「もう、そろそろかな?」と思っていたら、今朝の朝日新聞に、以下のように載っていました。
大江健三郎賞に本谷さん
ノーベル賞作家の大江健三郎さんが1人で選考する第7回大江健三郎賞(講談社主催)に、作家で演出家の本谷有希子さんの短篇集「嵐のピクニック」(講談社)が選ばれた。賞金はなく、外国語への翻訳刊行が賞になる。
さっそく本屋へ行って「群像2013年5月号」(4月6日発売)を買ってきました。「群像5月号」が大江健三郎賞の正式の発表であり、大江さんによる「『奇妙な味』は文学たりうるか―本谷有希子の冒険」とタイトルのついた「第7回大江健三郎賞選評」が載っているからです。これはどうしても読んでおかなければなりません。たまたま、かどうかは分かりませんが、「群像5月号」には「一挙掲載250枚」とある本谷有希子の「自分を好きになる方法」が、巻頭作品として載っていました。いまから読むのが楽しみです。
さて、第1回から毎回出席していた受賞者との公開対談、前回、第6回の(美人の誉れ高い)綿矢りさの時には抽選に漏れて、出席できませんでした。当たるか当たらないかは別として、今回ももちろん、申し込むだけは申し込んでおきました。
「嵐のピクニック」をアマゾンで購入しようと思ったら、なんと「一時的に在庫切れ; 入荷時期は未定」となっていました。是非とも読みたいので、とりあえず注文だけはしておきました。アマゾンの「商品説明」には、以下のようにありました。
内容:
優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気を描く「アウトサイド」、ボディビルにのめりこむ主婦の隠された想い(「哀しみのウェイトトレーニー」)、カーテンの膨らみから広がる妄想(「私は名前で呼んでる」)、動物園の猿たちが起こす奇跡をユーモラスに綴る「マゴッチギャオの夜、いつも通り」、読んだ女性すべてが大爆笑&大共感の「Q&A」、大衆の面前で起こった悲劇の一幕「亡霊病」…などなど、めくるめく奇想ワールドが怒涛のように展開する、著者初にして超傑作短篇集。
著者略歴:本谷有希子
1979年生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。2006年上演の戯曲『遭難、』(講談社)で第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少受賞。2008年上演の戯曲『幸せ最高ありがとうマジで!』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。小説では2011年に『ぬるい毒』(新潮社)で第33回野間文芸新人賞を受賞。
本谷有希子は昨年、J-WAVEに出演したとき、「嵐のピクニック」(講談社刊)について、以下のように語っていました。
嵐のピクニックは、13本の短編が入っている短編集なんですけど、本当に短い色んなお話し、ホラーもあるし、主婦と旦那さんのボディビルダーの話もあるし、サルが出てくる話もあるし、リアリズムから始まっていくんですけど、だんだんそうじゃなくってどんどんファンタジーに13本続けて読むうちになっていく…で、気づいたらすごく来ちゃいけない場所に来てしまったそういう嵐の日にピクニックにいくようなワクワクする本になっていると思います。ので、あまり普段、本を読まない方も楽しんでもらいたいなと思って書いた本なので、
ぜひ、読んでみてください。
「『奇妙な味』は文学たりうるか―」と題した、6ページほどの大江健三郎による「選評」をざっと読んでみました。もちろん本谷有希子の「嵐のピクニック」も読んでないのに、「選評」だけを読んでも分かるわけはありませんが、それはそれとして、大江さんの言わんとするところを、以下に書いておきます。今回の受賞作は2012年1月1日から12月31日までに日本で刊行された、「文学の言葉」を用いた作品約130点の中から決定したという。これだけでも大変な作業だと思います。大江さんはこの作業を「7年前から、春と秋に二度、新刊の小説を一山抱え込んで読み続ける仕事」と語っています。
まず、英語圏のハイブローな雑誌にしっくりする短篇なのに、どう分類して良いか迷う、しかし面白い小説があること、しかしそうした作家たちの文学的評価は、「奇妙な味」の、というくくりでエンターテインメントの特別席に押し込められていた。ところが今度、私の知らなかった、まさに「奇妙な味」の作品集にめぐりあった。「新刊の小説を読み続ける仕事」のなかで、今年は風変わりの一冊が、始めから気にかかっていた、という。
それぞれ短い作品を集めた、思いつきで書き並べたように奔放な形式の、また主題の連続でなりたっているが、繰り返しということは一切ない本で、楽しんで読んだというのが正直なところだという。この作品は、ゆったり組んだ四六変形判で、10ページまでのもの7編、20ページ1編、その中間が5編になっています。
この短編集には、「奇妙な味」の短篇が発想と形式の見本帳というほどにも繰り出されるが、それを愉快に楽しんで、ああ、面白かったではすまない。もひとつ深い層を探る心で、自分の永年の小説観を洗い直すつもりで読み直し、これらの短編群が、それぞれにどういう「奇妙な味」を発揮し、その上でプラスαとしての文学性を達成しているのか、確かめつつ三読したという。
そして、まず冒頭の、最も短い優しいピアノ教師が見せた一瞬の狂気を描く「アウトサイド」、そして短編小説の一般的な長さのボディビルにのめりこむ主婦の隠された想いを描く「哀しみのウェイトトレーニー」の、魅力的な部分を引用しつつ要約しています。また、やや長めの作品、動物園の猿たちが起こす奇跡をユーモラスに綴る「マゴッチギャオの夜、いつも通り」を取り上げ、この作家の人間観、また社会観の底深い暗さが、ファンタジー式の作り方の、しかし細部においてはいかにもリアルな短編で示されていると述べています。
そして最後に大江さんは、こう結んでいます。
フクシマ3・11以来、二年間、基本的にこのチンパンジーと似ているのかも知れない、鬱々とした日々を生きてきた私は、まったく久し振りで、希望の気配のある小説を読んだ思いがしました。
「劇団本谷有希子」Website
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