延藤安弘の「まち再生の術語集」(岩波新書:2013年3月19日第1刷発行)を読みました。
延藤さんとは世田谷の住民主体のまちづくり活動でご指導をいただき、とくに1992年から1997年の5年間は、「せたがやまちづくりフォーラム」で毎月のように顔を合わせていました。フォーラムの5年間の活動を、延藤さんは「フォーラムはその時々のアクチャルな問題を議論してきた」と、そして計画技術研究所の林泰義さんは「フォーラムはまちづくりセンターやまちづくりファンドを生み出すゆりかごであった」とのお言葉をいただきました。
僕自身が設計事務所を開設して間もない頃であり、「まちづくり」のなんたるかを知らない僕は、このお二人にはずいぶん多くのことを教えていただきました。が、それにもまして、世田谷の住民の方々とのおつき合いの中から多くを学んだことも素晴らしい経験でした。延藤さんの本との出会いは「タウンハウスの実践と展開」(延藤安弘・大海一雄編著)と「計画的小集団開発」(延藤安弘・他著)でした。その後、京都のコーポラティブハウスの実践である「ユーコート」、延藤さん自身も入居している熊本のもやい住宅「Mポート」もありました。全国の集合住宅12の事例を集めた「これからの集合住宅づくり」(晶文社)もありました。
と、まあ、前置きはそれくらいにして、延藤さんの本が岩波新書から出るという話は、当時、岩波新書の編集担当者から聞いていました。が、それも立ち消えになったようで、その後話題にも出ませんでした。延藤さんが「まちづくりの伝道師?」といわれて久しく立ちます。まちづくりの著作がないのは不思議なくらいでした。しかし、満を持してというか、待望のまちづくりの著作が出ました。それが「まち再生の術語集」です。一気に読み終わりました。
本のカバー裏には、以下のようになります。
停滞と閉塞の時代に注目されるコミュニティデザインという発想。地域の力は、人々がヒト・モノ・コトの渦に参加し物語を紡ごうとする意志から始まる。まち育ての助っ人として全国を駆け回る筆者が、住民・行政・専門家・支援者のトラブルをドラマに帰る現場で捕まえた、まち再生の思想と手法のキーワード集。
「術語」とは、「学問・技術などの専門分野で、特に限定された意味で用いられる語。専門用語。学術語。テクニカルターム。」(大辞泉)とあります。「まち再生の術語集」に出てくる「44の術語」を、下に載せておきます。
延藤さんお得意の「幻燈会」、なんど聞き観たことでしょう。「ひとりの心に幻(まぼろし)をひろげ、別のひとりの心に燈(ともしび)をともす」、これが幻燈会だと言います。そこで語られる絵本の話、とくに「プラムおじさんの楽園」は延藤さんのオハコです。映画「うなぎ」から、住民のまちづくりへの参加意識の変化・発達につなげる独特の論理展開。「ヒト・モノ・コト」「タンケン・ハッケン・ホットケン」「ヒト・クラシ・イノチ」など、見事な言葉の言い回し。「34空間の力」では、「木造の学校に木霊(こだま)が宿る。そんな学校をつくらないと本当はいけないのではないでしょうか」と日土小学校の設計者、八幡浜市役所職員で、建築家の松村正恒の言葉も取り上げます。最後には「44必死のパッチ」で、女子サッカー・ワールドカップ決勝戦を取り上げ、状況をくずして進入する偶然の出来事に「自らの構造を変えながら対応する」能力を、コミュニティデザインにつなげます。
本書のコンセプトはまさに「人生ってエエモンやなあ」「自分のまちは捨てたもんやないなぁ」と「生を楽しむ」センスです。・・・深刻さの記述や改善方策の立案も大切ですが、一番大事なことは、ひとりひとりが「自分の生きる現場から状況を変えることを楽しむ」ことではないでしょうか。他者と共有された楽しさの体験は、創造的なアイディアや革新的な活動を生む縁を拡げ、生きる未来への方向感・希望をひらいていくものです。その過程では、芋ヅル式にキイワードがつながりあっていきます。根茎(リゾーム)のように絡み合うまち再生のプロセスが腑に落ちるよう、本書のキーワード(術語)から別のキーワードへ、ヒラヒラと蝶が舞うごとく自由移行する読み方ができるようにしました。・・・混濁する状況を超えるイメージが術語の連関から生まれるよう願っています。(「あとがき」より)
著者紹介
延藤安弘(えんどう・やすひろ)1940年大阪に生まれる。北海道大学工学部建築工学科卒業。京都大学大学院博士課程中途退学生活空間計画学専攻、工学博士。熊本大学、千葉大学、愛知産業大学、国立台湾大学(客員)教授等を経て、現在NPO法人まちの縁側育くみ隊代表理事。コミュニティデザイン、「まち育て」の研究・実践家。著書に『こんな家に住みたいナ―絵本にみる住宅と都市』『まちづくり読本―こんな町に住みたいナ』(以上晶文社)、『集まって住むことは楽しいナ―住宅で都市をつくる』(鹿島出版会)、『何をめざして生きるんや―人が変わればまちが変わる』(プレジデント社)、『おもろい町人(まちんちゅ)』(太郎次郎社エディタス)、『マンションをふるさとにしたユーコート物語―これからの集合住宅育て』(昭和堂、共著)ほか多数。