LIXILギャラリーで「吉田夏奈展」、「都丸篤子展」を観てきました。今回も対照的な二つの個展です。
吉田夏奈は、今まで山や島をモチーフに制作してきたが、今回は湖です。元々吉田は都会っ子、その反動からか、学生時代は中国地方や九州の自然を徘徊します。卒業制作では湖が好きだったので、湖に関係する作品を制作します。2009年、レジデンスにフィンランドを選び、10数万個もある湖事情を実際に確かめます。2006年にはロサンゼルスで5mほどの山のパノラマを描きます。山、島、湖の次は、小豆島に住んで感じたこともあり、地形と風景とそこに住む妖怪や神様の関係を含めて、風景を考えてみたいと語ります。
そこで思い出したのが、東京オペラシティでの個展、コリドールに展示されたものです。偶然ですが、僕は吉田夏奈の作品を観ていました。その時、以下のように書きました。作品は、北アルプスの山々で構成されています。「果てしなき混沌への冒険」、コリドール片面、全部を覆っています。作品は未完成な感じが強く、習作とも呼べるかと思います。全部を緻密に描いたら、圧倒的な迫力になることは間違いありません。と。今後、期待できる作家です。
吉田夏奈展
吉田夏奈は、大自然の中に身を投じ、全身でとらえた感覚を通して想像の風景を描き出します。クレヨンを用い、思いつくままのスピードで再現される身体体験は、現実と記憶の不思議なミックスを生み出しています。これまで、山や島をモチーフに制作をしてきましたが、今展では湖をテーマにパノラミックな風景を絵画と立体で表現します。大学時代から湖が大好きだったという吉田は、卒業制作の「HOME LESS HOME」(2002)で、電化製品の梱包材をキューブ状に切って繋げた家をダム湖に浮かべ、さらに「MOVING HOME」(2003)ではその中に自転車を組み込んで漕ぎ、湖を横断しました。10万個もあるといわれている穴のような湖を見たくてフィンランドでのレジデンスを選んだといいます。2011年の小豆島レジデンスで生まれた「奇跡の牛」は、パノラミックな風景を始まりと終わりのあるかたちにしようと、島を歩き回って調査し、景色をアウトプットしたものでした。景色を「島」としたことから、平面を固体化させた「湖」というアイデアが生まれました。今回の展示では、島の形に湖をつくり、観客が周囲をぐるりとまわりながら、なにもない湖面にすべてのものが映し出され、山々や風景、空が見る場所によって変っていく水晶玉のようなパノラマを計画しています。吉田夏奈は1975年東京生まれ、大学時代から登山をはじめ、自然の中でパフォーマンスや立体インスタレーションを行ってきました。2003年の曽根裕企画のワークショップに参加し、真っ暗闇の洞窟でドローイングを行った経験の中で、それまでにない身体的体力的な危機と向き合い、絵画制作をはじめました。連なる山々をクレヨンで延々と描く「Beautiful Limit」(2010)は現在50メートルを越え今なお続いています。ロサンゼルスやフィンランド、小豆島とレジデンスを重ね、雄大な自然をいっぱいに吸い込んで線と色に解放した作品は、みずみずしい爽やかさにあふれています。緑の息吹が気持ちを軽くする季節に、輝きわたる湖の風景をぜひ会場でご覧ください。
吉田夏奈略歴
1975年 東京都生まれ
2002年 広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒業, 現在小豆島在住
個展
2011年 トーキョーオペラシティアートギャラリー, ProjectN44,東京
2010年 トーキョーワンダーサイトEmerging148,東京
2009年 「オセロ」ザ・イングリッシュパーク,フィスカルス,フィンランド
2007年 「FOR THE LOVE OF BEER」T.Y.Harbor Brewery,東京
2003年 「MOVING HOME-over the lake」聖湖,広島
グループ展
2012年 あざみ野コンテンポラリーvol.2「View Points」横浜市民ギャラリーあざみ野,横浜
2011年 「第6回小豆島芸術家村滞在作家展」,ふるさと村夢想館,小豆島
2011年 MeiPAM企画展vol.03, MeiPAM01, 小豆島, 香川
2009年 「トーキョーワンダーウォール公募2009」東京都現代美術館
アーティストインレジデンス
2011-2012年 小豆島, 香川県
2009年 フィスカルス,フィンランド
2006年 ロサンゼルス,アメリカ
都丸篤子展
都丸篤子は、グラフィックデザイナーの仕事をしながら、やきものの作品をつくっています。学生時代にグラフィックは平面の世界なので、立体的なものをつくってみたいと思い、街の陶芸教室に通ったり、京都造形芸術大学の通信課程で陶芸を学んだりしました。先生方の影響もあり、自分はこういう方が好きかもしれないと気づきます。最初は球体や卵の殻のようなものやお椀形の作品をつくりました。大学の卒業制作で内側に細工がある円柱状のものをつくります。それが今の作品につながっています。
自分自身では、螺旋を意識してつくったという。曲線から螺旋形へ、建築物や構造物というよりは、カタツムリの殻を想って作り始めたそうです。組作品として発表することが多いが、最初は作品が小さかったので、見せる時に演出として組でないともたないのではないかと思いました。今までオブジェに関しては、色をつけようとは思わなかったという。2011年には菊池ビエンナーレ、神戸ビエンナーレ、長三賞と入賞が続きます。たまたま僕は会場で都丸さんにお会いしました。狭い会場なので、ゆっくりとは観ていられなかったのですが、作品の形について問いかけると、外側はみな同じ形なのです、と答えられていました。
都丸篤子の作品は、半磁器でできた白く柔らかなかたちのオブジェです。半円のうつわ状の陶の内側に、ゆるやかなウエーブがいくつかの渦を巻き、繋がり伸縮して立体的な曲線をつくりあげています。もともとはカタツムリの殻の螺旋をイメージしたという有機的な曲線は、生クリームや開きかけたバラの花びら、くしゃりと丸めたハンカチのやわらかさも連想させます。1000度の低温で焼成しているため、かっちりとした白色ではなく、あたたかい肌色のニュアンスを残しているのも理由でしょうか。最初は手のひらに乗る大きさの組み作品でしたが、最近では直径40センチを超える大きさにもなり、より内側の構造が複雑になってきました。それに伴い、かたちよりも、その周りや途中にできる空間、光と影といったものに意識的になり、建築や砂丘などのスペーシーな造形を連想させるようなスケール感も生じてきています。都丸篤子は、グラフィックデザイナーとして働きつつ、陶芸教室に通うことで陶芸を始めました。仕事の息抜きとしてうつわをつくるうち、もっと深く学ぼうと京都造形芸術大学の通信課程へ入学し、次第にうつわよりもオブジェに興味を持つようになりました。陶芸を始めて20年、制作と仕事を両立させながら、今のシリーズに至って5年になります。2011年にはこのシリーズで、菊池ビエンナーレ、神戸ビエンナーレ、長三賞受賞と、大きな評価を受けてきました。東京初個展となる今展では、新作を含めた8点を展示する予定です。春のやわらかい日差しのようなやわらかく気持ちのよいかたちが生み出す風景を、ぜひ会場でご覧ください。
都丸篤子略歴
東京生まれ
1984年 東京デザイナー学院 グラフィックデザイン科卒業
2002年 京都造形芸術大学 芸術学部美術科陶芸コース卒業
グループ展
2000年 グループ展泥酔舎陶展(02、04~11年 京都・ギャラリーマロニエなど)
受賞
2010年 第4回菊池ビエンナーレ 入選
2011年 神戸ビエンナーレ2011現代陶芸コンペティション入選
第30回長三賞常滑陶芸展 長三賞
「LIXILギャラリー」ホームページ
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