横浜美術館のホームページには、「ご案内」として、以下のようにありました。
この展覧会は当初、2011年4月から12月まで、横浜、名古屋、神戸での開催を予定していましたが、同年3月に起きた東日本大震災と原発事故の影響を受けて急遽中止となりました。その後、主催者間で協議を重ね、当初予定と同じ3会場で開催することとなりました。
横浜美術館で「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」を観てきました。 17世紀の巨匠プッサンから、モネら印象派やゴッホを経て20世紀のピカソやマティスまで、フランスの絵画史を66点の名画でたどる今回の展覧会、そのコレクションは、歴代の皇帝や貴族、大商人らによって集められたもので、世界屈指の質と量を誇る、と言われるだけのことはあります。情熱的な収集の背景には、当時のヨーロッパ先進国、フランスへの強い憧れと、自国の文化を豊かにしようという熱い思いがあった、と言われています。
同じ横浜美術館で2009年に開催された「フランス絵画の19世紀」展も、素晴らしい展覧会で、今回の展覧会と重なるところがあるように思います。19世紀というと印象派を思い浮かべますが、その誕生の礎を築いた「アカデミスム」の画家たちに注目した展覧会で、「保守的なものとして単純に理解されがちなアカデミスムの華やかさとその豊かな成果を確認すると同時に、『保守』と『革新』相互の影響関係こそが、この絵画の黄金期を築き上げていったのだという、時代の真実を浮かびあがらせていきます」、としています。
三浦篤・東京大学教授(西洋近代絵画史)は、プーシキン美術館のフランス絵画の特徴を、以下の三つの言葉を使って整理しています。(朝日新聞の記念号外)
秩序と構成:
17世紀古典主義の画家プッサンは、歴史画を描くとき、多数の人物をピラミッド型の構図のなかにしっかりと収めてみせた。ダイナミックな動きは、均衡のとれた構図に吸収される。19世紀のセザンヌもまた、裸体群像をバランスよく配置している。筆触の律動感は、秩序だった構成のなかでこそ生きることが理解できる。
光と色彩:
17世紀のクロード・ロランが描く風景は、遅い午後のまばゆい、繊細な光のなかに浸されている。この黄金色に輝く神話の世界に入ってみたい、そう思わない人がいるだろうか。印象派のルノワールはセーヌ河畔の行楽地に集う人々を、生き生きとした筆致で表す。明るい自然光と鮮やかな色彩が、優雅に響き合うのが心地よい。19世紀市民社会のレジャーの場面は、近代の「楽園」そのものである。
装飾性:
18世紀ロココの画家ブーシェの作品からは官能性があふれ出す。高い音色が鳴り響くかのように、赤、青、黄の三原色が画面に散らばり、装飾的な効果を発揮する。20世紀のマティスの花の絵は、近代の洗練された造形表現に基づく。ただし、緑を背景に三原色を組み合わせる色彩選択は、ブーシェの絵とまったく同じ。装飾的なデザイン感覚は、ロココから近代へと見事に引き継がれている。
「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」の目玉はというと、チラシやポスターに使われている二つの作品が挙げられます。ひとつは、ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルの「聖杯の前の生母」、もうひとつは、ピエール=オーギュスト・ルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」を挙げることに異論はないでしょう。最大の注目は、ルノワールの印象派時代最高の肖像画として名高い「ジャンヌ・サマリーの肖像」でしょう。下世話に言えば、客寄せパンダ、宣伝効果は抜群でした。
そして展覧会の最後を飾るのは、アンリ・ルソーの「詩人に霊感を与えるミューズ」、なんとも不思議な作品です。このルソーの作品は、基本的には肖像画であり、モデルは彼の友人でありその芸術の擁護者であった詩人アポリネールと、その恋人マリー・ローランサンです。ルソーの作品に描かれたローランサン自身も、今回の展覧会に出品された「女の顔」など、多くの肖像画を描いています。この絵に対して、「ルソーが神話の主題を借りて、友への愛情、そして芸術家への礼賛の意を表した、世俗の神話画であり、聖なる肖像画である」と、松永真太郎(横浜美術館学芸員)は述べています。
個人的な興味で言えば、ユベール・ロベールの作品の前で釘付けになりました。2012年5月、「エルミタージュ美術館」展で「古代ローマの公衆浴場跡」を観ましたが、今回1点だけ「ピラミッドと神殿」という作品が出されていました。西洋美術館の「ユベール・ロベール」展で初めて知った、「古代遺跡をモチーフにした風景画を描く画家で、「廃墟のロベール」の異名をとった画家です。
もうひとつ、ミレーの「薪を集める女たち」です。闇におおわれた山の斜面。農婦がふたりがかりで長い木の枝を運びおろす様子が、スポットライトで浮かび上がるように描出されています。それは神話画を彷彿させる荘厳さ、厳粛さを湛えています。16世紀フランドルの画家ピーテル・ブリューゲル(父)の影響が見てとれる、という。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 17-18世紀―古典主義、ロココ
第2章 19世紀前半―新古典主義、ロマン主義、自然主義
第3章 19世紀後半―印象主義、ポスト印象主義
第4章 20世紀―フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ
第1章 17-18世紀―古典主義、ロココ
第2章 19世紀前半―新古典主義、ロマン主義、自然主義
第3章 19世紀後半―印象主義、ポスト印象主義
第4章 20世紀―フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ
「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」
知る人ぞ知る、フランス絵画の宝庫ロシア。17世紀古典主義の巨匠プッサンにはじまり、18世紀ロココの代表ブーシェ、19世紀のアングル、ドラクロワ、ミレー、印象派やポスト印象派のモネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホ、そして20世紀のピカソやマティスまで――。プーシキン美術館のコレクションの中核をなすフランス絵画の質の高さは、フランス本国もうらやむほどのものです。本展では、選りすぐりの66点で、フランス絵画300年の栄光の歴史をたどります。なかでも、ルノワールの印象派時代最高の肖像画と評される≪ジャンヌ・サマリーの肖像≫は、最大の見どころです。「ロシアが憧れたフランス」の粋を、どうぞお楽しみください。
図録(表面)
編集:
横浜美術館
愛知県美術館
神戸市立美術館
朝日新聞社企画事業本部文化事業部
発行:
図録(裏面)
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愛知県美術館
神戸市立美術館
朝日新聞社企画事業本部文化事業部
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朝日新聞社
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