多和田葉子の「太陽諸島」(講談社:2022年10月18日第1刷発行)を読みました。多和田葉子の作品は、今まで10冊ほど読みましたが、まだ読んでいない文庫本があと10数冊あります。「容疑者の夜行列車」を読んで以降、間が空いてしまいましたが、新刊が出たというので、早速予約注文して取り寄せ、読みました。長篇三部作のラスト、完結編です。これは、読まないわけにはいきません。
世界文学の旗手が紡ぐ、
初の連作長篇三部作、完結!
響きあう言葉とともに地球を旅する仲間たちの行方は――。
国境を越えて人と人をつなぐ、新しい時代の神話
ヨーロッパで移民として生きるため、自家製の言語「パンスカ」をつくり出したHirukoは、消えてしまった故郷の島国を探して、仲間たちと共に船の旅に出る。一行を乗せた船はコペンハーゲンからバルト海を東へ進むが、沿岸の港町では次々と謎めいた人物が乗り込んできて――。
言葉で結びついた仲間たちの、
時空を超えた出会いと冒険を描く、
多和田葉子の新たな代表作。
『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』に続くサーガ、
ついに完結!
Hirukoとナヌークの唯一のラブシーン
Hirukoは僕の呼吸が乱れていることに気づいていないのか、いつもの口調で、「ここに金色の言葉」といいながら僕の顔についたハチミツを拭おうと指を伸ばした。ほっそりした指先が唇の脇に触れた瞬間僕の心ははじけ、Hirukoの手首を握って強く自分の胸に引き寄せていた。Hirukoの上半身がコスモスの花のように軽くふわりとかぶさってきた。
主な登場人物
・Hiruko
ヨーロッパ留学中に母国の島国が消えてしまった女性。北欧を転々として暮らす過程で、スカンジナビアの人なら大体意味が理解できる手作り言語「パンスカ」を発明した。自分と同じ母語を話す人間を探すうちに、クヌート、アカッシュ、ナヌーク、ノラ、Susanoooと出会う。
・クヌート
デンマークに住む言語学者の卵。Hirukoと彼女の話す「パンスカ」に惹かれ、彼女の母語がそうなってしまったのかを探り出す旅に同行する。
・アカッシュ
ドイツに留学中のインド人。男性から女性へ性の引っ越し中で、真っ赤のサリーを身に着けている。トリアーでHirukoとクヌートに出会い、アルル、コペンハーゲンに同道する。
・ナヌーク
グリーンランド出身のエスキモー。デンマーク留学中に旅に出て、トリアーで倒れていたところをノラに助けられるが、彼女のもとからアも逃げ出す。Susanooが滞在するコペンハーゲンの病院で、嫌われ者の医師ベルマーと性格を交換する。
・ノラ
トリアーの博物館に勤めるドイツ人。ナヌークのために企画した「ウマミ・フェスティバル」でHiruko、クヌート、アカッシュと出会い、交流を結ぶ。
・Susanoo
Hirukoの同郷人。福井に生まれ、アルルで鮨職人として働いていたが、ある時点から言葉を発しなくなった。クヌートに紹介され、コペンハーゲンの病院で失語症を専門とする医師ベルマーのもとに滞在する。
「主な登場人物」で物語の大筋が述べられているので、ここでは各章ごとの要約を省きます。というより、この小説、要約が難しい。僕には無理、というもの。
目次
第一章 Hirukoは語る
第二章 クヌートは語る
第三章 アカッシュは語る
第四章 ノラは語る
第五章 Hirukoは語る(二)
第六章 ナヌークは語る
第七章 Hirukoは語る(三)
第八章 クヌートは語る(二)
第九章 Susanooは語る
第十章 Hirukoは語る(四)
「地球にちりばめられて」
2018年4月24日第1刷発行
著者:多和田葉子
発行所:株式会社講談社
「星に仄めかされて」
2020年5月18日第1刷発行
著者:多和田葉子
発行所:株式会社講談社
多和田葉子:
小説家、詩人。1960年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ハンブルク大学大学院修士課程修了。文学博士(チューリッヒ大学)。1982年よりドイツに在住し、日本語とドイツ語で作品を手がける。1991年『かかとを失くして』で群像新人文学賞、1993年『犬婿入り』で芥川賞、2000年『ヒナギクのお茶の場合』で泉鏡花文学賞、2002年『球形時間』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、2003年『容疑者の夜行列車』で伊藤整文学賞、谷崎潤一郎賞、2005年にゲーテ・メダル、2009年に早稲田大学坪内逍遙大賞、2011年『尼僧とキューピッドの弓』で紫式部文学賞、『雪の練習生』で野間文芸賞、2013年『雲をつかむ話』で読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2016年にドイツのクライスト賞を日本人で初めて受賞し、2018年『献灯使』で全米図書賞翻訳文学部門、2020年朝日賞など受賞多数。著書に『ゴットハルト鉄道』『飛魂』『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』『旅をする裸の眼』『ボルドーの義兄』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』などがある。
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朝日新聞:2022年10月31日