府中市美術館で「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」を観てきました。
ここでは、歌川広重の代表作「名所江戸百景」を取り上げます。
0章 歌川広重の<名所江戸百景>
歌川広重は、江戸後期に活躍した浮世絵風景画の大絵師です。
寛政9(1797)年に江戸の定火消(じょうびけし)同心の子として生まれた広重(幼名・安藤徳太郎)は、十代前半で家を継ぐ一方で、歌川豊広に入門し浮世絵師としても活動する。そして天保3(1832)年には同心職を譲って画業に専念し、翌年には版元・保永堂より「東海道五十三次」の刊行を開始した。江戸から京都にいたる東海道沿いの宿場町を描いた全55枚組の大判錦絵シリーズは、見る者に遠隔の地への憧憬と旅情をかき立て、大変な評判となる。人気絵師となった広重は、その後も多景の風景版画に取り組んでいった。
そんな彼が最晩年に手がけた新たな連作が、「名所江戸百景」である。安政3(1856)年よりスタートしたこのシリーズでは、江戸市中や近郊の景観が多色木版によって季節感豊かに表されている。一連の作品は、精緻な彫や巧みな摺りも相まって好評を博したが、安政5(1858)年の広重逝去によって制作は打ち止めとなり、二代広重の作を加えた全119図にまとめられた。
「名所江戸百景」に描かれているのは、広重をはじめとする江戸の人々にとって、訪れたことのある土地、日頃から親しんだ行事、日常の延長線上に広がる光景である。そうした馴染みの題材を絵画化するにあたって彼は、特段の創意を発揮した。高台から見下ろすような広がりのある俯瞰構図、風景の一部分を印象的に切り取ったトリミング、思いがけないシーンに焦点を当てた自在な視点。なかでも、近景を極端に大きく描く「近像型構図」が目を引きつける。透視画法など西洋で理論化された遠近表現は、江戸後期には日本でも知られるようになっていた。広重ら絵師たちは、これらの手法を誇張的に用いることで、大胆で斬新な画面を作り出したのである。
「名所江戸百景」は大ベストセラーとなり、版を重ね続けた。そしてそこで展開された表現上の工夫の数々は、いわば「映える風景」を描く定番手法として、のちの作品にも見受けられる。
展覧会の構成は、以下の通りです。
0章 歌川広重の<名所江戸百景>
1章 新たな視線、受け継がれる表現
1-1 開化絵
1-2 西洋画法と写真
1-3 小林清親の光線画
2章 名所を描く、名所を伝える
2-1 川瀬巴水の新版画
2-2 国立公園の絵画
2-3 観光グラフィック
3章 風景へのまなざし、画家たちのまなざし
3-1 富士と和田英作
3-2 民家と向井潤吉
「府中市美術館」ホームページ
東京都府中市ホームページ (city.fuchu.tokyo.jp)
「映えるNIPPON 江戸~明治 名所を描く」
展覧会図録
発行日:令和3(2021)年5月
発行:府中市美術館
朝日新聞:2021年6月22日
江戸の街の人気スポットを描いた歌川広重の浮世絵に、近代化した街を描いた明治期の開化絵。高橋由一に代表される写実性の高い西洋画法や、小林清親や川瀬巴水の風景版画。テレビもスマートフォンもない時代、名所の姿を広めたのはこうした絵画や版画、新たに登場した写真だった。幕末~昭和の風景画を集めた今展には、同じ場所を描いた複数の作品も登場するが、構図や昼夜の違いなどからは作家の個性が感じ取れる。
(町田市立国際版画館については省略)
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