村田喜代子の「新古事記」(講談社:2023年8月8日第1刷発行)を読みました。
タイトルからは想像もつかない物語でした。
原爆開発の地に流れる密やかな平和な時間。
第二次大戦日米開戦後のアメリカ。オッペンハイマー、ノイマン、ボーア、フェルミ、若手のファインマン……。太平洋戦争の最中、世界と隔絶したニューメキシコの大地に錚々たる科学者たちが続々と集まってくる。
咸臨丸の船員だった日本人の血を受け継ぐ日系三世のアデラは両親にさえ物理学者の夫の仕事の内容を教えられず、住所を知らせることもできない。秘密裏に進む夫たちの原爆開発、施設内の犬と人間の出産ラッシュ。それと知らず家事と子育てに明け暮れる学者の妻たちの平穏な日々。
「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくる」
”われは死なり 世界の破壊者となれり”
その小さな神たちが行き場を探して右往左往している。辺りは火火火火火火、赤いものがボウボウと襲いかかる。
世界は戦さの火だらけだ。火火火火火火が荒れ狂う。小さい神々は蟹のように火火火火火火に追われて逃げ惑う。
山の神も火火火火火火、川の神も火火火火火火に包まれ、樹木の神も立ったまま火火火火火火に焼け焦げていく。
焼け滅ぼされていく。
目次
第一章 「あたしはベンジャミンと故郷(くに)を出た」
第二章 「まずは太陽、それから月、山、川、鳥、けものたち、全てに祈るの」
第三章 「人も、犬も、ふくらんでいくおなか。幸せな日」
第四章 「星の町の宵にリストの曲が流れるの・・・」
第五章 「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくるのだ」
謝辞
参考資料
村田喜代子:
1945年、福岡県北九州市生まれ。87年、「鍋の中」で第97回芥川賞を受賞。90年、『白い山』で女流文学賞、97年、『蟹女』で紫式部文学賞、98年、「望潮」で川端康成文学賞、99年、『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年、『故郷のわが家』で野間文芸賞を受賞。
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