梶よう子の「広重ぶるう」(新潮社:2022年5月30日発行)を読みました。
久しぶりに小説らしい小説を読んだ、という気分に浸りました。
ゴッホも愛した<青の浮世絵師>
歌川広重が謳歌する
遅咲き人生!
描きたいんだよ、
江戸の、あの本物の青空を――。
日本の美を発見した名所絵で歴史に名を残す、浮世絵師の生涯!
「おれは、絵師として半チクものかもしれない。
でもこの青を使った秘策があるんだ」
「広重ぶるう」は、こうして始まります。
薄暗い湯殿に、湯気が立つ。天井から滴り落ちる水滴が肩に当たり、安藤重右衛門は思わず身を竦ませた。それにしても、湯がいつもより温い。湯屋の親爺にいっておかねばと思いつつ、湯船に首元まで身を沈ませて、口を開いた。「柳ぃ~橋ぃ~から 小舟で急がせ山谷ぁぼ~り~土手のぉ夜風がぞっと身にしむ 衣紋坂ぁ」「茂さんよぉ、舟を仕立てて吉原へ行こうなんざ、朝っぱらから色っぽい唄だねぇ」
武家に生まれた歌川広重は浮世絵師を志す。しかし、彼が描く美人画は「色気がない」、役者絵は「似ていない」と酷評ばかり。葛飾北斎と歌川国貞が人気を博するなか、鳴かず飛ばずの貧乏暮らしに甘んじていた広重だが、ある日舶来の高価な顔料「ベロ藍」に出会い――。
梶ようこ:
東京都生まれ。フリーライターとして活動するかたわら小説を執筆。2005(平成17)年「い草の花」で吸収さが大衆文学賞を受賞。2008年「一朝の夢」で松本清張賞を受賞。2016年「ヨイ豊」で直木賞候補、歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。著書に、「みとや・お瑛仕入帖」シリーズのほか、「宝の山 商い同心お調べ帖」「立身いたしたく候」「ことり屋おけい深双紙」「葵の月」「北斎まんだら」「とむらい屋風颯太」「菊花の仇討ち」「噂を売る男 藤岡屋由蔵」「吾妻おもかげ」など多数。