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渡辺靖の「アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋」を読んだ!

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渡辺靖の「アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋」を読んだ!

 

渡辺靖、僕は初めての著者かと思いきや、なんと2015年に読んでいたことが判明しました。まったく覚えていませんでした。

渡辺靖の「アメリカのジレンマ―実験国家はどこへゆくのか」を読んだ!

 

その時、以下のように書きました。

この本を読んで、のどもとに小骨が刺さっているように、いつもイガイガしていたことのすべてが、ほぼ清廉潔白に、明快に解消しました。なにしろ分かり易い筋立て、平易な文章、フィールドワークに裏打ちされた分析、そして渡辺がアメリカを愛する気持ちが、ズンズンと伝わってきました。

 

しかし、その後のアメリカの展開はそう簡単ではなかった。

 

本の帯には、

なぜ、トランプは不死身なのか

米国は大丈夫なのか?

と、大きく刺激的な文言が!

 

求心力よりも遠心力を強める米国。国民国家としての自己定義に苦慮する米国。国際社会におけるソフトパワー(誘引力)の低下が危惧される米国。一体、なぜこうした状況に陥っているのか。内政や外交とどう結びついているのか。米国の歴史の中でどう位置づけ得るのか。現代世界、そして民主主義の今後にいかなる含意を持ち得るのか。私なりの視点や解釈を提起してみたい。(「はしがき」より)

 

さて、では「アメリカとは何か」とはどんな内容なのか?

ポピュリズムやナショナリズムの台頭、社会的分断の深化、Qアノンはじめ陰謀論の隆盛、専制主義国家による挑戦などを前に、理念の共和国・米国のアイデンティティが揺らいでいる。今日の米国内の分断状況を観察し続けてきた著者が、その実態を精緻に腑分けし、米国の民主主義、そしてリベラル国際秩序の行方を展望する。

 

米国の独立宣言や憲法の基本にあるのは近代啓蒙思想である。それは特定の民族や宗教ではなく、自由・平等・人民主権・法の支配といった、より普遍性の高い理念に根ざしている点を特徴とする。自らが旧世界とは異なる「新世界」であり、「あるべき世界」であるという強烈な自負心、そこに国土や国力の大きさ、人口構成の多様さなどが加わり、いわば「世界の縮図」とした、自らと世界を同一視する傾向を継良くしている。こうした自らの特殊性がその普遍性にあるという米国の自己認識は「米国例外主義American exceptionalism」ないし「アメリカニズム」と称される。

 

米国例外主義は、米国を米国たらしめている、あまりに深く重い、核心的なイデオロギーであるため、今後も覆ることは想像し難い。泥沼化したアフガニスタンやイラクへの介入経験から、オバマ以降の米国は厭戦ムードや内向き傾向を強めているが、それをもって米国例外主義の終焉と見なすのはいささか短絡的と思われる。米国例外主義は、一時の安全保障や経済の動向に還元されることのない、米国という実験国家のアイデンティティの根幹にかかわるものだからである。

 

南北戦争を経て米国では国家統合が進み、20世紀になると新興工業国として台頭。二度の世界大戦を経てソ連と並ぶ「世界の二大大国」となり、冷戦を経て「唯一の超大国」となった。影響力を増すにつれ、世界各地で米国への反発も顕著になっていった。

 

加えて、米国が近代化・西洋化・グローバル化の象徴的存在である点も世界各地で反発を生んだ。右派にとって、米国は近代社会の軽薄さや多民族社会の混乱の象徴であり、「世俗主義」「利己主義」「物質主義」「拝金主義」と同義だった。逆に、左派にとって、米国は資本家による労働者の搾取や近代帝国主義の象徴であり、キリスト教原理主義の力が強く、死刑制度や銃所有の廃止などに消極的な点が批判の的となる。これらは米国の制度や規範にかかわる反米種具の構造的要因である。

 

ただ、より広義の政策的要因として、米国のダブルスタンダード(二重基準)に対する反発が挙げられる。例えば、サウジアラビアとの関係。・・・サウジだけではない。1980年から8年間続いたイラン・イラク戦争でレーガン政権はイラクの独裁者サダム・フセイン大統領を支援。しかし86年には、敵国であるはずのイランに密かに武器を売却し、その利益を中南米ニカラグアのサンディニスタ左派政権の打倒を目指す武装組織「コントラ」に提供していたことが発覚した。中東のみならず、米国はラテンアメリカやアフリカ、アジアでもこうしたリアルポリティクス(理念よりも現実の利害関係を重視した政治)の観点から、民主主義とは到底言えない国家や政権を支持してきた経緯がある。

加えて、他国に求める理想像と米国自身の現実が剥離している点もダブルスタンダードとして批判されてきた。

 

しかし、

米国はハードパワー(軍事力、経済力)とソフトパワー(理念や価値の誘引力)の双方において、以前、優れた「力」のポートフォリオを有している、と、渡辺は言う。

 

 はしがき――「ノースカロライナ州カリタックのPM」の不満
第1章 自画像をめぐる攻防
 1 米国という実験
 2 米国流「リベラル」の誕生
 3 米国流「保守」の逆襲
 4 オバマとトランプをつなぐもの
 5 ペイリオコンと右派ポピュリズム
 6 民主社会主義と左派ポピュリズム
 7 異彩を放つリバタリアン
 8 トライバリズムの時代
第2章 ラディカル・アメリカ
 1 コロナ禍の政治学
 2 先鋭化する陰謀論
 3 BLM運動をめぐる攻防
 4 キャンセル文化とウォーク文化
 5 過激化する対立
 6 人種をめぐる駆け引き
第3章 米国モデル再考
 1 米国例外主義
 2 古典的帝国としての米国
 3 ダブルスタンダードと反米主義
 4 リベラル国際秩序
 5 権威主義国家による挑戦
 6 リベラル疲れ
第4章 分裂する世界認識
 1 パラレルワールド
 2 権威主義が見る世界
 3 民主社会主義が見る世界
 4 リバタリアンが見る世界
 5 リトレンチメント論争
 6 漂流する共和党
 7 中国問題
 8 アフガン撤退の意味
第5章 分断社会の行く末
 1 強まる遠心力
 2 楽観的シナリオ
 3 反動と障壁
 4 悲観的シナリオ
 5 アフター・ナショナリズム
 6 新たなリスク
 7 デジタル・レーニン主義
 8 問われるメタ・ソフトパワー
 あとがき
 索 引

 

渡辺靖:
1967年 生まれ.慶應義塾大学SFC教授.97年ハーバード大学Ph.D.(社会人類学).ハーバード大学国際問題研究所などを経て,2005年より現職.ケンブリッジ大学フェロー,パリ政治学院客員教授などを歴任.専門は現代米国論,パブリック・ディプロマシー論.日本学術振興会賞,日本学士院学術奨励賞受賞.
著書(単著)-『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会.サントリー学芸賞,アメリカ学会清水博賞,義塾賞)、『アメリカン・デモクラシーの逆説』『〈文化〉を捉え直す』(以上,岩波新書)、『文化と外交』『リバタリアニズム』『白人ナショナリズム』(以上,中公新書)ほか多数.

 

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