宮城県美術館で「洲之内徹と現代画廊―昭和を生きた目と精神―」を観てきました。この展覧会を観て、洲之内徹とはどういう人なのかはもちろん、こんなにも多くの画家のことを知ったことが僕の大いなる収穫でした。2013(平成25)年は、洲之内徹が生まれてちょうど100年目だという。洲之内は、文学者として、画廊主として、美術収集家として、そして美術評論家として、美術エッセイの書き手として知られているという。実はこの展覧会を観るまで、僕はまったく洲之内のことは知りませんでした。しかし、展示されていた幾つかの観たことのある作品が、洲之内となんらかの関係があったことには驚きました。
愛媛県松山市に生まれた洲之内は、東京美術学校建築科在学中、左翼運動に加わって美術学校を除名処分となり、戦時中は軍嘱託として中国に渡りました。帰国後に小説を書き始め、芥川賞候補に三度も挙げられながら受賞することはありませんでした。1959(昭和34)年、中国で知り合った田村泰次郎の経営する現代画廊に入社し、1961年にはその経営を引き継ぎ、個性あふれる作家を紹介しました。1974年から14年間、「芸術新潮」誌に連載した「気まぐれ美術館」は独特な語り口で、多くの読者を獲得しました。1987(昭和62)年脳梗塞で倒れ、帰らぬ人となりました。洲之内徹とは、昭和という時代を独自の目と精神によって切り取りながら走り抜けた人物でした。
洲之内が最後まで手放さなかった作品は、現在「洲之内コレクション」として宮城県美術館に収蔵されています。「洲之内徹と現代画廊―昭和を生きた目と精神―」では、このコレクションのうち半数を超える作品のほか、彼の著作の中で語られた作品や、現代画廊の初期にかかわる作品、また洲之内の手を通った作品、作家の特徴をよく表す作品などを含めた総数約190点の作品と、さまざまな関係資料によって、洲之内徹と美術とのかかわりを見直そうという展覧会です。
有川幾夫(宮城県美術館館長)は、「洲之内徹と昭和」と題して図録の巻頭論文を書いています。そのなかの「萬鉄五郎の孤独」という箇所が興味深い。洲之内が田村泰次郎から経営を引き継いだ現代画廊は昭和36年11月、「萬鉄五郎展」で再出発します。萬は戦後になって次第に評価されつつあったが、まだ有名ではありません。
近代美術史を体系的に収集・展示する近代美術館ができたのは、昭和26年の神奈川県立近代美術館、翌年の国立近代美術館が最初だという。当時、近代美術館は、近代美術を明らかにすることが大命題だった。そこで開催した展覧会は「四人の画家―中村彝・小茂田青樹、萬鉄五郎・土田麦僊」(昭和28年)でした。日本近代美術史にとって欠かせない著名な作家二人と、まだ無名であるが重要な作家二人をあわせて構成したものです。神奈川県立近代美術館と国立近代美術館のメンバーは、戦前の価値観にとらわれることなく、日本の「近代美術史」という観点から画家と作品を発掘していきました。
洲之内徹もこの新しい流れの中にありました。戦後の「美術館のある時代」になってスポットライトを浴びるようになった萬鉄五郎、中村彝、靉光、松本竣介といった画家たちの作品を手に入れることができたのも、歴史意識と批評性をもった近代日本美術史が、まだ構築中だったからでした。洲之内は独り立ちして、画廊のこけら落としに「萬鉄五郎展」を開きます。戦後、美術の歴史性、作品への批評性という視点が発見されるなかで、洲之内はあくまで「わたくし的」であることをやめません。非歴史的な見当違いを振り回したりはしません。そのうえでなお、そうして生まれた作品が自分の心持ちに訴えるのはなぜか、と問うことをやめないのでした。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第Ⅰ章 初期の現代画廊
第Ⅱ章 再評価された作家
第Ⅲ章 現代画廊の作家たち
第Ⅳ章 洲之内ゆかりの作家
第Ⅴ章 松山をめぐって
第Ⅰ章 初期の現代画廊
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第Ⅱ章 再評価された作家
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第Ⅲ章 現代画廊の作家たち
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第Ⅳ章 洲之内ゆかりの作家
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第Ⅴ章 松山をめぐって
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「洲之内徹と現代画廊―昭和を生きた目と精神―」
2013(平成25)年は、洲之内徹(1913-1987)が生まれてちょうど100年目にあたります。愛媛県松山市に生まれた洲之内は、小説家、田村泰次郎から引き継いだ現代画廊で、個性あふれる数多くの作家を紹介しました。また『芸術新潮』誌上に14年の間「気まぐれ美術館」を連載し、その独特の語り口は多くの熱心な読者を獲得し好評を博しました。洲之内が最後まで手放さなかった「洲之内コレクション」は宮城県美術館に収蔵されています。本展では、このうちの半数をこえる作品のほか、彼の著作の中で語られた作品、現代画廊の初期や洲之内が引き継いだ後の作家の作品など、総数約190点と関係資料によって、洲之内徹と美術との関わりをあらためて見直します。このことは昭和を生きた一人の人間の足跡を通じ、戦後の新しい近代美術史像が生成される過程のひとこまを垣間見るとともに、なぜ人はかくも美術に愛着をもつのかという問いに思いをはせることになるでしょう。
「宮城県美術館」ホームページ
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「洲之内徹と現代画廊―昭和を生きた目と精神―」
図録
編集・執筆:
宮城県美術館
和田浩一、加野恵子、小檜山祐幹、管野仁美
愛媛県美術館
鴫原悠
町立久万美術館
神内有理
新潟市美術館
松沢寿重
発行:
NHKプラネット東北