Bunkamuraザ・ミュージアムで「レオナール・フジタ―ポーラ美術館コレクションを中心に」を観てきました。
ポーラ美術館は2002年9月に箱根町仙石原に開館、コレクションのほとんどがポーラ創業家2代目の鈴木常司(1930-2000)が一代で40年かけて収集した9500点におよぶ美術品からなっています。その中核は、19世紀フランス印象派やエコール・ド・パリなどの西洋絵画400点。他に、日本の洋絵、日本絵、東洋陶磁、ガラス工芸など、幅広いコレクションです。記念すべきコレクション第一号は、1958年春にフジタがパリで制作した「誕生日」だったという。この作品は、奇しくも今回の展覧会の目玉となっています。鈴木は早い時期からフジタ・コレクションをポーラ美術館の目玉のひとつとして考えていたという。開館から9年が過ぎた2011年、個人コレクターより106点のフジタ作品の寄託を受け、ポーラ美術館は172点のフジタ作品を収蔵することになったという。
箱根のポーラ美術館へは、2004年11月に観に行ってます。その時に開催されていた展示会は「コレクションにみる子どもの世界 フジタ、ピカソを中心に」というものでした。当然のことながらフジタ作品に関しては、そのほとんどが今回展示されたものと重なっています。レオナール・フジタ、藤田嗣治ですけど、目と口に特徴がある子ども、最初は誇張が強くてマンガチックに見えましたが、あれだけ数が集まると丹念に描かれているので、観るものを圧倒します。職人に扮した子どもをユーモラスに描いた油彩画の連作「小さな職人たち」、一つ一つ観るとけっこう面白い。「しがない職業と少ない稼ぎ」とあったのには、思わず苦笑しました。
2009年1月に上野の森美術館で開催された「レオナール・フジタ展」、図録を見てみると、今回と同じ作品、いわゆる乳白色の作品、「座る女性と猫」「仰臥裸婦」「猫」などもありましたが、展覧会の目玉は、パリの倉庫で見つかったという縦横3mの大作4点と、「ラ・メゾン=アトリエ・フジタ」の内部の公開、晩年に建立した「シャペル・フジタ」の全貌と宗教画の公開でした。今回の展覧会は、子どもをテーマに描かれたものや、フジタの日常生活をとらえた土門拳や阿部徹雄の写真がありましたが、両者を比較すると、上野の「レオナール・フジタ展」の方が、子どもを描いた作品は抜け落ちているものの、フジタの世界を幅広く、かなりまとまって紹介していた展覧会だったという印象です。
まあ、それはそれとして、今回の展覧会は子どもがテーマです。Ⅱ章の「フジタの子どもたち―アトリエのなかの物語」、Ⅲ章の「小さな職人たち―フランス讃歌」の展示されていた作品群は、特にⅢ章は、数が多いこともさることながら、そのテーマというかモチーフが撰び抜かれていること、細かいところまで描かれていることで、なかなか見応えのある展覧会でした。
ここでは取り上げませんが、Ⅰ章の「モンパルナスのフジタ」関連で、ジュール・パスキン、アメデオ・モジリアーニ、シャイム・スーティンの作品も展示されていました。
展覧会の構成は、以下の通りです。
Ⅰ モンパルナスのフジタ―「素晴らしき乳白色」の誕生
第一次世界大戦の前年、1913年に始めて渡仏したフジタは、まもなくピカソと出会い、彼のアトリエで目にしたルソーの絵画に衝撃を受けます。パリ画壇で注目を集めていた画家たちとの交流を通して、彼らとは異なる独自の芸術を追究したフジタが到達した「素晴らしき乳白色」の成り立ちとその後の展開を追います。
Ⅱ フジタの子どもたち―アトリエのなかの物語
戦争画を描いたことで戦後、戦争協力の責任を取る形で日本を離れパリへ戻ったフジタは、子どもを主題とした絵画を数多く制作。国籍不明で、無表情、思考も感情もないような子どもたちの姿に日本とフランスの間で揺れ動く複雑な心境がみえます。理想のアトリエを舞台に描かれた空想上の子どもたちとともに暮らしたフジタと、そのアトリエに注目します。
Ⅲ 小さな職人たち―フランスへの讃歌
フジタは1958年から翌年にかけて、子どもの「職人尽くし」ともいえるタイル画の連作「小さな職人たち」を制作。これらは、かつてパリで見られた手仕事を生業とする人たちをはじめ、仏蘭西社会のなかで活きるプティ・メティエ(しがない職業)の人々を子どもに託して、小さな正方形の画面に表現したものです。フジタの空想によって生まれた「小さな職人たち」計95点のほか、彼のアトリエの扉を装飾するために制作されたパネルが37点をご紹介します。
フジタと二人の写真家―土門拳と阿部徹雄
1941年―土門拳がとらえた戦時下のフジタ
1952年―阿部徹雄がとらえたパリのフジタ
Ⅰ モンパルナスのフジタ―「素晴らしき乳白色」の誕生
Ⅱ フジタの子どもたち―アトリエのなかの物語
「誕生日」1958年
大きな円卓を囲んだ11人の少女たち。正面奥に座り手を組んでいる少女は頭に花飾りをつけ、目の前にはプレゼントの包みがあります。窓の外には席につけなかった子どもたちが顔を覗かせ、ごちそうを給仕するメイドも同世代の少女のようです。この作品はフジタが71歳のときの傑作です。子どもたちの表情や動きはどこかバラバラで、フジタが観察する個人主義のフランス社会の特徴が描かれているようです。ポーラ美術館の創業家2代目鈴木常司が築いた9500点に及ぶコレクションの記念すべき第一号がこの作品です。
Ⅲ 小さな職人たち―フランスへの讃歌
フジタは1958年秋から、フランスとりわけパリを舞台として様々な仕事に従事する子どもの姿を数多く描くようになる。翌年の春にかけて断続的に制作されたこれら一連の作品は「小さな職人たち」と呼ばれる。モティーフとなっているのは、「左官」や「指物師」、「椅子職人」のような手先の技術によって物を製作する人々ばかりではなく、古くからパリの路上でみられた「馬車の御者」や「ガラス売り」のほか、「コンシェルジュ(アパートの管理人)」や「掃除夫」などさまざまな職種の人々である。描かれた子どもたちは、それぞれの仕事に真剣に取り組んでいるものの、そのしぐさにはどことなくユーモアが感じられる。フジタの空想によって生まれた子どもたちは、それぞれ15cm四方のタイル状の小さなパネルに描かれ、フジタのアトリエの壁一面に飾られた。
フジタと二人の写真家―土門拳と阿部徹雄
「レオナール・フジタ―ポーラ美術館コレクションを中心に」
「乳白色の肌」で人々を魅了する画家レオナール・フジタ(藤田嗣治、1886-1968)。「レオナール」 という名は、ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチのフランス語名にあやかって命名された洗礼名です。エコール・ド・パリの画家として活躍した1920年代、フジタは裸婦のほか自画像や猫を主題とした作品で、当時のパリの画壇で最も有名な画家の一人になりました。その後、第二次世界大戦中を日本で過ごし、戦後ペリに戻ると、子どもを主なテーマとして創作活動を再開しました。本展は、フジタ作品の国内最大級のコレクションを有するポーラ美術館の収蔵作品を中心に、国内の美術館、個人蔵の油彩画や素描、最晩年に暮らしたフランス、エソンヌ県のメゾン=アトリエ・フジタに保管されているマケット(建築模型)や、アトリエで制作するフジタの姿を撮影した写真家、土門拳と阿部徹雄の写真など総数約200点を通して、フジタの人物像と多彩な創作活動にあらためて焦点を当てるものです。
図録
監修:
木島俊介(Bunkamuraザ・ミュージアム プロデューサー)
内呂博之(公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館 学芸員)
編集:
Bunkamuraザ・ミュージアム
公益財団法人ポーラ美術振興財団ポーラ美術館
発行:TBSテレビ
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