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小原二郎の「ウィリアム・モリス ラディカル・デザインの思想」を読んだ!

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小原二郎の「ウィリアム・モリス ラディカル・デザインの思想」(中公文庫:1992年5月10日初版発行、2011年2月25日改版発行)を読みました。最近、大内秀明の「ウィリアム・モリスのマルクス主義 アーツ&クラフツ運動を支えた思想」(平凡社新書)が出たので、それと関連して「ウィリアム・モリス ラディカル・デザインの思想」も併せてアマゾンへ注文しました。


ところが「ウィリアム・モリス ラディカル・デザインの思想」は、以前「中公新書」で出ていたものと同じで、ただ体裁だけを文庫に変えただけのものでした。僕が最初に読んだのは、たぶん昭和55年頃だったと思います。どうも僕が読んだのは第3章までのようで、第4章、第5章は、肝心の箇所なのにまったく記憶がありません。いずれにせよこの本は「モリス研究」の最も重要な古典と言えます。実はもう何年も、ウィリアム・モリス関連の展覧会が開かれるたびに、小野二郎の新書版「ウィリアム・モリス」を読み直さなくちゃ、と思い続けてきましたが、結局は今まで読めませんでした。


新書版と文庫版、まったく同じなのかと言えば、実はそうではなく、文庫版には「参考文献」もかなりの量が追加されているし、「モリス関係年譜」、「モリス・ガイド」、「モリス著作リスト」も追加されていました。また、小野二郎の妻の小野悦子による「ケルムスコット・プレスの設立まで」という文章も、新書版にはなかったものが追加されていました。写真類も新書版では各ページに白黒で入っていたのが、今回の文庫版ではカラーで7ページが追加され、モリスのプロフィール写真も載せてありました。やはり小野二郎が言いたかったのは、「ラディカル・デザインの思想」についてです。第4章コミットメント、第5章ユートピアの部分です。なかなかすんなりと理解できずにいますが・・・。


この本を紹介した文章を、以下に比較してみます。

まずは新書版。力がこもっています。

天性の詩人・ユートピア論に卓見を示した社会主義者・政治運動か・そしてすぐれた理論と実績を残した工芸家――19世紀イギリスの偉大な星、ウィリアム・モリスの多彩をきわめた足跡は今日もさまざまな分野に大きな影響を与えている。本書はデザイン思想を中心にしてモリスのみずみずしい精神の発露をあますところなくとらえ、その今日的な意味を描き出す。豊かな想像力と豊富な資料を駆使して浮き彫りにするユニークなモリス像。

次に文庫版。じつにアッサリとしています。

天性の詩人、真の人間解放を求めユートピア社会主義に傾倒したモリスは、一方アーツ・アンド・クラフツにすぐれた理論と実績を示した工芸家でもあった。今日あらためて大きな関心が寄せられているモリスの業績を、そのデザイン思想を軸にたどる。


「小芸術(レッサー・アーツ)」など、モリスの基本的なデザイン思想のほとんどは、たぶん学校で習ったと思います。と思って教科書を調べてみたら、「過去の模倣から脱出することを試みた最初の運動はアール・ヌーヴォーである。これはイギリスのラスキン、モリスらの理論の影響を受けたもので、ベルギー、フランスにおこり、直ちに世界各国へ伝わった」とあるだけで、モリスについて詳しいことは書いてありません。そうなると、建築史の先生が授業で解説しただけだったのかもしれません。


教科書以外でモリス関連の著作は、小野二郎の新書版しかありませんでした。だいぶ後になってから、芸術新潮の「ウィリアム・モリスの装飾人生」(1997年6月号)は、カラー写真をふんだんに使った、やや漫画チックな編集で、いま見直してみると、たいへん分かり易い構成でした。第1章ウィリアム・モリスとは何者か? 第2章モリスの恋と結婚 第3章モリス、会社を興す! 第4章楽園か?不倫の館か?ケルムスコット・マナー 第5章正義と癒しを求めて そしてエピローグ、モリスの夢の後始末、となっていました。



ウィリアム・モリスについて分かり易く書いてあるので、小野悦子による「ケルムスコット・プレスの設立まで」から、以下に引用しておきます。


ウィリアム・モリスは、信じられぬほど多方面にわたる様々な業績を残し、1891年のケルムスコット・プレス設立を最後に1896年、62歳で世を去った。彼の影響はイギリス国内にとどまらず、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本へと及んだ。世紀末にパリに台頭したアール・ヌーボー、オットー・ヴァーグナーを指導者とするウィーン分離派運動、グロピウスの設立したバウハウス、そして日本の柳宗悦の民芸運動等はすべてモリスに端を発しているのである。


詩人として世に名をなし、文学者として数多くの作品を残し、アイスランドの伝説やギリシャ古典を翻訳し紹介する一方、染色を研究・実践し、タペストリーを織り、書物の挿絵用の木版を彫るといった美術工芸職人の仕事をやり、壁紙、チンツ、タペストリー、カーペット、家具、ステンドグラス等のデザイナーとして、自らモリス商会を経営士、実業家の役割も果たし、また中世彩飾写本や初期刊本の蒐集をし、カリグラファー、そしてタイポグラファーとしてその道に足跡を残した。


これに加え、モリスは常に社会との関わりを持ち、古建築物保護協会の設立に努力し、産業革命以来歪められた人間の生活を救おうと、中世の騎士のように突進して、社会主義運動に身を投じる。各分野で発揮された才能は渾然一体となったモリス像を形成し、それ自体が彼の思想の表現と言える。したがって一つの業績のみを引き出して論じることはたいへん難しい。


さて、「ウィリアム・モリス ラディカル・デザインの思想」ですが、小野二郎は、次のように述べています。「これは少なくとも私にとってのモリス入門ではある。これでモリスを卒業するどころではなく、モリス勉強をますます深める所存ではあるが。それもしかし、モリスの魅力を人びとと共有したい、共有するように何かしようということと離れることはないだろう。その意味では私はモリス研究家ではなくて、モリス主義者である」と。


目次

第1章 はじめに

第2章 ヤング・モリス

第3章 デザイナーとしてのモリス

第4章 コミットメント

第5章 ユートピア

あとがき

ケルムスコット・プレス設立まで


とんとん・にっき-mori1 「ウィリアム・モリス

ラディカル・デザインの思想」
中公新書

昭和48年9月25日初版

昭和53年5月25日再版

著者:小野二郎

発行所:中央公論社









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