ヤーコプ・ブルクハルトの「ルーベンス回想」(ちくま学芸文庫:2012年3月10日第1刷発行)を読みました。「本書はちくま学芸文庫のために新たの訳出したものである」と注記があります。ブルクハルトの本は過去に「イタリア・ルネサンスの文化」 (1860年)を、文庫本で読んだ記憶があります。もう30年以上も前のことです。他にも文庫本で呼んだものがあったかも知れませんが、思い出せません。なにしろ文庫本はヒモで縛って、押し入れの奥深くに入ったままですから。
ヤーコプ・ブルクハルトの「ルーベンス回想」(ちくま学芸文庫:2012年3月10日第1刷発行)を読みました。400ページにも及ぶ分厚い文庫本です。特筆すべきは、この種の本には当然のことですが、それにしても図版が多いこと、図版を拾い上げてみると、なんと246もの図版が掲載されていました。作品の所蔵先は、ルーヴル美術館、プラド美術館、エルミタージュ美術館、ウフィッツィ美術館、ドレスデン国立美術館、アントワープ王立美術館、ベルギー王立美術館、ウィーン美術史美術館、等々に混じって、ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク所蔵の作品が目に付きます。
ブルクハルトが最初の著作「ベルギー諸都市の美術品」を出版した時は、なんと彼が23歳(1841年)だったというから驚きです。そのなかで「ここアントワープにはじつに沢山のルーベンスの絵があり、その中には彼の最上の作品がいくつかある」と書いています。(前にも書きましたが)2011年4月に「オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ」へのツアーに参加し、行く先々でルーベンスの作品を観ることができました。ルーベンスが肉感的な女性を描くので、ガイドは必ず「肉屋のルーベンス」という言葉を連発し、ルーベンスの絵の説明をしていました。
アントワープ大聖堂は、4つのルーベンスの最高傑作を所有しており、まさにルーベンスの作品の宝庫でした。それは「十字架昇架」(1609-10年)、「十字架降下」(1611-14年)、「キリストの復活」(1611-12年)、「聖母被昇天」(1625-26年)の4つです。
その他、ベルギー王立美術館や、アムステルダム美術館などでも、ルーベンスの作品を観ることができ、以前行ったプラド美術館をあわせると、かなりのルーベンスの作品を観ることができました。先日、運良く日仏会館フランス事務所で開催された「フランドル油彩技法の伝統と革新:ルーベンスの影響とフランスの画家による展開」という講演会を聴くことができました。聖バーフ教会のファン・エイクの祭壇画「神秘の子羊」から始まりルーベンスへと絵画技法を見ていくものでした。「神秘の子羊」も同じツアーで観ていたので、話の内容にすぐ入り込めました。
講演会「フランドル油彩技法の伝統と革新 ルーベンスの影響とフランスの画家による展開」を聴く!
聖バーフ大聖堂の祭壇画「神秘の子羊」を観た!
「ルーベンス回想」、いわゆる「伝記的」なところは第1章ルーベンスの生涯のみで、他の第20章まですべてはルーベンスの作品の詳細な分析に当てています。従って作品と図版を見比べながら読み進むため、やたら時間がかかりました。掲載されている図版は小さくしかも白黒なので、今まで観た展覧会の図録とか、あるいは「週刊・世界の美術館」を引っ張り出しては、確かめたりもしました。読み終わった後で気がついたのですが、2006TASCHEN版「ペーテル・パウル・ルーベンス」を持っていたんですね。もっと早く気がつけば、苦労しなくても良かったのですが・・・。
ブルクハルトは1898年に死去しましたが、その数週間前に、この著作「ルーベンス回想」を自分の死後に出版してもらいたいと、弟子たちに言い遺し、それに従って1897年の年末ぎりぎりに1898年という発刊年で出版されました。バロックの大画家ルーベンスとの取り組みは、20代のはじめから死の直前に至るまで、ブルクハルトの全生涯を通して行われてということになります。これほどまでに一人の画家に入れ込むということは、通常できることではありません。そう言う僕も、これから折に触れ、この本を読み返すことになるかも知れません。
内容紹介:
19世紀ヨーロッパを代表する美術史家・歴史家・文化史家ブルクハルト。彼は最初の著作「ベルギー諸都市の美術品」を出版した時から、さまざまな機会に、とりわけ巨匠ルーベンスについて度々言及してきた。この美術史家を惹きつけてやまなかったものは、何であったのか。本書は、「最大の絵画的物語作者」ルーベンスの生涯を追い、その絵画の本質を神話画・肖像画・風景画など作品テーマに沿って解説する。鋭利な筆によって、ブルクハルトが理想として思い描いていた、「万能の人」としての巨匠の姿が浮き彫りにされる。カラー口絵のほか、図版多数。新訳。
ヤーコプ・ブルクハルト:
1818-97年。スイスの美術史家・文化史家。ベルリン大学で、歴史家ランケと美術史家クーグラーに学ぶ。1858年から35年にわたってバーゼル大学教授として歴史学、美術史を講じる。本書の他『コンスタンティヌス大帝の時代』(1853年)、『チチェローネ』(1855年)、『イタリア・ルネサンスの文化』(1860年)、『ギリシア文化史』(1898-1902年)等の著作がある。
ルーベンス回想 目次
凡例
第1章 ルーベンスの生涯
第2章 建築家としてのルーベンス
第3章 芸術家としてのルーベンス
第4章 西欧芸術の外的状況とルーベンスの制作活動
第5章 銅版画
第6章 人体と衣装―男性と女性の裸体像
第7章 裸童(Putto)
第8章 美の表現―さまざまな型と身体像
第9章 ルーベンスにおける構図
第10章 ルーベンスの絵の画面における人物の配置と動き
第11章 穏やかな描出と激越な描出
第12章 人物の姿勢
第13章 聖母マリア像―四終
第14章 神話画
第15章 物語画
第16章 寓意画
第17章 風俗画
第18章 肖像画
第19章 動物画
第20章 風景画
後注
訳者後記
図版索引
1577-1640
絵画界のホメロス
ジル・ネレ
2006TASCHEN
画像は「麦わら帽子」(実はフェルト帽)過去の関連記事:
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