朝日新聞:2022年6月24日
軍医でもある森鴎外は従軍中の詩歌を集めた「うた日記」の冒頭に、こんな趣旨の作品を載せた。「世の批評家よ、あんまりうるさく咎(とが)めてくれるな。日記の歌がみんな秀歌だったら、俺は歌の聖(ひじり)だろうよ」
歌人永田和宏さんが「図書」5月号で紹介しつつ、「思わず頬が緩んでしまう」と書いていた。「天声人語」より
「天声人語」の言わんとしていることは、「世にある居直りの多くは、見苦しいものばかりだ」として、先日公表された東京五輪・パラリンピックの公式報告書などについて批判しています。鴎外の「うた日記」には、「つまらないものとして世の人が焼いてしまうと言うのなら、焼かれてもよかろう」とまで書いています。
なぜ鴎外が、日記という形で詩歌集を発表しようとしたのか、そこに描かれている世界、戦争という<非常の景>を詩歌として詠うことにどのような意味があったのか。そんな<内容>に関わる疑問は、永田は意識して触れていません。
「うた日記」の鴎外
――音韻定型詩の可能性への挑戦 永田和宏(歌人・細胞生物学)
岩波書店からの小冊子「図書」、毎月一回配本されていて、僕も読んでいます。が、書く人と内容にもよりますが、なかなか難しい。5月号は永田和宏さんが書いたのをみつけて、こんなところにも寄稿しているのかと驚きました。
2022年5月1日発行
図書 第881号 岩波書店
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