Quantcast
Channel: とんとん・にっき
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2506

第169回芥川賞候補作、児玉雨子の「##NAME##」を読んだ!

$
0
0

 

第169回芥川賞候補作、児玉雨子の「##NAME##」を読みました。

 

さて、読んだ後どこから手を付けたらいいのか、考えあぐねていたところ、たまたま見た「文學界6月号」に、新人小説月評に児玉雨子の「##NAME##」が取り上げられていました。

 

一つ目は「労働と文学」と題した河野真太郎のものです。

児玉雨子の「##NAME##」(藝)の語り手、石田雪那は小学生のころから水着も含めたモデル活動をしていた。その後、過去の写真によって学校でいじめを受けたり、バイトがうまくいかなかったりしている。大学生となった「両刃のアレックス」という作品にのめり込んでその二次創作に励むいわゆる腐女子となっているが、同作品の原作者が児童ポルノ所持で逮捕される。雪那は当然に、自らの過去が児童ポルノすれすれであったことに苦悩することになる。タイトルの「##NAME##」とは雪那が読む夢小説(二次創作の小説の登場人物のところに任意の名前を代入して読めるようなサービス)で、名前を登録しなかった場合に表示される名前である。全編を通して、この「名前」というモチーフが縦糸となって、それが結末に巧みに編み込まれていく。メディアの性暴力という現代的なテーマをみごとに物語化してみせた。

 

もう一つは「幻想を突き抜けて」と題した住本麻子のものです。

児玉雨子の「##NAME##」(藝)に描かれているのは、欲望にも抑圧にも鈍感な雪那である。その雪那は徐々に自分の意思を掴み取ろうと立ちあがる。しかしこの小説の登場人物たちはみな、独りよがりだった。雪那にしても、美砂乃ちゃんとの甘い思い出に浸っているだけである。リアルかも知れないが、リアルなだけなら小説である意味はない。

 

さて、二つの月評を見ても、結局はなんのことかよくわかりません。

 

「##NAME##」は、2006年7月から2017年8月まで続き、そして以下のように終わります。

両目によって引き裂かれた世界像がひとつに結ばれてゆくようで、しかし、裂けようと結ばれようと、世界はどこまでも地続きで、古くなった表皮が剥がれた、ただそれだけのことだった。でもそれが剥がれるのと剥がれないのとでは、まったく異なって見えた。発車標に表示されている終点の駅名を見上げた。轟音が風を切るように駆け抜ける。ゆき。みさ。なんの意味も込められていないけれど、切実な祈りのように聞こえた。ゆき。みさ。いつかまた出会い直せたら、ちゃんとそう呼び合いたい。君が名付けた私の名前は、私のために鳴る最も短い歌で、私たちの間に走る閃光で、私たちだけの言語だったから。

 

さ~て、芥川賞、どうでしょう? テーマが子どもの世界を描いたもので、残念ながら大人としては物足りない結果に終わっています。

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2506

Trending Articles