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井上荒野の「結婚」を読んだ!

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井上荒野の「結婚」(角川文庫:平成28年1月25日初版発行)を読みました。

 

井上荒野、と言えば、最近、父親の井上光春と瀬戸内晴美(寂聴)の恋愛を赤裸々に描いた「あちらにいる鬼」が話題になりました。

 

作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だ。五歳の娘が将来小説家になることを信じて疑わなかった亡き父の魂は、この小説の誕生を誰よりも深い喜びをもって迎えたことだろう。作者の母も父に劣らない文学的才能の持ち主だった。作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう。

瀬戸内寂聴

 

さて今回は、結婚詐欺師の話。詐欺師の名は古海健児。宝石を扱っていて旅が多い。商談と雑談とを巧みに取り混ぜることによって、相手を信用させるという手である。たとえば「今日中に金を入れておかないと、押さえておけないんだ。僕の金は今動かせないから悪いけど貸してくれないか、あるだけでいいから」と言ったので、亜佐子はあっさりお金を出した。騙す方も騙される方も、癖のある人たちばかりです。詐欺師の本妻は初音です。初音も百戦錬磨、いろいろ分かっているから本当に怖い。物語は9章にわたって、つまり章ごとに9人の女性が出てきます。が、どの章もはっきりとした断定や結末はありません。あるのは”含み”や”思わせ”だけです。その辺が上手い。

 

今回の「結婚」、父の井上光晴の同名の小説に材を取って書かれた作品だそうです。解説の西加奈子は、光晴の「結婚」が人間の深淵に肉薄しつつも、多分にサスペンス要素をはらんでいるのに対し、荒野の「結婚」は動的なサスペンスではなく、内的なサスペンス、つまり人の心をたぐってゆくところに圧倒的な重きを置いている。結婚詐欺という出来事を事件としてとらえるのではなく、心象の軌跡に寄り添って描いておられるのだ。

 

井上荒野の作品「つやのよる」は映画化されたが、この「結婚」も映画化されたようです。

映画「結婚」公式サイト  大ヒット上映中!! (kekkon-movie.jp)

「結婚しよう」──まるで呼吸するかのように、自然にプロポーズを決める男。彼の名は古海健児(ディーン・フジオカ)。端正な容姿に気の利いた会話、捉えどころのないミステリアスな瞳、そしてどこか寂しげな横顔で瞬時に女たちの心を奪う、結婚詐欺師だ。出会ってひと月も経たない古海のプロポーズに、家具店で働く麻美(中村映里子)は驚き戸惑いながらも、初めて訪れた幸せに舞い上がる。だが、二人で暮らすマンションの敷金として100万円を渡した直後、古海は麻美の前から姿を消してしまう。そんな手口で古海は、元々は被害者の一人だったるり子(柊子)という相棒と共に、市役所に勤める鳩子(安藤玉恵)、キャリア志向の元編集の者の真奈(松本若菜)と次々と相手に合わせて設定を変えて女を騙していく。──だが驚くべきことに、彼自身は妻の初音(貫地谷しほり)と幸せな結婚生活を送っていた。ある時、鳩子が私立探偵の矢島(古舘寛治)に古海探しを依頼した事をきっかけに、騙された女たちが偶然に繋がり、古海の行方を探し始める。一方、窮地を助けてくれた謎の女・泰江(萬田久子)と出会った古海は、互いに過去に秘密を抱えている事ことを感じ取り、不思議な絆が生まれはじめる。そんな中、古海は彼女から、人生を変えるであろう“ある提案”を持ちかけられる……。果たして、騙した男と騙された女たちが、欲望の果てに見た真実とは?そして女たちの想像も願望も鮮やかに裏切る、古海が背負った秘密とは──?

 

話は変わって、井上荒野はタイトルのつけ方が抜群に巧い。たとえば「それを愛とまちがえるから」(中公文庫)とか、「その話は今日はやめておきましょう」(毎日文庫)とか、ついつい買ってしまいます。

 

井上荒野:

1961年、東京都生まれ。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞。2004年「潤一」で第11回島清恋愛文学賞を受賞。08年「切羽へ」で第139回直木賞を受賞。11年「そこへ行くな」で第6回中央公論文芸賞を受賞。著書に、「悪い恋人」「リストランテ アモーレ」「ママがやった」など多数。

 

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