金原ひとみの「fishy」(朝日新聞出版:2020年9月30日第1刷発行)を読みました。
「fishy」とは、「fish」に「y」を付けたもの。その意味は、
怪しい、いかがわしい、うさんくさい、魚の、魚の多い、魚からなる、魚のような、生臭い、どんよりした、無表情の。
どっちにしても、あまりいい意味ではなさそうです。
焼き鳥屋ののれんをくぐって引き戸を開ける。・・・「焼き鳥追加しようよ、あとあれ頼もう、何だっけそうそうチキン南蛮、私たちは30代で代謝落ちてるから一切れでいいんだよ、残りは20代が食えよ」。年齢的には、弓子が37で、ユリは32、私が28だからユリは私に近いにも拘らずそんな言い方をする
友愛でも共感でもなく、この刹那に集う女たち。作家志望のライター美玖、共働きで女性誌の編集をつづける弓子、インテリアデザイナーのユリ。
都内きってのナンパ街となった銀座のコリドーで、三人は互いのプライベートに踏み込まない距離感を保ちながら、この場かぎりの「ともだち」として付き合いをつづけている。気ままな飲みともだちに見えるが、彼女たちが抱える虚無は、仕事でもプライベートでも、それぞれに深い。
結婚したばかりの男に思いを寄せ、不倫によって日常が一変する美玖。サレ妻となった弓子は、夫の監視に疲弊しながら仕事と家庭と自尊心を守ることに必死だ。ユリの生活はリア充に映るが、まったく不透明で真実を見通すことができない。彼女たちは、どこへ向かうのか――。
愚かしく、狂おしく、密やかに――
友愛でも共感でもなく、
この刹那を愉しむ女たち
彼女たちの日常にひそむ罠と闇と微かな光。
女性の生きづらさと新たな連帯を届ける、
金原ひとみの小説的達成。
金原ひとみ:
1983年東京生まれ。
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。
04年、同作で第130回芥川賞を受賞。
ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。
10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。
12年、パリへ移住。
同年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
18年、帰国。
20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞を受賞。
21年『アンソーシャルディスタンス』で谷崎潤一郎賞を受賞。
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