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Channel: とんとん・にっき
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安堂ホセの芥川賞候補作「ジャクソンひとり」を読んだ!

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安堂ホセの芥川賞候補作「ジャクソンひとり」を読みました。今回の芥川賞候補作5作のうち、最初に読んだ作品です。タイトルが「ジャクソンひとり」、読む前から、これは困ったと思った。ほとんどが意味不明だったからである。

 

安堂ホセは、1994年、東京都生まれ。「ジャクソンひとり」を書くにあたって、自分にとっての血のような小説を目指した、という。

 

「ジャクソンひとり」は、こうして始まります。

ココアを混ぜたような肌、ぱっちりしすぎて悪魔じみた目、黒豹みたいな手足の彼は、ベッドに磔にされていた。そのビデオを見てすぐに、ジャクソンはそれが自分だと察した。その時のことはもう覚えていないし、似ている男なんて世界中に何人もいると思う。だけど、ここは日本で、この外見でこんなふうに扱われるのは、ジャクソンひとり。

 

ジャクソンの勤め先、アスレティウス・ジャパン本社併設の、スタッフ専用の小さなフィットネスセンターで、ジャクソンは一日中スタッフにマッサージをする。

ゼンがジャクソンについて知っている情報。アフリカのどこかの国と日本とのハーフらしい。陸上やってたらしい。モデルもやってたらしい。もしかしたらゲイかもしれない。全部チームメンバーたちが噂していることだった。

 

いくつかのスマホが震えて、やがてフードコートのほぼ全員がビデオを見た。なにこれ、リベンジポルノ? いや、趣味らしいよ、昔の仕事らしいよ。この動き、尋常じゃない。「悪いけどこれ、俺じゃないですよ。ていうかさ、どうしてこれが俺だと思うの?」「いや、似ているからでしょ」「どこが?」「見た目が」。黒い、肌、顔が、髪、お前しか、人種、こんな人間、こういうタイプ・・・どの言い方も状況的にアウトだ。

 

イブキは笑ってごまかす。

「入れ替わり作戦、あれはどうやって考えたの? すごく面白い。もちろん顔認証を入れちゃえば、すぐ整理されちゃうんだけど、肉眼で比べる限り、君たちはよく似ているね。スタッフの子たちも毎回混乱してた」

「本当はこれがないと通れないはずなんだけどな」ボスはそう言って、そばにいるスエットの男の子の手をとるとペンライトで照らした。青白く光る正方形が埋まっていた。「何それ、チップ?」イブキは目を細めながら聞く。

 

その一瞬だけ、マーフィーの口からワイヤーがふわりと離れ、みんながまた動き出すのに合わせて一気に首に食い込んだ。パチン、とスイッチの切れる音が聞こえ、部屋のすべてが本来の色を失って、赤い影にのまれた。さらに電球の割れる音がして、なにもみえなくなったこの後、どうするの? いっせーので逃げるのは? そんなことしても無駄でしょ。みんな捕まるよ。じゃあ誰か一人が勝手に暴走して、他はみんななにもしらなかったっている設定で逃げようよ。設定っていうか、事実そうじゃん。

 

そしてラストは…。

こっから先はロシアンルーレットだから、自分の身は自分で守ってね。しばらくお互い合わないこと。またどこかで! じゃ逃げるよ、せーの・・・

階段から、マーフィーの遺体が搬出された。しばらく騒然となって、男たちは渦中へカメラを向けたり情報や憶測を交換しあったり、あるいは厄介ごとに巻き込まれる前に店を去ったりした。でもそれも長くは続かないで、ほとんどの男はさっきまでと同じように楽しんだ。必死に遊ぶための時間はまだ残っていた。

 

第59回文芸賞受賞作

安堂ホセの「ジャクソンひとり」は、日比野コレコの「ビューティフルからビューティフルへ」とともに、第59回文芸賞の受賞作です。そういう意味では、それなりに文学として認められた作品、ということができます。四人の選考委員の選評を読んでみると、驚くべきことに選考委員の一人である町田康は、選評で一人だけまったく「ジャクソンひとり」に触れていないのが際立ちました。これは謎です。以下、「ジャクソンひとり」に触れた選考委員の選評を・・・。

 

角田光代:

「ジャクソンひとり」はブラックミックスの日本人であるジャクソンと、彼に似た外見の三人があらわれ、その似ている部分を利用し、「入れ替わっちゃう」ことで復習を始める。・・・ブラックミックスでありゲイである彼らは、マイノリティのなかのマイノリティなわけだが、この小説が提示するのは、だれかの抱えた問題ではなく私自身がかかわっていることだと感じさせるような、開かれたものだと思う。

 

島本理生:

今年は「ジャクソンひとり」を受賞作に推したいと思った。見分けにくい外見を逆手にとってジャクソンを含めた四人の男が入れ替わる試みは、作品の手0まとも上手くリンクしており、面白く一気に読んだ。書くべきところで描写が足りないなどの欠点はあったが、それでも感情的に揺り動かされる場面が上回った。・・・加虐的な性や暴力のカオスの間に、「一度でも親切にしてくれた相手のことを、はっきり敵と見なす勇気がジャクソンにはなかった」といった普遍的な揺らぎや繊細さが差し込むところに私は引き込まれた。

 

穂村弘:

「ジャクソンひとり」を読みだす前から、タイトルに魅力を感じた。

似ている男なんて世界中に何人もいると思う。だけどここは日本で、この外見でこんなふうに扱われるのは、ジャクソンひとり。・・・二人目のジャクソンが現れたと思ったら、さらに二人追加で、ジャクソン四人。

「ジャクソンひとり」と「ジャクソン四人」、個としてのジャクソンと属性としてのジャクソンの間で物語は揺れ動く。「この子は誰にも似ていない」と云われたはずのジャクソンが、他のジャクソンズと「入れ替わっちゃう」世界。どうしても書かれなければならなかったという切実感に加えて、物語の展開にはミステリー的な意外性のドライブ感がある。・・・ラスト近くで出現する黒幕の誇張された描かれ方は、「日本」に遍在する受難の実感がはあなあ寧されているのだろう。

 

 

 

 


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