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東京国立近代美術館で「フランシス・ベーコン展」を観た!

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先日、酒井忠康の「覚書 幕末・明治の美術」(岩波現代文庫:2013年4月16日第1刷発行)という本を読みました。その中の「写真術の招来」という章に、フランシス・ベーコンに関して、以下のような文章があるのを見つけました。なんと初出は「月刊百科」1983年11月号に書いたものだというから、30年も前の文章です。酒井忠康の鑑識眼の高さが分かります。


近年、その作品がはじめて組織的に日本に紹介されたイギリスの画家、フランシス・ベイコンなどは、写真をもっともたくみに利用している作家といってよい。エイゼンシュテインの映画「戦艦ポチョムキン」のカットによった、ベイコンの仕事などは、写真と絵画だけでなく、映画も加わって、映像の再生が不断に行われていることを物語っている。(平凡社「遠い太鼓」所収、「写真と絵画」を改題)


東京国立近代美術館で「フランシス・ベーコン展」を観てきました。フランシス・ベーコンについては、僕にとってまったく知らない画家でした。1983年の東京国立近代美術館などでの個展以来、日本では30年にわたり「ベーコン展」は開催されませんでした。今回の「ベーコン展」は、1940年代から亡くなる直前までの作品、30数点によって構成されています。


フランシス・ベーコン(1909-1992)は、アイルランドのダブリン生まれ、イギリスのロンドンを拠点に活躍した画家です。先日「第7回大江健三郎賞」の受賞者との公開対談の時に、大江健三郎が取り上げていましたが、同姓同名の哲学者の、傍系の子孫とも言われています。ベーコンの作品の特徴をよく言い表しているのが、次の言葉、としてチラシに取り上げています。「アーティストは、感情のバルブのロックを外すことができるんだ。そうやって、絵を眺めている人たちを、無理矢理にでも生(life)に立ち戻らせることができるんだよ。」。見る人の、いつもは閉じている「感情のバルブ」を開ける絵。本当の生を感じさせてくれる絵。それがフランシス・ベーコンの絵だと、解説では述べています。


没後20年に開催される今回の「フランシス・ベーコン展」、「ここが見どころ」には、次のようにあります。 没後の大規模な個展としては日本初。アジアでも初。回顧展であると同時に、ベーコンにとって重要な「身体」に焦点をあてたテーマ展でもある。 英国、ドイツ、アメリカ、台湾、オーストラリア、ベルギーなど世界各地から作品が集結。「 スフィンクス」をモチーフとする作品が4点集まるのは世界初。ニューヨーク近代美術館所蔵の、最後の三幅対(トリプティック)を展示。




展覧会構成は、以下の通りです。


Ⅰ 移りゆく身体 1940s-1950s
Ⅱ 捧げられた身体 1960s
Ⅲ 物語らない身体 1970s - 1992
Ⅳ エピローグ:ベーコンに基づく身体

ベーコンは1940年代の作品のほとんどを破棄しており、現存している作品は20点に満たないという。「人物像習作Ⅱ」は1945-46年頃の作品で、鮮やかなオレンジ色を背景に、動物とも人間ともつかない生き物が描かれています。1950年、ベーコンは、ベラスケスの「インノケンティウス10世の肖像」に基づく作品を描き始めました。その多くは全身を描いていますが、「叫ぶ教皇の頭部にための習作」は、頭部と叫びに焦点をあてています。鼻にかかる割れたメガネは、エイゼンシュテインの映画「戦艦ポチョムキン」のワンシーン、オデッサの階段で叫ぶ乳母を参照しているという。



「肖像のための習作Ⅳ」は、8点からなるシリーズのひとつです。最初は友人の美術批評家をモデルに描き始め、人物はそのうち教皇へと変わったという。暗い背景に玉座の黄色い線が浮き出て、亡霊のような人物と静謐な空間に緊張感が生まれています。1950年代前半、暗い背景に亡霊のような人物を描き続けていたベーコンは、1956年の春から翌年にかけて、ファン・ゴッホの「タラスコンへと向かう途上の画家」を参照したシリーズを描き、色彩や絵具の存在感を恢復させます。



1950年か51年のこと、ベーコンはカイロを訪れます。「スフィンクスの習作」は六角形に象られた結界の中に、スフィンクスが座しています。体は透けていますが、鮮烈な赤の色に囲まれています。「裸体」は、同性愛者だったベーコンとしては珍しく女性、しかも裸体でした。



「ジョージ・ダイアの三習作」、描かれているのはベーコンの恋人だった人物です。ベーコンはダイアをモデルとして直接描かずに、ダイアの写真を使ってそれを変形して描いています。不法侵入で前科歴のあるダイア、二人は1963年の秋に出会い、やがてつき合うようになります。しかし諍いは絶えず、1971年、ダイアは、パリでベーコンの大回顧展がオーぷっbするその日に、ホテルで自殺します。粗野で無教養だったダイアは、ここではピンクを背景にエレガントに描かれています。思っていたのとが異なり、意外と小さな作品です。



ベーコンの三幅対、事実上デビュー作と認めていたのは1944年頃の「三幅対」(テート蔵、不出品)だという。今回出されていた「三幅対」は1991年の作品で、ニューヨーク近代美術館蔵のものです。黒の矩形は、80歳を超えたベーコンが死期を感じていたことを思わせます。右のパネルの写真はベーコン自身、左は写真から取られた、ブラジルのレーシングドライバー、セナとされています。三幅対はキリスト教絵画でしばしば用いられている形式で、とりわけ中央のパネルは重要です。しかしこの作品でそこに描かれているのは、誰のものでもない、ゆえに誰のものでもあり得る「肉」の塊です。



1992年4月、ベーコンは恋人に会うためにスペインのマドリッドに赴くものの、喘息に伴う肺炎のために入院し、4月28日、心臓発作のため客死。享年82歳。遺産相続人には、長年の友人だったジョン・エドワーズが指名された。


「フランシス・ベーコン展」

アイルランドのダブリンに生まれたフランシス・ベーコン(1909-1992)は、ロンドンを拠点にして世界的に活躍した画家です。その人生が20世紀とほぼ重なるベーコンは、ピカソと並んで、20世紀を代表する画家と評されており、生誕100年となる2008年から2009年には、テート・ブリテン(英国)、プラド美術館(スペイン)、メトロポリタン美術館(アメリカ)という世界でも主要な美術館を回顧展が巡回しました。主要作品の多くが美術館に収蔵されており、個人蔵の作品はオークションで非常に高値をつけているため、ベーコンは、展覧会を開催するのが最も難しいアーティストのひとりだと言われています。そうしたこともあってか、日本では、生前の1983年に東京国立近代美術館をはじめとする3館で回顧展が開催されて以来、30年間にわたり個展が開催されてきませんでした。今回、没後20年となる時期に開催する本展は、ベーコンの「世界」を、代表作、大作を多く含むベーコン作品33点により紹介するものです。そのうち、ベーコンを象徴する作品のフォーマットである三幅対(トリプティック)も、大きなサイズが4点、小さなサイズが2点と多数含まれているので、実際にはもっと多く感じられることでしょう。企画内容は完全に日本オリジナルで、単なる回顧展ではなく、ベーコンにとって最も重要だった「身体」に着目し、その表現方法の変遷を3章構成でたどろうとするテーマ展でもあります。また、ベーコンが「同時代」のアーティストに与えた影響を確認しようとするパートも、エピローグとして用意しています。このように、日本はもとよりアジアでも没後初となるこのベーコン展は、さまざまな意味で画期的だと言えるでしょう。その趣旨に賛同する形で、日本に所蔵が確認されている5点はもちろん、テート、ニューヨーク近代美術館、ハーシュホン美術館(ワシントン)、ヴィクトリア国立美術館(オーストラリア)、ヤゲオ・ファウンデーション(台湾)など世界各地の重要なコレクションから作品が日本にやってきます。


「東京国立近代美術館」ホームページ


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追記:銘板に「この建物は、石橋正二郎氏が建設し、寄贈されたものである。」とありました。

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