「アントワープ聖母大聖堂」には、アントワープ出身の画家ルーベンスの作品4点を鑑賞することができます。「オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ10日間」の旅で、旅の4日目、2011年4月14日に「アントワープ聖母大聖堂」に立ち寄り、ルーベンスの作品4点を観ることが出来ました。この17世紀の傑作4点のうち3点は初めからこの大聖堂のために描かれ、もう1点はナポレオン時代の後に大聖堂に置かれるようになったという。そのルーベンスの作品4点とは、「キリストの昇架」、「聖母被昇天」、「キリストの復活」、そして「キリストの降下」です。また大聖堂前のマルクト広場には、ルーベンスの銅像がありました。肉感的な女性を描くことで有名なルーベンス、「肉屋のルーベンス」と呼ばれていたそうです。
いま改修なった東京都美術館で、「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」が開催されています。目玉はもちろん、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」です。レンブラントの「自画像」も大きな話題になっています。もうひとつ、“ゼッタイ見逃せない作品ベスト3”のひとつとして、ペーテル・パウル・ルーベンスの「聖母被昇天」の下絵が取り上げられています。“下絵”とはいえ、かなり綿密に描かれたものです。これはやはりオランダ旅行の際に、マウリッツハイス美術館で観ることができました。
名作「フランダースの犬」の舞台の19世紀当時、祭壇画にはカーテンが掛かっていて、物語の中で見学料の払えない貧乏なネロは憧れていたルーベンスの絵画を観られなかったという物語です。日本では絶大な人気を誇る「フランダースの犬」、原作者はイギリス人であり、地元ベルギーではほとんど知られていなかったようです。先日、テレビで録画しておいた実写版「フランダースの犬」(1998年アメリカ)を観ましたが、映画ではルーベンスの絵をネロは観ることはできませんでした。ネロが死んだ後に出て来る絵は「十字架上架」、ルーベンスが出てきてネロに話しかけます。まあ、絵本も、映画も、アニメも、いろいろな「フランダースの犬」があるようなので、ルーベンスの絵もいろいろあるというものです。
ちなみに都美術の「聖母被昇天」(下絵)の解説は、以下のようにありました。
マウリッツハイス美術館展「聖母被昇天」(下絵)
アントワープ聖母大聖堂を飾る祭壇画の構図を決めるための下絵。大勢の助手を動員したルーベンスだが、下絵は自身によるもの。素早く、しっかりとした筆づかいが巨匠の手の躍動を伝える。聖母マリアが天に迎えられ天使が女王の冠を運ぶ。使徒や聖女は空の棺を見たり、天を見上げたりして、驚きと興奮の中にいる。完成作は「フランダースの犬」のネロが、母の姿と重ねたマリア像として有名。
以下、「アントワープ聖母大聖堂」の図録より。
「聖母被昇天」1625-26年
ペーテル・パウル・ルーベンス
アントワープ聖母大聖堂には、17世紀初頭にピークに達したバロック様式への改装の際に、新しい大理石の主祭壇が設けられた。その頃までに同時代の最も有名な芸術家となっていたルーベンスが、祭壇画の制作を依嘱された。聖母被昇天という画題は、聖書から採られたものではなく、中世に形をなしてきた教会の伝来に由来する。16世紀までにそれはポピュラーなテーマになっていた。聖母マリアは、はためくゆるやかな長衣をまとい渦まく頭飾りをいただき、その描写は優雅で生き生きとしている。
彼女は、楽しげなプッチ(幼児達)に雲の上へ押し上げられ、天にのぼって行く。絵の左上にいる二人の天使が、薔薇の花冠をまさにその頭上に載せようとしている。下方では十二使徒が、からになった石棺を取り囲んで立っている。言い伝えでは聖母の遺骸の埋葬の準備をしたとされる3人の女性も、そこに加わっている。中央の魅力的な女性は、赤い長衣をまとい、他の脇役達よりもひときわ目立つように描かれている。彼女の目鼻立ちはルーベンスの妻、イザベラ・ブラントのそれである。彼女が死んだのは1626年6月、芸術家がこの絵画に取り組んでいる間のことであった。
主席司祭ヨハネス・デル・リオがこの祭壇画の代金を支払った。それにより彼は北周歩廊に埋葬される司祭座参事会の許可を得た。デル・リオの肖像画もあり、すなわち彼は1615年に北翼廊の東側にあるステンドグラスを作らせ、その上に彼を描かせた。」この大聖堂の主席司祭や貢献者としての追想を遺す他無、キリストの十字架の前にある祈祷台のところに彼の肖像画描かれている。
このバロック様式の主祭壇はおそらくルーベンス自身のデザインであるかと思われる。1790年代の革命と反宗教的なフランス支配時代に完全に破壊されてしまった。現在のものは19世紀初めに古い材料を寄せ集めて作られた。祭壇の三位一体の浮き彫りはヤン・フランス・ファン・ヘールの1826年の作品である。実はゴシック様式の内陣にあるこの堂々たる記念碑は調和を乱している。近年の修復で祭壇の上側はかなり小さくされた。幸運なことに、全体はより軽くなり、ルーベンスの絵の印象的な額となっている。
「フランダースの犬」(1998年アメリカ)
:あらすじ(goo映画)
ネロ(ジェレミー・ジェームズ・キスナー、ジェシー・ジェイムズ)はおじいさん(ジャック・ウォーデン)と二人で牛乳配達をしながら貧しく暮していた。画家を目指していた亡き母親の血を受け、絵を描くのが好きなネロの夢は地元出身のルーベンスの絵を一目見ることだった。ある日、ネロは傷だらけになって捨てられた犬を見つける。彼はパトラッシュと名づけ、飼うことにした。兄弟のように仲良しのネロとパトラッシュは、おじいさんが仕事に出られなくなってから二人で配達に行くようになる。また、町で知り合った画家ミシェル(ジョン・ヴォイト)に才能を見出され、少年絵画コンクールに出品するよう勧められる。一方ネロは幼なじみアロア(ファレン・モネット)ども仲良しだが、小麦粉の取引で財をなした彼女の父親は二人の仲をよしとしない。そんな中、アロアの家の納屋が火事になり、ネロに放火の濡れ衣が着せられてしまう。その上おじいさんも亡くなり、家賃が払えず住む家も追われる。ネロに残された一縷の望みは絵画コンクールで優勝することだけだったが、それすら有力者の息子に奪われてしまう。失意に打ちひしがれ、雪の中を歩いていると、アロアの父親が落とした財布を拾う。アロアの家に届け、家族から感謝されるネロ。だが彼はクリスマスのもてなしを断り、吹雪の中ルーベンスの絵のある教会へ。憧れの画家の絵を前に、ネロはパトラッシュとともに絵の中の天使に迎えられるのだった。
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