安倍公房の「砂の女」(新潮文庫:昭和56年2月25日発行、平成15年3月25日53刷改版、平成29年6月5日76刷)を読みました。
読もうとしたきっかけは、100分de名著の2022年6月号予告に安倍公房の「砂の女」が予定されていたからです。安倍公房の「砂の女」は、確か新潮社版純文学書き下ろし特別作品を持っていたはずで、読んだことがありますが、その本がどこを探しても見当たりません。やむを得ず文庫本を購入したというわけです。
来る日も来る日も砂・砂・砂……。
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。
「砂の女」はこうして始まりまります。
八月のある日、男が一人、行方不明になった。休暇を利用して、汽車で半日ばかりの海岸に出掛けたきり、消息をたってしまったのだ。捜索願も、新聞広告も、すべて無駄におわった。
・・・そうして、誰にも本当の理由がわからないまま、七年たち、民法第三十条によって、けっきょく死亡の認定をうけることになったのである。
映画も何回か観ていますが、小説と同じくよく覚えて いません。映画では女は岸田今日子でしたが、存在そのものが多くを物語っていたように思います。小説では女はそっけなく、あまり色っぽく描かれていません。
圧倒的に砂・砂・砂……。この砂穴からの脱出方法はありそうに思われますが、男は何を試みても脱出できない。ノーベル賞の候補にもなったという安倍公房、日本人でさえ理解できないこの物語を、外国の人が理解できるのか、これも不思議なことです。ドナルド・キーンが文庫本の解説をしています。
安倍公房:
(1924-1993)東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。
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