森田義光監督の「(ハル)」について、“ウィキペディア”には以下のようにあります。パソコン通信を題材にした本作は、インターネットの普及以降から見れば時代的な古さを感じさせるが、同様のハリウッド映画『ユー・ガット・メール』(1998年12月18日全米公開、監督:ノーラ・エフロン、主演:トム・ハンクス、メグ・ライアン)より3年近く早く公開されている、と。
森田芳光の監督した作品に、「(ハル)」(1996年)という作品があることを、僕はつい最近まで知りませんでした。友人が最近この作品を観たことを聞いて、始めて知りました。森田芳光の演出と脚本で、深津絵里と内野聖陽の演技は多方面で高い評価を得たという。僕も観てみようと思っているうちに、森田芳光は2011年12月20日、突然亡くなりました。C型肝炎による急性肝不全だったそうです。61歳、若すぎる死でした。
森田の作品で僕が観たのは、「家族ゲーム」(198年)、「それから」(1985年)、「間宮兄弟」(2006年)の3本でした。僕の森田監督像は、良い意味では“なんでもこなす”監督であり、悪い意味では“節操がない”監督といった印象でした。「失楽園」「模倣犯」「阿修羅のごとく」「海猫」「椿三十郎」、最近では「わたし出すわ」「節の家計簿」、等々、“ベストセラーもの”や“リメイクもの”まで、なんでもござれ、そこそこ観客を呼べる監督のようですが、初期の硬派的な作品とは次第に遠ざかって、商業映画に落ち込んでいった感があります。とは、門外漢の印象ですが。
森田芳光の監督・脚本による(ハル)(1996年)、今観ても新鮮です。僕が始めてパソコンを手にしたとき、いわゆる「メル友募集」のサイトが多くありました。「メル友」から「掲示板」へ、そして「チャット」へと移っていきました。その辺は、今もまったく変わっていないようです。そこで“悲喜劇”が繰り返されるというわけです。「(ハル)」も同様のネット上で、男が女になりすます「ネット・オカマ」や、アラシと呼ばれる「ネットストーキング」が出てきたりもします。匿名性という「電子メール」の特性は、今もほとんど変わっていません。
「あらすじ」は、比較的分かり易い。(ハル)というハンドル名で、映画フォーラムに参加していたが、そこで知り合った(ほし)とメールのやりとりをするようになります。お互いに顔も名前もしらない気安さから、次第に悩みを相談するようになります。最初は男としていた(ほし)だが、メールを重ねるうちに、女であることを告白します。それでも二人の関係は今までと変わらず、いつしか絆が深まっていきます。同じフォーラムでハルは(ローズ)という女性と知り合い、デートをするようになります。ある日、ハルは青森へ出張することになり、二人は決められた同じ場所で、走る新幹線の中と外から合図を送り、ビデオを撮ることを約束し、一瞬の対面を果たしました。
ほしの妹が帰省し、姉のパソコンを開いて、(ローズ)というハンドル名で映画フォーラムに参加していることを姉に告げます。以前ハルから、ローズと逢ってホテルへ行ったと聞いていたほしは、ショックを受けます。その保とを知ったハルはあれはウソだったと言い訳をしますが、ほしはそれを信用せず、メールのやりとりを止めてしまいます。ハルは星からの返事がなくても、ほしにメールを送り続けます。やがてハルの本当の気持ちに気付いたほしは、最初からやり直すことにします。ほしはハルに逢うために新幹線に乗ります。東京駅のホームで待ち合わせた二人は、「初めまして」と最初の言葉を交わしました。
ほし役の深津絵里、幼さは残るものの、役柄にぴったし、ゆれる気持ちがにじみ出ていて、良かったですね。最近は「悪人」で、せつない役どころで映画賞を独占しましたが、やはりはじめはネットからでした。妹役の戸田菜穂、現代っ娘の特徴を良く出していました。背が高いんですね。しかし、同じフォーラムに姉妹で参加するという、しかも同じ男を取り合う確立は、ほとんど無いようにも思われますが。あるいは妹を出さなくても、話は成りたつと思うのですが、どうでしょう。最初、観る前は、(ハル)は深津絵里の役名かと思いきや、そうではなく、速水昇、つまり最初と最後の文字を取って(ハル)というハンドル名にした男性でした。ハル役は内野聖陽、生真面目な、おろおろする辺りが名演技でした。全編、ほとんどセリフはなく、画面上にメールの文字が映し出されるだけですから、もどかしいと言えばもどかしい、そういう時代だったのでしょう。
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