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佐藤正午の「事の次第」を読んだ!

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佐藤正午の「事の次第」(小学館文庫:2011年9月11日初版第1刷発行)を読みました。新聞の読書欄の「文庫・新書コーナー」に小さく載っていたので、早速購入しました。僕が佐藤正午と出会ったのは、「小説の読み書き」(岩波新書)という本を読んだことに始まります。本屋に平積みされたこの本、「小説だっておもしろいじゃん。『小説の書き方』にこだわったユニークな文章読本」と本の帯にあり、それにつられて購入したというわけです。


佐藤正午は、1955年長崎県生まれ。北海道大学文学部中退。佐世保在住の独身作家ですが、その名前からして人を食っていて、可笑しい。「東京物語散歩」という朝日新聞の記事に、佐藤正午の蒲田を舞台にした作品がある、ということが載っていたのが、僕が佐藤正午を知った最初でした。その後、彼の著作を次々と読むようになり、エッセイも含めて7~8冊読んだことになります。

「事の次第」を読む前に、読んだ佐藤正午の作品は「身の上話」(光文社:2009年7月25日発行)でした。これがホント、「読み出したら止められない!」本でした。ついつい引き込まれてしまいます。佐藤正午はかつてインタビューで、カマボコを切って並べたような張り合いのない文章を読まされても読者は迷惑だろうし、「面白い小説を、まともな文章で書きたいだけ」と答えています。


さて「事の次第」、タイトルからして「イミシン」です。本の帯には「あんたはいま、自分の世界を踏み越そうとしている」とあり、「7つの話(ストーリー)が巧みに交錯する連載小説」と書かれています。本のカバー裏には、以下のようにあります。


今年40歳になるタクシー運転手の武上英夫には秘密が3つもあった。そして彼の妻にも危険な男との過去があった。夫婦関係、恋人関係、不倫関係、一晩きりの関係・・・それぞれの事情を抱えた男と女が、ありふれた日常を踏み越えたとき生み出されるドラマが、巧みに交錯していく連作小説。妻の浮気相手と対峙するため新聞記者が拳銃を入手する表題作をはじめ、妹のせいで結婚できない35歳の美容師の恋を描いた「姉の悲しみ」、街の裏社会に活きる少年の素顔が表出する「7分間」など、技巧が光る7篇所収。 珠玉の作品集「バニシングポイント」を改題し、新装版として刊行。


まず最初の物語「寝るかもしれない」は、「今年40歳になるタクシー運転手、武上英夫は秘密を3つ持っている」という思わせぶりなフレーズで始まります。7編目の「7分間」では、「今年41歳になるタクシー運転手である武上英夫は、気をまぎらわせるために繰り返しそんなことを考えていた」で終わります。この武上英夫は何編かに登場しますが、他にもたくさんの人たちが登場します。


多くは30代半ばから40代前半で、だいたい一つの街を舞台に、秘密を抱えながら暮らしています。「5年前の放火事件にまつわる秘密、新聞社の社屋から飛び降りた女との秘密、17年前に交際していた男との秘密、結婚に踏み切れない女が抱く秘密、妻に浮気された夫の後戻りできない秘密」。


「事の次第」における登場人物の重なり具合は微妙で、それぞれの話が巧みに交錯しています。ここの章は独立して読めますが、全体としてのまとまりや、言わんとするところがダイレクトに伝わらないきらいもあります。その辺りが「連作集」のむずかしさ、でしょうか。まあ、読んでみてください。読めば佐藤正午の巧さや面白さがわかるというものです。


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