大江健三郎の「親密な手紙」(岩波新書:2023年10月20日第1刷発行)を読みました。
本書は、雑誌「図書」に2010年から2013年に連載された「親密な手紙」をもとにしている。著者は刊行に際して、初出時の本文に手を入れて、新たに書下ろしの章を4章のあとに入れることを構想されていた。書下ろしの章は実現できなかったが、著者が大幅に加筆を施された本文原稿をしゅうろくするものである。(「付記」による)
「窮境を自分に乗り超えさせてくれる「親密な手紙」を、確かに書物にこそ見出して来たのだった」。渡辺一夫、サイード、武満徹、オーデン、井上ひさしなどを思い出とともに語る魅力的な読書案内。自身の作品とともに日常の様々なできごとを描き、初めて大江作品に出会う人への誘いにもなっている。『図書』好評連載。
少年は、後に映画監督として数かずの記憶される仕事をした伊丹十三で、あるフランス文学者の名を私に教え、その人が教師をしていられる大学に進めといった。ところがかれ自身は、おとなしく受験勉強をするような性格ではなかったから、私はひとり東京の大学の教室に座ることになった。そしてそこからただ小説を書く人生を歩むことになり、先生の没年を過ぎても当の「晩年の仕事(レイト・ワーク)」を続けている。(「1章より」)
目次
一章
不思議な少年
困難な時のための
感受性のある個性
ブクブク
本当のこと
「器用仕事」
人間を慰めることこそ
ヒヨドリ再説
新訳に誘われて
死者たちの時
ジョイスと武満
作曲家と建築家
二章
バロックのブクブク
愛をとりあげられない
幼児が写真を見る
品格の問題
ナンボナンデモ
返 礼
ノリウツギの花
真っさらのタンクロー
短篇作家の骨格
衿子さんの不思議
生活の隙間
三章
様ざまな影響
茫然たる自分の肖像
復 権
心ならずも
伊丹十三の声
しっかりやりましょう!
バーニー・ロセット
毎日毎日うつむいて
ラブレー翻訳は続く
キツネの教え
同級生
希望正如地上的路
四章
不確かな物語
もぐらが頭を出す
同じ町内の
鐘をお突き下されませ
ボーヨー、ボーヨー
偶然のリアリティー
実際的な批評
グルダとグールド
本質的な詩集
先生のブリコラージュ(一)
先生のブリコラージュ(二)
大江健三郎:
1935年愛媛県生まれ.東京大学文学部仏文科卒業.58年『飼育』で芥川賞受賞.『万延元年のフットボール』(谷崎潤一郎賞),『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』(読売文学賞)など受賞多数.1994年にノーベル文学賞受賞.2004年,井上ひさし氏,加藤周一氏らとともに「九条の会」の呼びかけ人になる.2023年逝去.
『ヒロシマ・ノート』『沖縄ノート』『新しい文学のために』『あいまいな日本の私』『日本の「私」からの手紙』(以上,岩波新書),『大江健三郎 自薦短篇』『M/Tと森のフシギの物語』『キルプの軍団』(以上,岩波文庫),『新装版 大江健三郎同時代論集』(全10巻,岩波書店)ほか著書多数.
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