興梠一郎の「中国 目覚めた民衆」を読んだのは、2013年3月、ちょうど1年前のことでした。その時にもこのブログに書いたのですが、三井住友トラスト基礎研究所主席研究員の伊藤洋一が、TBSラジオの「森本毅郎・スタンバイ」で、興梠一郎の「中国 目覚めた民衆」と、柯隆の「中国が普通の大国になる日」を、2冊紹介していました。この2冊を同時に購入したのですが、「中国が普通の大国になる日」(実業之日本社:2012年10月20日初版発行)の方は、読めないままで今に至りました。今回、読もうとしたキッカケは、つい最近、中国の「全国人民代表大会」が開催され、その報道に接したことによります。
柯隆(か りゅう):略歴
1963年中国南京市生まれ。1994年名古屋大学大学院経済学修士課程修了。1994年長銀総合研究所入所。1998年富士通総研経済研究所へ移籍。現在、富士通総研経済研究所主席研究員。静岡県立大学特任教授。広島経済大学客員教授。東海日中貿易センター客員研究員。財務省外国為替審議会アジア専門部会委員、財務省財務総研中国研究会委員などを歴任してきたほか、日中両国において講演、メディアへの寄稿等で活躍。著書に「チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社)、「中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社)などがある。中国中央電視台(CCTV)財経チャンネルコメンテータ。
本の帯には「指導者は普通の人・静かに進む民主化・相応の経済成長」とあり、そして「成長モデルの終焉に伴う経済成長の鈍化と政治腐敗に起因する社会の不安定化が国家崩壊に結びつく可能性があることを、自らいちばんよく知っている中国には“普通の大国”へと変わる以外に選択肢はない」とあります。
2012年11月、習近平総書記をトップとする中国共産党の新指導部が誕生しました。習近兵体制で中国はどうなるのか。経済成長は持続できるのか、中国は民主化するのか。日中関係はどうなるのか、等々。なにしろこの本は、平易な文章で読みやすい、分かり易い。この本の中には、中国問題のほとんどが網羅されています。そして最後に、日本へのアドバイスも載っています。
いま認識されているチャイナリスクの実情
1 政治的公平性の欠如
2 共産党幹部の腐敗
3 民主主義政治体制構築の遅れ
4 所得格差の拡大
5 国民の不満と怒りの蓄積
6 国有企業による市場独占
7 金融制度改革の遅れ
8 国際経済の不均衡
9 人民元の為替改革の遅れ
10 研究・開発(R&D)の遅れ
11 知的財産権保護の欠如
12 生態環境の破壊
改革がなければ、終末に向かうしかない
イデオロギーや政治が弱体化し、指導者のカリスマ性が低下してきたなかで、中国はこれからどのような方向を目指していくのか。おそらく、共産党一党独裁という政体を維持しつつ、経済は資本主義を導入するという、現状のままの中途半端な形でいこうとすると、ますます中国はおかしな方向に進んでしまうとみるのが妥当だろう。次期政権による改革がなされなかった場合の中国の行く先は、かつて強力な独裁者が采配を振っていたものの、民主化の兆しが現れて徐々に権力が弱体化していった、いくつかの国の末路と重なってみえる。・・・そうならない道を探るとすれば、新しく国家主席の座に就く習近平が、強いリーダーシップを発揮しながら改革を進め、民主化に近づくような路線を自ら導入するしかない。それができなければ、習近平は中国共産党の歴史のなかで、最も弱い指導者として、中国社会がますます不安定化していくのを眺め続け、場合によってはその末路を自らの時代に目の当たりにするだろう。(本文より)
目次
序 章 中国の将来を考える2つの視点
第1章 中国の「失われた10年」
第2章 共産党一党支配が終わる日
第3章 少数民族問題の本質
第4章 中国経済の成長は持続可能か?
第5章 人口減少という中国が抱える最大の問題
第6章 人民元は広く流通する通貨になれるのか
第7章 中国の行方と日本企業の対応法
3月14日の朝日新聞によれば、「習主席、際だつ集権 李首相は無難な答弁」という見出しで、中国の全国人民代表大会の閉幕を報告しています。李克強首相は、始めて担った政府活動報告が圧倒的多数で裁決されたが、閉会後の記者会見では慎重な言葉を選んで「安全運転」に終始した、とあります。習近平主席の存在感が際だち、首相とのツートップ体制も色あせている、としています。流れが顕著になったのは、昨年11月の党中央委員会第3回全体会議からで、習氏自らが組長に就任。他にも3中全会で発足が決まった「国家安全委員会」と「改革の全面深化指導小組」のトップにも就任。国家主席、党総書記、中央軍事委員会主席と合わせ「5権の長」と呼ばれる「集権化」が進んだ、とあります。全人代の冒頭、李首相が読み上げた政府活動報告は、大手国有企業や軍などにある抵抗勢力を念頭に「凝り固まった既得権益の垣根を突き破る」とうたった。しかし、李首相の会見を見た外交筋は「今後の改革の主役は習氏と党。首相は国の安定の基礎である経済運営などに専念するということだろう」と話したという。
柯隆は、「なぜ胡錦濤・温家宝政権はなにもできなかったのか」として、リーダーの組み合わせについて述べています。つまり「ロマンチスト+リアリスト」がトップの理想、としています。経験からいえば、ナンバーワンである国家主席がロマンチスト(理想主義者)であり、ナンバーツーである首相がリアリスト(実務主義者)という組み合わせのときが、最も機能的に政治がワークするようにみえる、という。ポスト胡錦濤の次期政権を展望してみると、次期国家主席の習近平がロマンチストであるかどうかはわからないが、次期首相がリアリストであることは何よりも重要だ、と柯隆はいう。果たして習近平・李克強政権が柯隆の予想通りでったかどうかは、今後を待つしかありませんが・・・。
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