静嘉堂文庫美術館で「曜変・油滴天目 茶道具名品展」を観てきました。静嘉堂文庫創設120周年 ・美術館開館20周年記念「受け継がれる東洋の至宝」シリーズのPartⅢにあたります。
PartⅠ 東洋の精華―名品でたどる美の軌跡―
PartⅡ 岩崎彌之助のまなざし―古典籍と明治の美術―
PartⅢ 曜変・油滴天目―茶道具名品展―
今回の展覧会は、2010年3月に開催された「国宝・曜変天目と付藻茄子―茶道具名品展」と、ほぼ同じ内容と言っていいでしょう。大名物「付藻茄子」、そして国宝・大名物「曜変天目」と重文「油滴天目」は、静嘉堂文庫美術館の至宝です。茶道具名品展では必ず展示されます。僕も今まで何回となく観ることができました。三菱一号館美術館の「三菱が夢見た美術館 岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」や、静嘉堂文庫美術館の「中国陶磁名品展」でも、目玉として展示されていました。
岩崎彌之助・小彌太―父子二代の茶道具
岩崎彌之助が最初に購入した茶道具は、付藻茄子(つくもなす)と松本茄子(詔鷗茄子)だったという。ともに信長―秀吉―家康と天下人の手中にあった大名物の唐物茶入で、これらは明治18年、岩崎家と親しかった同郷土佐の名士・今村長賀を介して購入されました。明治3年、彌太郎が「三菱」の名を会社に冠する以前、大阪で創業した会社名を「九十九商会」といったという。彌之助は“つくも”の永ついた天下一品の名物茶入を、何としても購入したく思ったのではないか、と解説にあります。
このふたつの名物茶入は、大阪夏の陣で大阪城と共に焼失したかにみられたが、徳川家康の命により召し出された塗師の藤重藤元と藤巌父子により、焼け跡から探し出され、父子の漆繕いによって破片は現在の姿に甦った。家康はその修復の出来栄えを「藤重は日本一の重宝の者なり。古今不思議の手涯、言舌の及ばざる細工、後代のために之を験さん。」と絶賛し、両茶入れ下賜した(拝領之次第)。
付藻茄子(つくもなす)、松本茄子(詔鷗茄子)
―茶道具蒐集のはじめ
珠玉の名椀
唐物茶碗―天目のさまざま
曜変天目(稲葉天目)
漆黒の釉に大小の斑文が集まり、そのまわりを藍と青、光の角度によっては虹色にも見える光彩が輝く曜変天目。一碗の中に宇宙を見るかのような神秘的な茶碗である。南宋時代、中国福建省建窯の焼成品で完形品の現存は世界に三椀のみ、それぞれ趣ある曜変の名椀が、すべて日本に伝わっている。もと柳営御物(徳川将軍家の什宝)であった本椀は、徳川家三代将軍家光が、嫁ぎ先の稲葉家を離れて彼の乳母となった春日局にこの椀を下賜したことから、淀藩主稲葉家へ渡ったとされる。大正7年(1918)、稲葉家親戚の小野家に渡り、昭和9年(1934)、岩崎小彌太の所有となった。しかし小彌太は「名器を私に用うべからず」と、生前一度もこの茶碗を使用することがなかったという。
*他の曜変天目は、京都・大徳寺塔頭龍光院所蔵の一碗。もう一碗は、水戸徳川家伝来で大阪・藤田美術館の所蔵品。いずれも国宝。
世紀の発見―「曜変天目」陶片、南宋の都・杭州に出土
南宋の都、浙江省杭州で、2009年、曜変天目の陶片が発見された。全体の1/4程度の欠損はあるものの、高台部分が残り、見込みに曜変の美しい光彩が現れているという。このニュースは、2012年に入って公表され、国内外で大きな話題を呼んでいる。
油滴天目
「油滴」は、わが国では「曜変」に次ぐ高い評価を受けてきた天目茶碗であり、その名は、油の滴が水面に散ったような斑文が黒釉上にあることによる。それも、茶碗の内外ともに、びっしりと現れているのが曜変とは異なる特徴といえる。伝世品の多くは天目形の姿をもつものの、静嘉堂の油滴天目のように、口を朝顔形に開いた大振りの作例も見られる。油滴天目の産地は、曜変天目や禾目天目と同様、福建省建窯であるが、華北地方で建窯産の油滴を模倣した作例も存在する。
天目台
天目茶碗
高麗茶碗・樂茶碗・和物茶碗
大名家旧蔵の名品
静嘉堂の茶道具の根幹をなすものは、仙台藩主伊達家に代表される、江戸時代の大名家ゆかりの品々である。伊達家では徳川将軍を江戸の藩邸でもてなす「御成」のために収集された道具類も多かったとされ、主従関係の証として将軍家との間を往き来した名品も少なくない。静嘉堂の所蔵品には加賀藩前田家・淀藩主稲葉家・丸亀藩京極家など、大名家旧蔵の名物茶道具が知られている。これらは近代に入って所有者を変えてなお、往時の風格を伝えていよう。
加賀藩主・前田家伝来の名品
仙台藩主・伊達家伝来の名品
丸亀藩主・京極家と仁清の茶陶
“きれいさび”―遠州茶道具の美
江戸初期の大名にして武家茶人の小堀遠州(1579~1647)は、武野紹鷗・千利休・古田織部と継承された侘び茶の流れから新たな茶の湯を作り上げた。明るく大らかで軽快、さびの中に華やかさ・清らかさを求めた茶風は“きれいさび”と称され、後世の茶道に大きな影響を与えた。
大名茶人・松平不昧の美意識
出雲松江の七代藩主・松平治郷(1751~1818)号不昧は、多彩な活動をした大名茶人。酒井宗雅や朽木昌綱といった他藩の大名にも茶法を伝授するなど、後に続く伝統を作った。また好みの茶道具、茶室も創案し、さらには所蔵の茶道具目録「雲州蔵張」を作成。茶器の研究においても「古今名物類聚」「瀬戸陶器濫觴」を出版したことで知られる。“不昧好み”の茶道具は、大らかで優雅な雰囲気をたたえている。
茶匠ゆかりの茶道具
寺社・豪商伝来の名品
受け継がれる東洋の至宝 PartⅢ
曜変・油滴天目 -茶道具名品展-
世界に三碗のみが現存する「曜変天目」(すべて国宝)のうち、最も光彩が鮮やかな一碗、淀藩主稲葉家に長く秘蔵されたことで知られる“稲葉天目”と、独特の大きな朝顔形の姿に銀色の斑文が美しい「油滴天目」。本展では、この二つの名碗を中心に、信長―秀吉―家康と、天下人の手を経て今日に伝わる“大名物”茶入「付藻茄子」「松本茄子(紹鴎茄子)」、そして仙台藩主伊達家・加賀藩主前田家といった旧大名家、寺社・豪商・著名な茶人等によって所持された茶道具の名品を精選し、公開いたします。おりしも近年、南宋の都であった杭州から、美しい光彩をもつ「曜変」の破片が中国国内で初めて発見され、話題を呼んでいます。南宋宮廷への献上品であった可能性もでてきた曜変天目は、中国の陶磁史上、改めて注目される存在となり、研究の進展が期待されています。岩﨑彌之助(1851-1908・三菱第2代社長)と小彌太(1879-1945・三菱第4代社長)父子二代が、情熱を傾けて蒐集した静嘉堂の茶道具コレクションを、文庫創設120周年・美術館開館20周年を迎えた記念展PARTⅢとなる本展にて、お楽しみいただければ幸いです。
静嘉堂蔵
「茶道具の美―岩崎家の父子二代のコレクション」
リーフレット
「静嘉堂茶道具 鑑賞の手引き」
平成22年2月6日発行
編集・発行:静嘉堂文庫美術館
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