事が終わってしまってからあれこれ悔やんでももはや取り返しはつかない。「後悔先に立たず」という諺を思い起こすような映画です。この映画、実はもう何度も観ました。1930年代のドイツ。ベルリンの大学で文学を教えるジョン・ハルダーは、病身で痴呆気味の母親と、ノイローゼ気味で家事も育児も放棄し一日中ピアノを弾いて過ごす妻、そしてまだ幼い二人の子どもとともに、誠実に慎ましく暮らす善良な男であり、しきりに入党をすすめる妻の父親とは距離をおいて暮らしていました。
ところがある時、総統官邸から呼び出しが届き、検閲委員長から意外な申し出を受けます。それは以前彼が書いた不治の病に冒された妻を夫が安楽死させる内容の小説をヒトラーが気に入り、同様の「人道的な死」をテーマとした論文を書いて欲しいという依頼でした。それは依頼というよりは命令であって、その仕事を引き受けてしまいます。さらに親衛隊少佐から執拗に入党の誘いを受け、やむをえず入党を決意します。
それを機に母親を実家に帰して独り暮らしをさせ、妻ヘレンとは別居し、その後離婚し、数年前から愛人として付き合っていた元教え子のアンと暮らし始めます。そしてジョンは、学部長に昇進します。親友のユダヤ人で精神分析医のモーリスはジョンの昇進を喜んでくれますが、ナチスに入党したことを知ると軽蔑のまなざしでジョンを見つめ、そして去っていきます。アンと再婚したジョンは親衛隊大尉にまで出世を遂げますが、母親は闘病生活に絶望して自殺未遂、そして帰らぬ人となってしまいます。
ある日、パリ駐在のドイツ人書記官がユダヤ人に暗殺されるという事件が起こり、ベルリンで反ユダヤの暴動が発生します。ユダヤ人の家や商店が襲撃され、ユダヤ人は警察に連行されます。身の危険を感じたモーリスは、ジョンにパリ行きの切符と出国許可証の手配を依頼しますが、ジョンは一度はそれを断ります。良心の呵責にさいなまれたジョンは、駅の窓口まで行きますが、親衛隊少佐と鉢合わせして、切符の購入は失敗します。
モーリスを救うためにジョンはなんとかパリ行きの切符を購入し、モーリスの自宅へ行きますがモーリスは不在、「今晩自宅へ来てくれ」と書いた伝言メモをドアの下から差し込みます。その直後、党本部への出頭を命じられたジョンは、妻のアンにモーリスへの切符を手渡します。しかしモーリスは現れず、その消息は途絶えてしまいます。その4年後、ジョンはモーリスの所在を突き止めます。同時にあの日なにがあったのかを知ってしまうのでした。モーリスは現れたが、アンがモーリスをゲシュタボへ引き渡したのでした。
ラストは、ユダヤ人収容所を訪れたジョン、かつての親友の変わり果てた姿を目にして、茫然と立ち尽くす場面で終わります。自分が無意識のうちにどれだけ深い罪を犯していたのかに気づいた瞬間でもあります。が、まさに時すでに遅し、取り返しがつかない状況に陥っていました。
以下、とりあえず「シネマトゥデイ」より引用しておきます。
チェック:『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで人気を博すヴィゴ・モーテンセン主演のヒューマン・ドラマ。劇作家C・P・テイラーの代表作を基に、ナチス政権下のドイツで葛藤(かっとう)する大学教授の日々を描く。監督は、『Oi ビシクレッタ』のヴィセンテ・アモリン。『ハリー・ポッター』シリーズのジェイソン・アイザックスや、『ヴィーナス』のジョディ・ウィッテカーらが脇を固める。特殊な国内情勢の中で、苦悩し続ける心優しい主人公の姿に、胸が熱くなる。
ストーリー:ヒトラーが独裁政権を築いた1930年代のドイツ。ベルリンの大学で学生を教えるジョン(ヴィゴ・モーテンセン)は、病に伏す母親を助け、自分の家庭では家事をこなす献身的な人間。そんなある日、自分が執筆した小説を読んだヒトラーが彼をナチス党に呼び入れることを決める。しかし、過去に戦争を戦い抜いた友人でユダヤ人のモーリス(ジェイソン・アイザックス)のことが頭をよぎり……。