久保田直監督・編集の「家路」を観てきました。
2011年3月の震災と原発の事故から3年。3か月後に気仙沼、6か月後に石巻に行って、被災地の惨状を目に焼き付けて帰ってきました。テレビで流れる被災地の映像を見ても、ほとんど何も進展しているようには見られません。震災復興の予算も、見えないところで流用されるという、いかにも姑息な実情が露呈されたりもしています。一方で、労務費や材料費の急激な値上がりで、役所は工事を発注することすらできない状態です。震災後の一時期、手弁当で震災関連の建築を設計していた良心的な建築家も、とても付き合ってはいられないと、実入りのいい実務に戻りつつあります。
文学でいえば、原発事故を踏まえていち早く旧作をリメイクした川上弘美の「神様2011」があり、震災後文学の代表作といわれる、いとうせいこうの「想像ラジオ」がありました。映画では、これと言った震災後の作品はまだ生まれていないように思われます。そのなかで園子温監督の「希望の国」があり、また奥田瑛二監督の「今日子と修一の場合」がありました。 そして、久保田直監督・編集の「家路」が出てきました。
この映画の主題は、東日本大震災の直後ではなく、一定の月日を経た今、「放射能汚染地域への帰還」です。舞台は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、帰宅困難となった福島県沿岸部の町です。すべてを失った農家の跡取りの兄(内野聖陽)と、兄のために故郷を離れていた血のつながらない弟(松山ケンイチ)、この二人を軸に、物語は進展します。二人の父親は地方の政治家で、家はそれなりの名家でもあります。たぶん、選挙違反でもあったのか?
弟は兄の身代わりで故郷を出たようだが、どうして急に生まれ故郷に戻ることになったのか。郷里とは音信を絶って、都会で独りで生きてきたのではないのか。兄は何を生業にしているのか、今一つ生きる目標がはっきりしません。兄は妻との折り合いが悪く、妻は外でいかがわしい仕事をしていたりもします。その辺りがよくわからないままに、物語は進行します。仮設住宅での暮らしは息がつまりそうです。一方、弟はモミから苗を作ります。汚染された居住制限区域内の田に水を引き、母親とともに田植えを行い、そうなればもう、豊かな自然はそこで暮らす人たちの味方です。認知症かもしれない症状が見えた母親も、田植えをすれば元気いっぱい、認知症はどこかに吹っ飛んだようです。
こういうテーマの主人公に松山ケンイチは、もってこいの俳優です。人なつっこそうな、はにかんだような笑顔は天下一品です。麻生久美子と共演した「ウルトラミラクスラブストーリー」での松山ケンイチの津軽弁は最高でしたが、今回の福島弁も似合っていました。ちょっとボケが入った田中裕子、上手かったですね。兄の妻役の安藤サクラ、あの投げやりな演技は、これまた上手い。
以下、とりあえず「シネマトゥデイ」より引用しておきます。
チェック:テレビドキュメンタリーを中心に活躍し、ギャラクシー大賞を筆頭にさまざまな賞を獲得してきた久保田直がメガホンを取ったヒューマンドラマ。東日本大震災によって故郷を失ってしまった家族が、さまざまな試練を乗り越えながらも絆を強めていく姿を追い掛けていく。『マイ・バック・ページ』などの松山ケンイチ、『共喰い』などの田中裕子、『今日子と修一の場合』などの安藤サクラら、実力派が共演する。自然や家族を深く見つめたテーマ性に加えて、オールロケを敢行して捉えられた福島の緑あふれる風景も見もの。
ストーリー:東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故によって、先祖代々受け継いできた土地を失ってしまった一家。そこを離れて、未来を想像することすらできない毎日を送っていた彼らの前に、20年ほど前に故郷を飛び出したまま連絡すらしてこなかった次男が現れる。戸惑う家族を尻目に、彼は一人で苗を育てては、誰もいない田んぼにそれを植えていく。その姿に長男と母親は故郷で生きていく彼の決意を感じ取り、バラバラであった彼らの心と絆が少しずつ再生されていく。
過去の関連記事:映画
奥田瑛二監督の「今日子と修一の場合」を観た!
園子温監督の「希望の国」を観た!
過去の関連記事:文学
いとうせいこうの「想像ラジオ」を読んだ!
川上弘美の「神様2011」を読んだ!