「太平記」
後醍醐天皇の鎌倉幕府討幕計画に始まり、
室町幕府三代将軍義満が登場するまでの
半世紀にわたる南北朝の動乱を描く。
語り継がれた「太平記」
プロデューサーAのおもわく
日本古典の中でも最も有名な軍記物の一つとして知られる「太平記」。その作風か軍略マニュアル、忠臣のあり方といった読まれ方をされることの多い「太平記」ですが、価値観が大きく移り行く「あわいの時代」というキーワードを使って一歩深く読み解くと、現代社会を生き抜くヒントの宝庫となります。そこで「100分de名著」では、「太平記」に新たな視点から光を当て、価値観が大きく揺らぎつつある現代とも比較しながら、乱世を生きる知恵を学んでいきます。
「太平記」は室町時代に成立したとされる物語。悪政によって綻び始めた鎌倉幕府。時の執権・北条高塒を討ち、天皇による新しい政治を打ち立てようとする後醍醐天皇は、初期のクーデターこそ失敗するものの、足利尊氏、新田義貞、楠木正成ら新しい時代の武将たちに助けられ、ついに幕府を滅ぼす。「建武の新政」と呼ばれる新しい政治がいよいよスタートするのですが、時代を読み切れなかった後醍醐天皇に対して、武士たちの不満が爆発。武士たちのリーダーとして足利尊氏が立ち、天下を分ける動乱が巻き起こります。新田や楠木に支えられ、一時は尊氏を九州へと追い落としますが、勢力を蓄えた尊氏は反抗作成を開始。ついに後醍醐天皇は吉野へと逃亡することに。天皇はこの地に南朝を打ち立て、日本は、北朝と南朝の二つの朝廷が並び立つ前代未聞の事態に陥りました。果たして天下を制するのはどちらなのでしょうか?
組織の存亡を賭けてしのぎを削る「太平記」の登場人物たちの姿には「人間関係の築き方」「組織興亡の分かれ道」「失敗から学ぶべきこと」等、今を生き抜く上で貴重な教訓にあふれています。能楽師の安田登さんは、アフターコロナにおいてニューノーマルからノーマルへと揺り戻すとき、人々がさらされるストレスや葛藤などとどう向き合えばよいのかをこの作品から学ぶことができるといいます。「太平記」は、混迷を深める現代にこそ読み返されるべき名著だというのです。
個性あふれる登場人物たちが、それぞれの野望を胸に抱きながら、知略、情念、情愛をからみあわせながら、せめぎあう歴史を描いた「太平記」を、現代社会と重ね合わせながら読み解き、厳しい現実を生き抜く知恵を学んでいきます。
鎌倉幕府、滅亡へ
第1回 「あわいの時代」を生きる
悪政により綻び始めた鎌倉幕府。執権・北条高塒を討ち天皇中心の政治を打ち立てようとする後醍醐天皇は、初期のクーデターこそ失敗するものの、足利尊氏、楠木正成ら新しい時代の英雄たちに助けられ、ついに幕府を滅ぼす。念仏ではなく「綿密の工夫」という禅的な方法で死を受け容れる日野資朝、夢告によって見出される異端的英雄・楠木正成は、これまで全く存在しなかった新しいタイプの人物であり、価値観が激変する「あわいの時代」を生き抜くヒントを体現しているという。第一回は、「太平記」に描かれる異端的人物から、価値観が激変する現代を生きるヒントを学んでいく。
南北朝対立へ
第2回 時代を読み切れないリーダーたち
天皇を中心とした「建武の新政」と呼ばれる新しい政治がいよいよスタート。だが、時代を読み切れなかった後醍醐天皇や公家たちに対して、武士たちの不満が爆発。武士たちのリーダーとして足利尊氏が立ち、天下を分ける動乱が巻き起こる。一見「弱いリーダー」に見える尊氏はなぜか多くの人を巻き込む力を発揮し善戦。しかし、新田や楠木に支えられた朝廷側は、尊氏を九州へと追い落とすことに成功するのだった。第二回は、時代を読み切れず失敗を繰り返すリーダーたちの姿を見つめ、その失敗に学びながら、新しい時代に対応したリーダーの資質がどんなものかを探っていく。
陰にうごめく亡者たち
第3回 「異界」が映す時代のエネルギー
尊氏はついに反抗作成を開始。公家たちの愚かな判断もあり、後醍醐を支えてきた楠木正成、新田義貞らは戦場で次々に無念の死を遂げる。追い詰められた後醍醐は熊野へと逃亡、この地に南朝を打ち立て、日本は、北朝と南朝の二つの朝廷が並び立つ前代未聞の事態に。だが、京奪還の野望も空しく後醍醐天皇は崩御。その怨念のなせる業か、京では度々魍魎や亡霊が人々を翻弄するのだった。突然「異界」を描く場面が増加する後半部には、無念の思いを飲んで死んでいった英雄たちの思いが映し出されているという。第三回は、「異界」が描かれるシーンの深い意味を読み解き、時代を真に突き動かすエネルギーとは何かを考える。
足利兄弟の内紛へ
第4回 太平の世は訪れるのか
幕府を開き主導権を握ったかに見える足利尊氏・直義兄弟。だが、側近・高師直が原因で兄弟は不和に陥りやがて相撃つことに。その際にキャスティングボードを握るのは常に南朝。伝統と文化に支えられた南朝を味方にした方が優位に立てるという流れが生まれ、時代は混乱を呈す。しかし、最後に時代を制するのは細川頼之のサポートを受けた足利義満。示されたのは、武家政権が滅び、それに代わる天皇親政が失敗した後、文化によって再強化された武家政権が安定をもたらすという道筋だった。第四回は、「文化」や「ヴァーチャル」なものが時代を動かすという「太平記」の奥深いメッセージに迫る。
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