大久保純一の「カラー版 北斎」(岩波新書:2012年5月22日第1刷発行)を読みました。6月末に信州・小布施に行ったのも、この本「カラー版 北斎」を購入したことがきっかけでした。 小布施は北斎が晩年、高井鴻山に招かれて滞在していました。高井鴻山記念館には、北斎のアトリエ「碧漪(へいき)軒」が復元されていて、見学ができるようになっていました。
鴻山は「北斎の絵は真に迫っている。否迫るというのは真との間にまだ隔たりがある。では真そのものというべきだろうか。・・・北斎の絵は言葉ではいい現せない。強いて言えば北斎の絵は“絵である”というよりほかはないと卓抜した画人であることを見抜いて、全面的な支援を惜しまなかった」という。小布施には、「岩松院」の本堂の大間天井絵「八方睨みの鳳凰図」があり、そして「北斎館」がありました。北斎館には5つの展示室があり、そのうちの一つ、第5展示室には2台の屋台が展示してありました。
大久保純一の著作は、以前「カラー版 浮世絵」(岩波新書)を読んだことがあります。実は「カラー版 浮世絵」を読んで、このブログに記事を書いたのですが、今から思っても、返す返すも残念な間に合わせの記事でした。一通り読んだのですが、しっかりと頭に入っていなかったので、いい記事が書けるわけがありません。かといって、今回、そのリベンジを果たせるかというと、そうではありません。今回も、多かれ少なかれ、間に合わせの記事になりそうですが・・・。
大久保純一は、「あとがき」で、次のように述べています。
5年ほど前に「広重と浮世絵風景画」を出版した。江戸末期の風景版画が当時の人々にどのように受容されてきたかを考えるとき、もっとも作画量が多く、商業的に成功した広重を対象とするのは当然だったからでもある。が、しかし、浮世絵風景画の歴史を考えるとき、その確立者である北斎に対するアプローチが不可欠である、と思ったという。「広重と浮世絵風景画」では必要に応じて北斎に言及はしているが、北斎の風景画における特別な1章を設けてはいない。そのことの不備を感じていたため、それは将来の課題としたいと、ある箇所で記しておいたという。5年後、その結果が「カラー版 北斎」となるわけです。
北斎の「富嶽三十六景」の名は誰でも知っているが、その題名に反して46枚から成ることや、「北斎漫画」が今日のコミックを意味する漫画とはまったく異なり、絵を学ぶ際に用いる絵手本に分類されるべき書であること、等々、北斎に対する理解が一般に高いわけではない、と大久保は言う。北斎の93ドニも及ぶ異常なまでの転居癖や、めまぐるしく画号を変えたこと、高名な絵師になってからも依嘱にまったく拘泥しない貧家同然の生活を送っていたことなど、その奇矯とも見える振る舞いが目を惹くだけに、肝心の画業について見過ごされがちだと、大久保は言います。
北斎研究の基本文献は、明治の著述家、飯島虚心(1841~1901)による「葛飾北斎伝」だという。また、1971年から73年にかけて、鈴木重三と辻惟雄が中心となり、北斎の読本挿絵を網羅した「北斎読本挿絵」全5巻(美術出版社)が出版されたが、40年経った今なお、研究は活発であるとは言いがたいと、大久保は言う。そういえば今年は浮世絵展はほとんど開催されなかったように思います。数年前はこれでもかと言うほど、海外からの里帰り展も含めて、浮世絵展がありましたが、やはり時流というものがあるのでしょうか。単独で「北斎展」が開催されたのは、(たぶん)2007年12月4日から2008年1月27日まで江戸東京博物館で開催された「北斎」展だったように思います。図録を見てみると、フランス国立図書館とオランダ国立民族学博物館からの里帰り展でした。
北斎研究が数多くある中で、大久保は次のような方針の元に執筆したという。第一に、北斎の人物誌としてではなく、その画業に当てること。彼の作品を江戸時代の絵画史の中に位置づけ、客観的な視点で叙述すること。第二に、掲出した図は本文中で説明を加えたこと。新書という性格上、よく知られた代表作に隔たってしまったことは否めない、としています。第三に、近年の浮世絵研究の動向をふまえ、北斎の作品が出版史の中でどのような役割を果たしたかなど、浮世絵関係の出版や流通事情との関わりという視点も盛り込んだ、としています。
この本については出版社側が販売のために、以下のように書いています。
「画狂人」と称した葛飾北斎(1760~1849)は、生涯自らの到達点に満足することなく、画業に専念し、多彩な作品を残した。初期の役者絵から、美人画、摺物、読本挿絵、絵手本(北斎漫画)、風景画、花鳥画、そして晩年の肉筆画まで、傑作・代表作69点を収録し、その画業を江戸絵画史の中に位置づけながら、読み解く。
大久保純一は、1959年徳島県生まれ、1985年東京大学大学院人文科学研究科修了、博士(文学)。専攻は江戸絵画史。現在、国立歴史民族博物館研究部享受。著書に、「浮世絵の鑑賞基礎知識」(共著、至文堂、1994)、「広重 六十余州名所図絵」(共著、岩波書店、1996)、「広重と浮世絵風景画」(東京大学出版会、2007)、「カラー版 浮世絵」(岩波書店、2008)ほか。
第1章
浮世絵師になる―春朗時代
三代目坂田半五郎の旅僧実は鎮西八郎為朝と市川鰕蔵の山賤実は文覚上人 細判役者絵二枚続 寛政3年(1791) 東京国立博物館所蔵
第2章 摺物と狂歌絵本―宗理様式の時代
夜鷹図 肉筆画(紙本淡彩) 細見美術館所蔵
東海道五十三次 川崎 中判錦絵 文化(1804~18)年間 川崎・砂子の里史料館所蔵
芥子 大判錦絵 天保(1830~44)初期
第5章 晩年の北斎
富士越龍図 肉筆画(絹本着色) 嘉永2年(1849) 北斎館所蔵
岩波新書
2008年11月20日第1刷発行
著者:大久保純一
発行所:岩波書店
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