国立西洋美術館で「常設展」を観てきました。観に行ったのは9月20日のことです。前に「所蔵品展 廃墟や遺跡」として取り上げたことがありますが、ここでは主として「キリスト教関連」の主題を扱った作品を中心に、以下に載せておきます。作品の解説は会場に掲示されていたものを使用しています。西洋美術館では地下では「ミケランジェロ展」、「コルビジュエ展」が開催されており、いわゆる「常設展」の作品の配置は大幅に変更されていました。とはいえ、ほとんどは今まで何度か観た作品ばかりですが、新収蔵作品もありました。見馴れた作品とはいえ、また、違って新鮮に見えるからフシギです。
今朝の新聞によると、「ミケランジェロ展 天才の軌跡」が17日に閉幕し、会期63日間の総入場者は22万930人だった、という。
16世紀の北方の三連祭壇画
15世紀以来アルプス以北では、中央の大きなパネルの両側にヒンジによって開閉可能な翼部パネルを加えた、三連画によって祭壇を装飾するのが一般的でした。この三連祭壇画の特質は、中央パネルに中心的な主題を表し、両脇の翼部パネルに副次的な主題や人物を描くという構造を通して、それぞれの部分に描かれた主題や人物の意味上の階層を、はっきりと見る者に伝える点にありました。ヨース・ファン・クレーフェは16世紀前半のアントウェルペンで活動した画家です。「三連祭壇画:キリストの磔刑」は、一続きになった風景の中で、中央パネルのキリスト磔刑像を中心に、跪いてこれを礼拝するこの祭壇画の寄進者夫妻の像が、左右のパネルに描かれています。
「悲しみの聖母」は1655年頃、カルロ・ドリチ39歳の作です。暗い背景に淡い光背に包まれて、深みのあるラピスラズリの青のマントに身にまとった聖母マリアの美しくも悲痛な表情は観る者の心に深く訴えかけるものがあります。彼は子供の頃から敬虔な新興の持ち主で、生涯ベネディクトゥス信者会に属していました。両手を合わせた聖母の構図はティツィアーノの聖母像に起源をもちますが、むしろティツィアーノを原型として16-17世紀にスペインで人気を博した聖母像の形式をふまえたものと考えられます。
東フランスのロレーヌ地方で活躍したラ・トゥールは、一度は人々の記憶から遠のき、20世紀になって再評価された画家です。蝋燭の光に照らされた神秘的な画面を多く描き「夜の画家」とも呼ばれ、現在残る真作がわずか40点にも満たないことから、しばしばオランダのフェルメールと比較されます。この絵に描かれているのは、キリストの十二使徒の一人で、インドへ伝道に赴き、異教の人々に槍で突かれて殉教した聖トマスです。その持ち物である槍(十字架上でローマ兵の槍に突かれて絶命するキリストの隠喩)を手にしています。
レアンドロ・バッサーノは、16世紀ヴェネツィアを代表する画家ヤコボ・バッサーノの息子として生まれました。父と兄のフランチェスコから画技を学びながら、画家として自立し、次第に高い名声を博するようになります。「最後の審判」は、画面上半分には天国における諸聖人の栄光を表し、下半分には救われる魂、右には堕地獄の魂を描いた「最後の審判」の場面が見られます。北方画家を思わせる細密な描写は、バッサーノ一族の工房とは画風が異なり、美術史的にも興味深いものとなっています。
「聖カタリナの神秘の結婚」。高貴な家柄に生まれたカタリナはキリスト教を信仰するようになり、ある時キリストとの結婚を幻で見たという物語がこの作品の主題です。作品左上の紋章は、ヴェローナの貴族デッラ・トッレ家(紋章の左半分の塔)と、ピンデモンテ家(紋章の右半分の山に松)とが組み合わされていることから、1547年に両家との間に結ばれた結婚を記念して描かれたことが分かります。ヴェロネーゼが生まれ故郷ヴェローナで活躍していた20歳頃の作例です。
「キリスト教関連」とはちょっと違いますが、以下の作品は西洋美術館のお宝です。
「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」は、ルノワール初期の代表作のひとつで、ハーレム(イスラム文化圏における後宮)という設定で、透けるような薄衣を身にまとった官能的な女の身体が描かれています。38年前にパリのサロン展で好評を博したドラクロワの「アルジェの女たち」を下敷きにして、きらびやかな衣服や装身具を纏ったパリの女たちのまわりに装飾豊かな絨毯や家具を配し、東方趣味を存分に表現しています。初期作品とはいえ、ルノワール特有の豊かな色彩と変化に富んだ筆遣いがすでに生かされています。
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8月6日~11月4日「ミケランジェロ展 天才の軌跡」
9月6日~11月17日
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