柳美里の「JR品川駅高輪口」(2016年11月20日初版発行、2021年2月20日新装版初版発行)を読みました。
全米図書賞受賞のベストセラー『JR上野駅公園口』と同じ「山手線シリーズ」として書かれた河出文庫『まちあわせ』を新装版で刊行。居場所のない少女の魂に寄り添う傑作。
全米図書賞(翻訳文学部門)受賞作&30万部を超えるベストセラー『JR上野駅公園口』に並ぶ「山手線シリーズ」の1冊が河出文庫に登場(文庫『まちあわせ』新装版)。
誰か私に、生と死の違いを教えて下さい――ネットに飛び交う「自殺」「逝きたい」の文字。電車の中、携帯電話を手にその画面を見つめる少女、市原百音・高校一年生。形だけの友人関係、形だけの家族。今日、少女は21時12分品川発の電車に乗り、彼らとの「約束の場所」へと向かうのだが――。
居場所のない「一人の少女」の「魂」に寄り添い描かれた傑作。
*「新装版あとがき 一つの見晴らしとして」収録
*解説=瀧井朝世「死なない瞬間」
主人公は品川駅高輪口近くの住宅地に暮らしている高校生、市原百音だ。学校ではいじめにあい、家庭では両親が不仲な上、母親の愛情は弟に注がれており、彼女には自分が愛されていると実感できる場がない。居場所がないのだ。・・・本人にとっては真綿で首を絞められているようなものだ。そんな百音の日課はネットの自殺志願者の掲示板をのぞくことで、どうやら彼女自身も書き込んでいる模様。彼女は自殺という行為に魅せられているのだ。
「解説 死なない瞬間」で瀧井朝与は、以下のように言う。
自殺を実行する人としない人、しようとして思いとどまる人の違いは何か。踏みとどまる勇気というのは、どんな時に生まれるのか。著者は死にたいと願う少女に対し、時に内側に入り込み、時に傍らに立って、その心模様の変化を独特の手法で描いていく。終盤で百音がとって行動は、死というもののすぐ隣に身を置いて、生を見つめてみた、ということだ。そして彼女はその時、死なない瞬間を選んだのだ。そこにかすかに、生への肯定が見えてくる。
柳美里:
1968年生。高校中退後「東京キッドブラザース」入団。86年演劇ユニット「青春五月党」結成。93年『魚の祭』で岸田戯曲賞、97年『家族シネマ』で芥川賞、2020年『JR上野駅公園口』で全米図書賞受賞。
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