完成度の高さや、めずらしさを誇る美術作品ではなく、用途の為に素材と形が固く結びついた、なんでもない普段使いの日常工芸品で、使われ育まれた物なのだと気がつきました。――坂田和實
坂田和實:
「古道具坂田」主人。1945年、福岡県生まれ。
1973年、目白に古道具屋をひらく。
1994年、千葉県長生郡に美術館as it isを開館。
主な著書に「ひとりよがりのものさし」(新潮社、2003年)がある。
まず始めに脱線ですが、「出品リスト」を見ると2番目に出てきたのが「ブルキナファソ/ニジェール 石像(2)」とありました。ブルキナファソ、この名前を始めて知ったのは、原広司の「集落の教え100」(彰国社:1998年)だったと思います。西アフリカの小さな国で、たしかカラー写真がついていたように思いますが、手元にないので何とも言えません。その前に「集落への旅」(岩波新書:1987年)を出していますが。原は、世界各国の集落を調査してまわり、上の本を出しそして「住居集合論」を出します。いや~、懐かしい。「ブルキナファソ」の出て来る箇所をネットで拾い出してみました。
[13] 複雑さ
複雑なものは単純化せよ。単純なものは複雑化せよ。
その手続きの複雑さが人の心をうつ。
・ ここにおける集落の教え
一つの住居形式 (単純) ⇔ <変形>による多様なもの (複雑)
つまり、(集落において)無限の複雑さを許容するが、それは一つの単純さの中においてのみ。これによ
って成り立つ集落の複雑と単純の関係は同等の物の間の多様性(=パラディグマ)を指し示している。
また、この複雑⇔単純の操作は、パラディグマだけにとどまらない。ここに配置が加わることで、単純
⇔複雑の変化(=シンタグマ)が集落に現れる。
・ 具体例 (ブルキナファソのサオ)
①集落風景が小都市に近い → 複雑
接近した配置により、複雑な重ね合わせが生じている
②集落全体がモノクロームの色調に統御されている → 単純
(穀倉と住居が)同じ土壁で造られている
①と②によってつくられた集落風景から美しい「立体」を感じる。
→パラディグムとシンタグムの複雑さにおける巧妙な交差点が抽出されている
さて「古道具、その行き先」と聞いてふと思い出したのは、「遺留品研究所」のこと。1960年代は、デザイン・サーヴェイなどから、歴史的建造物や民家など、なんでもかんでも保存せよとしていた風向きも、たしか1960年代後半に入って雑誌「都市住宅」に批判を連載していたグループが「遺留品研究所」だったように思います。捜査官が遺留品や痕跡から犯人像を推測するがごとく、街に散在するものや断片からそれらに換喩した人びとの営為を読み取ろうとしたという。
記憶が薄れて、もしかして間違っていたらごめんなさい。いずれにせよその「遺留品」という名称、なんとなく「古道具、その行き先」で思い出したわけです。そのうちに路上観察学会ができて、「トマソン」なる概念が提出されたりもしました。「遺留品研究所や路上観察学会は、観察者と事物の間の境界線を相互浸透的なもの、あるいは読み手とテクストの関係を連鎖的に組み替えられうるものとして捉えたと言えよう」と。(『10+1No.44ARTICLE
笑う路上観察学会のまなざし 都市のリズム分析へ向けて |南後由和 より)
そしてまた、坂田和實が「用途の為に素材と形が固く結びついた、なんでもない普段使いの日常工芸品」というとき、ウィリアム・モリスの述べていることとほとんど同じです。またモリスに端を発した、柳宗悦の民芸運動も思い起こされます。日本民藝館の展示を見ると、かなりの部分、「古道具、その行き先」の展示心と合致しているのではないでしょうか。
白洲正子氏旧蔵の「奈良朝土管」にはなぜか笑っちゃいましたけど、村上隆氏蔵の「フランス、リモージュ鍍金七宝十字架」は素晴らしい芸術作品です。また「イギリス 革製ジャグ」や「朝鮮 李朝 床板」もいいものです。淀井敏夫氏旧蔵の「スペイン/フランス 木彫彩色聖母子」も素晴らしい。「コーヒー用ネル布」や「おじいちゃんの封筒」にはまいりました。展示の仕方でこうも変わるのかと。「洗濯用カゴ」、うちにもありましたね。「フランス 機内食用フォーク、スプーン、ナイフ(AIR FRANCE)」は、見覚えがありますね。
「古道具、その行き先 坂田和實の40年」
1973年に古道具店を開いて以来、坂田和實の提案してきた美学は着実に共感者を増やしてきました。今やその影響は骨董のみならず、雑貨、ファッション、インテリアなど広範囲にわたって着実の定着しています。美意識の開拓者として、現代のライフスタイルを導いてきた坂田自身のルーツと展開をたどり、現在の境地までを、これまで直接、間接に関わった数々のものたちにより紹介する展覧会です。
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