江國香織の「ひとりでカラカサさしてゆく」(新潮社:2021年12月20日発行)を読みました。
ほしいものも、
行きたいところも、
会いたい人も、
ここには
もう
なんにも
ないの――。
三人はなぜ、大晦日の夜に
一緒に命を絶ったのか。
人生における
いくつもの喪失、
いくつもの終焉を
描く物語。
「人間は、
泣くのとたべるのとを
いっぺんにはできない
ようになっている
らしいですよ」
大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳杉の三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。三人にいったい何があったのか…。妻でも、夫でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに思いがけず動き出す、残された者たちの日常を通して浮かび上がるのは――。
ラスト…
「いままで言ったことがなかったけど」勉が突然口を開いた。
「俺は二人に感謝してるよ。いや、今回のことだけじゃなくて、ずっとさ、あんたがたあみたいなのとおなじ時代を生きられてよかったと思っている」「やめて」知佐子がぴしゃりと言う。「しみじみしちゃうじゃないの。そんなこと、言われなくたってわ」完爾もまったく同意見だった。「もうすぐ新年ね」声をあかるくして知佐子が言った。「どんな年になるのかしらね」完爾は娘と息子の顔を思い浮かべる。それぞれの配偶者や、かなりいい子に育ったと思っている孫の顔も。いまごろそれぞれの場所で、正月を迎える準備をしているだろう。そして、まだしばらくこの世を生きるだろう。扉があき、三人は客室フロアを自分たちの部屋に向かって歩いていく。もうすぐ終ると完爾は思い、ホテルなんてひさあしぶりだなと勉は思った。そして知佐子はだ男性二人をかわるがわる眺め、またしても、二人ともりゅうとしている、と思った。
江國香織:
1964年東京都生まれ。87年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、92年「こうばしい日々」で坪田譲治文学賞、「きらきらひかる」で紫式部文学賞、99年「ぼくの小鳥ちゃん」で路傍の石文学賞、2002年「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」で山本周五郎賞、04年「号泣する準備はできていた」で直木賞、07年「がらくた」で島清恋愛文学賞、10年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、15年「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」でt二崎潤一郎賞を受賞。他の著書に「ちょうちんそで」「彼女たちの場合は」「去年の雪」など多数。小説のほか詩やエッセイ、翻訳も手掛けている。
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