「竹内栖鳳―京都画壇の画家たち」展
青い日記帳×山種美術館の主催による「ブロガー内覧会」に行ってきました。
2012年10月20日(土)17時より受け付け開始、17時15分より青い日記帳Takさんの「ツイッターの楽しみ方」が約10分間あり、その後約45分、山崎妙子館長によるギャラリートークがありました。特に絵画用の伝統的手漉き和紙」を作り続ける「岩野平三郎製紙所」ついての解説には、一般には知られていないことなので、驚きとともに感動しました。
ブロガー内覧会 本日の特典:
・参加費800円(一般1200円、前売1000円)
和菓子引換券(500円相当)
・山崎妙子館長ギャラリートーク
&青い日記帳Takさんトーク付き
(ツイッターの楽しみ方)
・当日に限り、会場写真撮影可能
(作品番号67伊藤小坡「虫売り」は撮影不可)
山種美術館で開催された「大観と栖鳳―東西の日本画―」展を、2010年2月に観ました。山種美術館が九段から広尾に移り、開館記念特別展として開催されているもののうち、「大観と栖鳳」は「Ⅲ」となっています。「Ⅰ」は「速水御舟―日本画への挑戦―」展、「Ⅱ」は「東山魁夷と昭和の日本画展」でした。「大観と栖鳳」が僕が始めて竹内栖鳳を知った展覧会だったと思っていたのですが、なんとその前の年、2009年8月に泉屋博古館分館で栖鳳の「ベニスの月」を観ていたことが分かりました。先日文化勲章の受章が決定した高階秀爾の新聞記事を引用して、以下のように書いていました。
竹内栖鳳の「ベニスの月」、高階秀爾は「美の季想」(朝日新聞夕刊2009.8.19)で、異国で見る月という特別に思い入れが深い主題について、私がただちに思い浮かべるのは、近代日本画の巨匠竹内栖鳳の「ベニスの月」である、と述べて、以下のように記しています。縦2m22、横1m74と言う大きさは、紙本の水墨画としてはやはり異例のものと言えよう。それは元々この作品が、明治43年の倫敦における日英はくっらんかいに出品するビロード友禅壁掛けの原画として描かれたものだからである。いわば工芸作品のための下絵だが、下絵と言っても極めて完成度が高く、広々とした空間構成と炭の微妙な濃淡による卓抜な光の表現は、まさしく傑作の名に恥じない。
竹内栖鳳(1864-1942):
京都に生まれる。本名恒吉。はじめ町絵師に師事するが、1881(明治14)年、幸野楳嶺門下に入り、棲鳳の号を受ける。翌年、第1回内国絵画共進会入選を皮切りに、各種展覧会で受賞を重ね、京都画壇の若手の花形的存在となる。1897(明治30)年頃から私塾を「竹杖会」と名付け後進の指導。1900(明治33)年から翌年にかけて渡欧、帰国後は西洋の写真表現を取り入れた画風を確立し、号も栖鳳と改める。1907(明治40)年の第1回文展審査員をつとめ、以後文展・帝展に多くの作品を発表。1913(大正2)年、第1回文化勲章受章。京都画壇で指導的役割を果たし、多くの逸材を育て、近代日本画の発展に尽くした。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 先人たちに学ぶ
第2章 竹内栖鳳の画業
第3章 栖鳳をとりまく人々
「斑描」:
山種美術館創立45周年記念特別展「ザ・ベスト・オブ・山種美術館」の時に識者にアンケート回答を求めて実施した「私が選ぶ山種コレクションベスト3」では、第1位速水御舟「炎舞」、第2位村上華岳「裸婦図」に続き、竹内栖鳳の「斑描」は小品であるにもかかわらず、数ある山種コレクションの中で堂々第3位に入っていました。
無背景のほぼ中央に猫1匹のみを配し、つきだした前足と同線上の左上余白に落款を置くという、考え抜かれた構図である。栖鳳は、旅先の沼津で八百屋のおかみの愛猫を一目見た瞬間、徽宗皇帝の描図を想起し、表現欲が湧いたという。自筆の画1枚と交換してその猫を譲り受け、京都に連れ帰って撮影や写生を繰り返し、本図を完成させた。つややかで柔らかな毛並みは、墨や黄土などを塗り重ねた上に、墨や胡粉による毛描きを加え、瞳は群青、緑青、金泥を用いて描かれている。
第1章 先人たちに学ぶ
竹内栖鳳が最初に絵を学んだのは円山四条派の画家でした。円山四条派とは江戸中期に興った画派で、円山応挙を祖とする円山派と、呉春を祖とする四条派からなっています。円山派は写生を重んじ平明で写実的な画風、四条派は写意(精神性)を重視する詩情に富んだ画風と方向性は異なりますが、双方の画風を兼ね備えた画家などもおり、広い意味で区別なく総称する場合も多くあります。ちなみに栖鳳の師、幸野媒嶺も円山派と四条派を学んでおり、その意味では栖鳳も双方の流れをくむと言えるでしょう。ここでは、栖鳳のルーツとなった円山四条派の展開をご覧いただきます。江戸時代では、円山派の応挙、長沢芦雪、応挙から写実を学び、後に四条派風にも転じた森派、四条派では呉春およびその原点となった与謝蕪村の作品をご紹介し、さらに幕末から明治にかけて活躍した国委応文や川端玉章の世代まで、栖鳳を遡る先人たちの系譜をたどります。
第2章 竹内栖鳳の画業
18歳(数え年)で幸野媒嶺の門下に入った栖鳳は、翌年に早くも展覧会への出品を開始、各地の展覧会で受賞を重ね、その名を世にとどろかせていきました。1900(明治33)年にはパリ万博見学および西洋美術視察の目的で渡欧を果たし、ヨーロッパ各国を巡るというチャンスを得ます。帰国後は雅号を従来の「棲鳳」から「栖鳳」に改め、渡欧経験の成果を形にしていきました。また、文展では初回から審査員とつとめ、話題作を次々と発表し、帝展でも審査員となります。やがて、東京の横山大観とともに「東の大観、西の栖鳳」と並び称され、京都画壇を代表する画家としての地位を確立しました。ここでは、古画を研究した初期の作品から、渡欧時の見聞を活かしライオンや象などの珍しい動物を写実的に描いた屏風、《絵になる最初》(No.26・後期展示)や大正期の代表作《斑描》(No.27)、中国旅行を機に展開した叙情あふれる風景画、俳句をたしなんだ栖鳳ならではの洒脱な作品まで、日本画の歴史に新たな扉を開いた栖鳳の豊かな表現世界をご紹介します。
「岩野平三郎製紙所」:
明治時代より続く越前和紙の工房。初代岩野平三郎は、東京や京都といった中央画壇の作家たちと交流しながら紙漉の研鑽と研究を続け、さまざまな様式の和紙を考案。その紙は竹内栖鳳や横山大観ら日本画の巨匠たちに愛用され、近代日本画発展の陰の立て役者となった。
福井県越前市大滝町27-4
TEL077-842-0042
竹内栖鳳は、特に使用する和紙には特別思い入れがあったことで知られる。越前の岩野平三郎製紙所にて、絵の具や墨ののりがよくなるように考案された通称「栖鳳紙」を作らせました。以下の作品は、年代や絵の特徴などから栖鳳紙を使用した可能性がある。栖鳳紙は、滲み止めとしての「どうさ」を引かずとも比較的滲まずに線を引くことができるという特徴がある。「蛙と蜻蛉」にはそれがよく表れており、繊細で柔らかな墨の選が美しい。
第3章 栖鳳をとりまく人々
栖鳳は優れた画家であると同時に優秀な教育者でもあり、資質を活かした指導により多くの後進を育て、京都画壇の新たな発展に寄与しました。栖鳳の画塾「竹杖会」で学んだ門下生には、上村松園、西村五雲など、いずれも錚々たる顔ぶれが並び、いかに優れた後進が輩出しているかが分かります。また、明治後期から大正期にかけて、京都市美術工芸学校・京都市立絵画専門学校において、同門出身の菊池芳文らとともに、村上華岳をはじめ数多くの学生たちを指導しました。栖鳳が重んじた伝統と革新という二つの価値観を受け継いだ後進たちは、その後、動物や人体描写、自然描写に優れた才能を発揮し、のちの京都画壇に新風を吹き込んでいきます。ここでは、栖鳳とともに教鞭をとった同世代の京都画壇の画家たちと、栖鳳の薫陶を受けた次世代の画家たちの作品をご紹介し、円山四条派のDNAが栖鳳の時代から弟子たちへと受け継がれていった過程をご覧いただきます。
「没後70年 竹内栖鳳―京都画壇の画家たち―」
2012年は、「東の大観、西の栖鳳」と並び称された日本画家・竹内栖鳳(1864-1942)の没後70年にあたります。京都に生まれた栖鳳は、早くからその才能を開花させ、30代で京都画壇を代表する画家にのぼりつめました。栖鳳が描き出す、いきものや自然がみせる一瞬の姿を軽やかに捉えた作品は、今なお精彩に富み、新鮮な魅力を放っています。パリ万博が開催された1900(明治33)年、ヨーロッパ遊学を果たした栖鳳は、渡欧先で西洋美術にじかに触れることで大きな刺激を受けました。帰国後、円山四条派の写生を軸にした画風に、西洋美術の要素をとり入れた新しい表現を生み出していきます。洗練された感性と優れた筆技によって動物、風景、人物と様々な主題を手掛け、日本画の近代化に積極的に取り組みました。本展では、近代の京都画壇を牽引した栖鳳の画業を、《飼われたる猿と兎》、《絵になる最初》、《蹴合》、《班猫》【重要文化財】、《若き家鴨》など初期から最晩年までの傑作を通してたどります。また、京都画壇の歴史的展開にも注目し、栖鳳の造形的源泉となった円山派の祖・円山応挙をはじめとする江戸時代の作品を併せてご紹介いたします。さらに、栖鳳の指導を受けて活躍した上村松園、西村五雲ら弟子たちの作品を通して、江戸から近代へといたる円山四条派のDNAの核心に迫ります。
「没後70年 竹内栖鳳―京都画壇の画家たち」
監修:
山下裕二(山種美術館顧問、明治学院大学教授)
執筆:
山下裕二
高橋美奈子(山種美術館学芸部長)
三戸信恵(山種美術館特別研究員)
塙萌衣(山種美術館学芸員)
編集:山種美術館学芸部
発行:山種美術館
小冊子
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