園子温監督の最新作「希望の国」を観てきました。主人公の老夫婦を演じるのは、ベテランの夏八木勲と大谷直子です。夏八木勲は、長い間脇役でした。僕の高校時代の友人とあまりにもそっくりなので、彼が出て来ると友人の名前「K」と僕はそう呼んでいました。大谷直子は、朝日新聞の「私の1980年」というエッセイで、自分が女優に目覚めたのはいま公開中の「希望の国」だと、62歳でそんな自覚が出たと書いていました。この配役からみても、今までの園子温監督の映画とは、過剰なセックスシーンもなく、過剰な暴力シーンもない、一味も二味も違った作品です。
テーマは、大震災の被害を受けた、しかも破壊された原発からの放射能汚染で自宅の前が避難地域と指定された、酪農を営む老夫婦と若い息子夫婦、前の家の息子とその女友達、の避難をめぐっての葛藤の日々です。長年住んでいる自宅を離れたくない老夫婦、認知症の妻は何度も何度も「家に帰ろう」と言います。妊娠が判明した息子夫婦は子供を育てるために引っ越すことを決意。前の家の息子とその女友達は困難な中、結婚しようと決意します。3組の夫婦や恋人、それぞれの運命です。
テーマがテーマなので、どうしても「既視感」が避けられないことはよく分かるのですが、ストーリーはよくある流れで、セリフも凡庸、人物の造形もいまひとつです。でんでんも出ているのに脇を固めるだけで、特に突飛な事件もないし、変わったことはなにも起こりません。たしかに状況は追い詰められていますが、ただただ時間が流れ、老夫婦、若者たちがそれぞれの道を歩む、というだけのことです。期待した園子温らしさがまったく見当たりません。園子温でなくてもよかったテーマだったのかもしれません。特にラスト、原発問題で追い詰められたとはいえ、あれでよかったのか、悪かったのか・・・。
以下、とりあえずシネマトゥデイより引用しておきます。
チェック:『愛のむきだし』『ヒミズ』など衝撃的な作品を次々と世に送り出す園子温監督が、大地震の被害を受けた家族の姿を描くヒューマン・ドラマ。震災の影響で散り散りになりながらも、6人の男女が貫いたそれぞれの愛をつづる。老夫婦をベテランの夏八木勲と大谷直子が演じるほか、『ヒミズ』の村上淳、『冷たい熱帯魚』のでんでんや神楽坂恵などこれまでの園監督の作品でも印象的な演技を披露した俳優陣が出演する。今までの作品で園監督が描いてきたテーマとは異なる、悲しくも美しい愛の物語に期待が高まる。
ストーリー:泰彦(夏八木勲)と妻(大谷直子)は酪農を営みながら、息子夫婦(村上淳、神楽坂恵)と一緒に慎ましくも満たされた暮らしをしていた。そんなある日、大地震が村を襲う。泰彦の家は避難区域に指定されたが、長く住んだ家を離れることができない。葛藤(かっとう)の日々を送る中、息子の妻いずみの妊娠が発覚。二人は子どもを守るためにあることを決意する。
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