池上英洋の「西洋美術史入門」(ちくまプリマー新書:2012年2月10日初版第1刷発行)を読みました。
僕が最初に読んだ池上英洋の著作は、「血みどろの西洋史 狂気の1000年」というなんともマニアックな本でした。「教科書には載せられない生々しい史実と、当時の人々の行動を支配した恐るべき価値観とは? 封印された『闇の歴史”を掘り起こす書」と、表紙に書いてありました。「魔女狩り、拷問、ペスト、異常性愛・・・」、こうした闇の世界を丹念に拾い出している学者も、世の中にはいるんだと感心しました。一転、「西洋美術史入門」はなんと教科書的な著作なのか! 本の裏表紙には「名画にこめられた豊かなメッセージを読み解き、絵画鑑賞をもっと楽しもう。ヨーロッパの中高生も学ぶ、確かなメソッドをベースにした新しい西洋美術史の教室へようこそ」とあります。
本の帯には、以下のようにあります。
絵にこめられたメッセージを読みとってはじめて、私たちはその絵が描かれた当時の人々の考え方や社会のしくみを理解することができます。つまり美術史とは、美術作品を介して、「人間を知る」ことを最終的な目的としており、その作業はひいては「自分自身のことを知る」ことにいつかはつながるでしょう。(「第1章 美術史へようこそ」より)
この辺はまさに教科書的です。「西洋美術」を語るときには、宮下規久朗も、木村泰司も、誰でも言いそうなことです。「はじめに」で、「本書は美術史への最初の導入書となることを目的としています」とあり、「私が大学でさまざまな学部の初年次学生を対象として開いている、「西洋美術史Ⅰ」という導入講義を、さらにダイジェスト版にしたものが本書のベースとなっている」と書かれていることからも明らかです。事実、「第1章 美術史へようこそ」と「第2章 絵を“読む”」の項は、読むのにけっこう疲れます。「第3章 社会と美術」以降は、内容的にも興味深く、どんどん読み進めることができましたが。
「第5章 美術の歩み」は、時代区分ごとに「概要」と「主要作例」からなる見開きで構成されており、これも分かり易い記述と構成です。活字が本文よりは少し小さめとなっています。辞書的にひけて、拾い読みすることもできます。巻末には「さらに学びたい人へ」として、目的別推薦文献リストが載っています。池上自身、高階秀爾の「名画を見る眼」(岩波新書:1969年)を読んで、絵画の世界にぐいぐいと引き込まれてと述懐しています。本の始めに口絵が24枚付いていますが、池上英洋が監修した学研版「西洋美術を知りたい」を併用するのも良いかもしれません。古代から現代まで「絵画、彫刻、建築、名作品選りすぐり!」とあり、最新の研究成果から西洋美術の全貌を紹介するというものです。
話は逸れますが、大分前に購入したものですが、池上英洋の「イタリア24の都市の物語」という本があります。帯が夕日を背にしたアッシジのサン・フランチェスコ大聖堂です。この本に誘発されて何度か訪れたイタリアの、「アッシジ」「シエナ」「ヴィチェンツア」「ヴェローナ」等の「建築」の画像をこのブログに載せたいと思っているのですが、時間がなくてなかなか実現できません。
同じく誘発されたものとして、とんぼの本の「イタリア古寺巡礼」は「ミラノ→ヴェネツィア」編と「フィレンツェ→アッシジ」編があります。「ミラノ→ヴェネツィア」編にはミラノの「サンタンブロージョ聖堂」が、「フィレンツェ→アッシジ」編にはシエナの「サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂」が載っています。表紙はアッシジの「サン・フランチェスコ聖堂」の印象的な画像が使われています。イタリアへ行ったときのスライドが溜まっているので、なんとか使い道を考えて、放出しようと思っています。
目次:
第1章 美術史へようこそ(美術史とはなにか
なぜ美術を学ぶ必要があるのか ほか)
第2章 絵を“読む”(記号としてのイメージ
イメージとシンボル ほか)
第3章 社会と美術(社会を見るための“窓”
トビアスの冒険―ルネサンスを開花させた金融業 ほか)
第4章 美術の諸相(美的追求と経済原理
パトロンのはなし ほか)
第5章 美術の歩み(エジプトとメソポタミア
エーゲ文明と古代ギリシャ ほか)
池上英洋:略歴
1967年広島生まれ。東京芸術大学卒業、同大学院修士課程修了。恵泉女学園大学人文学部准教授を経て國學院大學文学部准教授。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、中世からバロック時代の芸術の分析を通じて、社会構造や思想背景を明らかにする方法に定評がある。著書に、『Due Volti dell Anamorfosi』(ボローニャ大学出版局)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ―西洋絵画の巨匠8』(小学館)、編著 『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』(東京堂出版)、編著『イメージとパトロン』(ブリュッケ)、『恋する西洋美術史』『イタリア24の都市の物語』(光文社新書)など。
2010年12月20日初版1刷発行
光文社新書
著者:池上英洋
2012年3月27日第1刷発行
監修者:池上英洋
発行所:株式会社学研パブリッシング
発売元:株式会社学研マーケティング
定価:580円
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