セバスチャン・バリーの「終わりのない日々」(白水社:2023年6月10日発行)を読みました。
セバスチャン・バリーの「終わりのない日々」、
もうこれは
2023年度のハイジ本屋大賞!
決まりじゃないかな
と思うほど
私も絶賛
とハイジさんはべた褒め、これは読むしかない!
まず最初に古川日出雄の文芸時評から…。
朝日新聞2023年6月30日掲載:文芸時評古川日出雄
読み終えてしばらく動けない――という強烈な体験をしたのは、セバスチャン・バリーの「終わりのない日々」(木原善彦訳、白水社)だった。19世紀のアメリカが舞台なのだが、本書には「作られるはずのない家族が作られる世界」があった。語り手はアイルランド移民の男で、父母と妹を失ってから北米大陸に渡り、アメリカ先住民との戦闘に加わり、南北戦争にも参戦する。しかし彼は徐々に「女である自分」を発見する。以前からの最愛の友、すなわち同性の恋人と秘められた結婚をして、先住民の少女がこの二人の”娘”になる。戦争小説としての本書を考える時、文学的にここまで「人がどのように集団で殺し合うか」がぴりぴりと感受される傑作を自分は他に知らない。が、それ以上に、ここには疑似家族を超えた”家族”があって、ほとんど涙が出る。
個性的な<声>の力強さと詩的な響き
「バリーの小説はドラマチックで物語の運びのテンポがよく、しかも一人称の語り口が非常に魅力的なのが特徴だ。教養のない人物が語り手であることも多いが、素朴な語り口とそこに秘められた深い洞察との組み合わせが絶妙な味わいを醸し出す。」〈「訳者あとがき」より〉
では、どんな物語なのか・・・。
アイルランド移民のトマスは女としてのアイデンティテイーに目覚める中、恋人ジョンとともにインデアン戦争、南北戦争を戦っていく・・・。
語り手は、19世紀半ばの大飢饉に陥ったアイルランドで家族を失い、命からがらアメリカ大陸に渡ってきたトマス・マクナルティ。頼るもののない広大な国でトマスを孤独から救ったのは、同じ年頃の宿無しの少年ジョン・コールだった。美しい顔立ちに幼さの残る二人は、ミズーリ州の鉱山町にある酒場で、女装をして鉱夫たちのダンスの相手をする仕事を見つける。初めてドレスに身を包んだとき、トマスは生まれ変わったような不思議な解放感を覚える。やがて体つきが男っぽくなると、二人は食いっぱぐれのない軍隊に入り、先住民との戦いや南北戦争をともに戦っていく――。
西部劇を彷彿とさせる銃撃戦、先住民の少女と育む絆、はらはあらする脱走劇、胸に迫る埋葬場面などが、勇敢な兵士でありながら女としてのアイデンティテイーに目覚めたトマスによっていきいきと語られる。
さて、カズオ・イシグロの評から…。
イギリスの作家カズオ・イシグロは本書について、以下のように絶賛した。
「真に思いがけない場所がら現れた奇跡の作品。『終わりのない日々』は暴力的でありながらどこまでも詩的な西部小説であり、生まれつつあるアメリカの圧倒的ビジョンを私たちに見せてくれる。一言一句にいたるまでこれほど魅力的な一人称の語りには数年来出会ったことがない」と。
う~ん、271ページの長い物語、べた褒めが続きましたが、僕は残念ながらそれほどとは思いませんでした。
セバスチャンバリー:
1955年、アイルランドのダブリンに生まれる。小説家、劇作家、詩人。詩的な文章で知られ、現代のアイルランドで最も優れた作家の一人と考えられている。多くの作品は歴史物で、1800年代半ばから第二次世界大戦の頃までの時代を舞台としている。バリーの作品はブッカー賞で最終候補に二度選ばれている(A Long Long WayおよびThe Secret Scripture ).。The Secret Scriptureはコスタ賞、ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞を受賞。本書はコスタ賞(二度目の受賞はバリーが初)、およびウォルター・スコット賞を受賞。2019年にガーディアン紙が発表した「今を形作った100冊」にも選ばれた。