青い日記帳×レーピン展「ブロガー・スペシャルナイト」
座談会:“レーピンの魅力を語る”
登壇者:山下裕二氏(明治学院大学教授)
籾山昌夫氏(神奈川県立近代美術館主任研究員)
ナビゲーター:「青い日記帳」主宰Takこと中村剛士氏
座談会の模様を、僕がメモしたものを、以下に載せておきます。
(多少、違っているカ所もあるかもしれません。文責はtontonにあります。不都合があれば、削除します。)
山下:ここBunkamuraザ・ミュージアムで「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」が開かれたのが2009年、イワン・クラムスコイの「忘れえぬ女」、タカピーな女性でした。この絵の前で中年男性がたくさんいました。レーピンの絵は日本には?
籾山:ロシア絵画の専門家は、日本では10指に満たない。横浜美術館に1点あります。大正時代に大倉男爵が所有していた。辻永さんが1点。私は卒論も修論もロシア絵画でした。この展覧会を監修しました。過去にレーピンの作品が日本に来たのは、1975、6年に日本橋三越に7点来ました。1990年代、小樽の古い銀行にロシア美術館がありましたが、閉館しました。
中村:その後1993年、都美術で「トレチャコフ美術館展」がありました。
山下:中村さんは画像をブログにアップして書くから、憶えているんだね。レーピンはロシアではネームバリューがある。横山大観的か、天保15年生まれ、昭和まで生きて、86歳で死んだ。重なっているのは1837年生まれの富岡鉄斎。日本では高橋由一は年上。
山下:ひときわ目を惹いた作品は「キャベツ」でした。
籾山:「キャベツ」は、どう分類するか悩みました。
山下:巻頭論文(ガリーナ・チュラク)が長い。次も長い。
籾山:20ページくらいレーピンについて書いてくださいとお願いしたら、二つに分けた長文になった。面白いエピソードがあります。大正7年に米騒動が起きます。ロシアで飢え死にしたらしいと聞いて、土井晩翠が詩を書きました。
山下:大正時代、日本でトルストイ・ブームがあった。 レーピンの「トルストイの肖像」。ドストエフスキーやムソルグンスキーなど、文学や音楽は世界的に認知度が高いが、なぜ絵画は低いのか?
籾山:絵画は1点しかない。上流階級が所有して、一般には観ることができないし、海外には出ない。文学や音楽は複数あり、繰り返しが効きます。レーピンの絵はロシア国外にはほとんどありません。戦後の美術の中心地はアメリカです。冷戦時代のポスター、「ドリーム・カム・トゥルー」、「人民の夢が実現したんだよ」というポスターがあります。ポスターの右上に、レーピンの作品「ヴォルガの船曳き」が掲げられています。
山下:レーピンの役割は何か?虐げられた人々が告発した?
籾山:当時は敵対したアメリカ。グリンバーグの論文「アバンギャルド(前衛)とキッチュ(俗悪なもの)」で、レーピンの絵を観ていないで、レーピンをこき下ろしました。
山下:20世紀の美術史はアメリカがねつ造している。アメリカの陰謀に反対しています。革命以前の絵であるにもかかわらず、東西冷戦に翻弄されました。レーピンの絵は、元々うまい。「うまい」には2種類あって、元々うまい人、メチャメチャうまい人と、すごい努力家がいます。上村松園は努力家、鏑木清方は元々うまい。レーピンはサラッと描くものもあったが、もの凄く構想を練ってから描くものもあります。
中村:「皇女ソフィア」は、中野京子の「怖い絵」に出てきます。
山下:マツコ・デラックス?ポスターにするにはちょっと・・・。今回のポスターはレーピンの奥さん、若い。
籾山:20歳ちょっとか。着飾って、喪章を巻いています。寝ているのではないと思います。レーピンの弟が奥さんのお姉さんと結婚した。
山下:即興的に描いたものと、そうじゃないものと・・・。
籾山:「作曲家モデスト・ムソルグンスキーの肖像」は、病院へ行って4日間で描いた。
山下:「思いがけなく」はいろんな意味が含まれている。
籾山:右側の壁に地図が掛かっている。アレクサンドル2世の写真。入って来た人は革命家らしい。反対側にステューペンの「ゴルゴダで」の複製版画が、ドアの枠は十字架に見える。1881年の暗殺事件にかかわった人のようです。ピアノもあるし、かなり上流階級の家族です。レンブラントの「放蕩息子の帰還」を参考にしているか?「女性革命家」が帰ってくるとか、バージョンが幾つかあります。レーピンはモスクワにいたのはたった5年間です。大部分は、サンクトペテルブルグでした。サンクトペテルブルグは皇帝の街、モスクワは市民の街です。
山下:素朴な疑問としてレーピンは、皇帝の肖像画を描いていて、革命家も描いている。
籾山:トレチャコフ美術館に展示していたら、「取り除け」と始めて言われました。皇帝は寛容さで、こういう絵でも飾ってバランスを取ったのではないか。「ムソルグスキー」は、レーピンが病院へ行って描いた、亡くなる4日前の絵です。
山下:ピアノ曲「展覧会の絵」を会場で流せないか?(会場にムソルグンスキーの「展覧会の絵」が流れる)「展覧会の絵」を観て、「展覧会の絵」の曲を聴いて、ムソルグスキーの生の絵を観て。ムソルグンスキーは、アル中っぽいですね。この音楽が世界中で認知されているように、ロシアの絵画も世界中で認知されるといいですね。
中村:最後にお好きな絵画を・・・。
山下:ピアニストのオバさん(ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像)、上から目線の高飛車。この腕がたまらんものがある。だいぶ厚塗りしています。これをポスターにしたら、中年男性がもっと来場する。
籾山:ドイツ人でリストの弟子です。
山下:「ヒルデン男爵・・・」(ワルワーラ・イスクル・フォン・ヒルデンバンド男爵夫人の肖像)、長い絵、眉毛が濃い、10頭身はありますね。「百済観音」ですよ、これは。日本のものになぞらないと・・・。「キャベツ」、無意味な絵がいい。「自画像」、薄塗でいい。キャンバス地の見える、質感が出ている。若冲の絹目が見えているのも好きです。全体を通して、「額」がいい。
中村:「思いがけなく」、6人が立っていて、右側の壁に7人目がいる。黒い顔っぽいのが、女の子の上に。
籾山:「少女アダ」、なにが好きかというと、鉛筆とぼかしだけで描いている。眉毛がいい。彼の技量だけで描いている。「農家の中庭」、これも鉛筆だけで描いてます。
山下:次々回のBunkamuraザ・ミュージアムは、12月22日(土)から2月24日(火)まで、「白隠」展をやります。白隠は江戸時代の禅僧で、国宝や重要文化財が1点もない。でも素晴らしい。観ればわかります。これだけ白隠を纏まって観られるのは、史上初です。
注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
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2012年10月20日(土)~12月9日(日)
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2012年12月22日(土)~
2013年2月24日(日)