Quantcast
Channel: とんとん・にっき
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2506

損保ジャパン東郷青児美術館で「ジェームズ・アンソール―写実と幻想の系譜―」を観た!

$
0
0



損保ジャパン東郷青児美術館で「ジェームズ・アンソール―写実と幻想の系譜―」を観てきました。観に行ったのは、9月8日、2時間ほど時間が空いたのでそれっとばかりに観に行ったら、なんと開催初日でした。ジェームズ・アンソールは、ルネ・マグリット、ポール・デルヴォーと並んで、ベルギー近代美術の三代画家の一人と呼ばれているようです。ポール・デルヴォーについては、ちょうどいま府中市美術館で「ポール・デルヴォー―夢をめぐる旅―」が開催されていて、僕も観に行ってきました。アンソールについては、2005年、東京都庭園美術館で「ジェームズ・アンソール展」が開催され、なんと副題が「ベルギーが生んだ異端の画家」だったようですが、残念ながら僕は観ていませんでした。


ベルギーといえば「ベルギー王立美術館」、過去に、浮世絵版画のコレクション展や、ブリューゲル版画展などがありました。また、「アントワープ王立美術館」としては、「アンソールからマグリット」展がありました。昨年4月に、オランダ・ベルギーを旅して、改修工事中でしたが「ベルギー王立美術館」を観ました。「アントワープ聖母大聖堂」で、ルーベンスの作品をまとまって観たり、「聖バーフ教会」のファン・エイク兄弟による祭壇画「神秘の子羊」も観ることができました。もちろんブリューゲルも、オランダではレンブラントの作品をまとまって観ることができました。


アンソールは、愛好する巨匠について次のように答えています。「そもそもレンブラントを大変気に入っていましたが、ずいぶんあとになってゴヤとターナーに惹かれるようになりました。光と激烈さに取り憑かれたこのふたりの巨匠を発見し、わたしは熱狂しました。ヒエロニムス・ボスとピーテル・ブリューゲルの並外れた独創性にもまたわたしはおおいに喜びました。彼らの作品はほかのフランドル派の巨匠たちのものより優れていると思いました」。


アンソールは過去から同時代の様々な芸術家の作品を写した素描、模写を300余点も描いていた、という。今回も、ターナーやレンブラント、フランス・ハルス、等々の模写が取り上げられていました。特にレンブラントの「驚いた表情の自画像」は小さな作品ですが、表情豊かな見事な作品です。またドラクロワが北アフリカの狩猟の光景を制作するための素描を模写したりもしています。ジャポニスムのコーナーでは、「日本の木版画の模写‘武者’」や「北斎の模写‘『北斎漫画五編』第二十丁表、柿本貴僧正(鬼)’」が取り上げられていました。アンソールは極東の国々から来た品物すべてについて、常に“シノワズリー(中国趣味)”という単語を(不正確に)使っていた、という。


「写実的な静物画と肖像画」として、時代は近代に入ったことを、アンソールやブリュッセルの仲間の画家たちを通して示しています。写実は19世紀まではさほど重要ではなかった、という。一方で、近代の画家たちは、レンブラントやハルスの描いた肖像画を大いに称賛した、という。「風俗画」とは、特別に重要な出来事とは思われない活動に無名の人が携わっている描写をいいます。描かれている人物は、宗教的でも歴史上の英雄でもない、貴族やブルジョア、あるいは下層階級の人々です。風俗画には、道徳的な役割もありました。アンソールは、「オステンドの昼食後」や「牡蠣を食べる女」を描きました。


さて、今回の展覧会も目玉は、「グロテスクの絵画」についてです。アンソールが画家になってから最初の5年間に描かれた作品では、日常の現実を極めて詳細に描くこと自体が目的でした。その後アンソールは、ブリュッセルで組織された芸術家グループ「二十人会(レ・ヴァン)」が開催した展覧会で、写実主義、印象主義、象徴主義、等々、多くの芸術を知ることになります。1887年にアンソールが「二十人会」に出した素描の一連の大作「幻視」は、ルドンの作品に習って描いたもので、古いキリスト教の物語が型破りの奇妙な方法で用いられているという。


図録ではアンソールの新しい傾向の絵画は、現実的であると同時に奇妙であることから、ごく一般的には「超現実的(シュルレアル)」と呼ぶことができるが、その用語がエルンストやマグリットと関連するため、別の用語か他の言い回しを使うほうがよさそうだ、としています。アンソールの作品は象徴主義なしには語れないが、仮面の絵画や奇妙な風刺画に代表されるアンソールの芸術を言い表すのにもっともふさわしい単語は「グロテスク」ではないだろうか、ゴヤやルドンのグロテスクな芸術が、現実的、論理的かつ厳粛であるのと同時に、非現実的、不合理かつ滑稽であるように、と定義しています。


そして、アンソールのグロテスクな作品を、以下の重要な傾向にもとづいて分類しています。

神秘の源泉としての光/表情豊かな輪郭線/極東からの霊感/イメージを体系的にはぐらかす手法/純真な仮面/風刺画と悪魔/風刺画と地獄絵の巨匠たちの再発見/人びとと世界を嘲笑すること/主役としての骸骨。


展覧会の構成は、以下の通りです。


第1章 写実と反アカデミスム

1-1 アンソールの美術アカデミーにおける古典的描写方法の習得

1-2 外光主義

1-3 アンソールとブリュッセルの仲間たちによる写実的な静物画と肖像画

1-4 画家は近代の真の英雄である

1-5 近代生活のイメージ

1-6 貧しき人びとの尊厳

第2章 グロテスク絵画に向けて

2-1 光の感受性

2-2 線の感受性

2-3 ジャポニスム

2-4 創造手段としてのあやかし

2-5 アンソール芸術における“死の舞踏”とその他の骸骨

2-6 仮装

2-7 カリカチュア、悪魔、仮面

2-8 プリミティヴィスム:いわゆる15世紀の初期フランドル美術の再発見

2-9 諷刺



第1章 写実と反アカデミスム







第2章 グロテスク絵画に向けて



アントワープ王立美術館所蔵
「ジェームズ・アンソール―写実と幻想の系譜―」

ジェームズ・アンソール(1860~1949)は、ベルギー近代美術を代表する画家のひとりです。仮面や骸骨など、グロテスクなモティーフを用いながら人間の心の奥底に潜む感情を独創的に表現し、シュルレアリスムや表現主義など、後の絵画運動に影響をあたえました。その一方で、アンソールは伝統的なフランドル絵画や、外光主義をはじめとする19世紀の主要な絵画運動から影響を受けていました。本展覧会は世界で最も多くアンソールの作品を所蔵するアントワープ王立美術館のコレクションより、素描を含む約50点のアンソール作品をフランドルや同時代の画家の作品と共に展示し、アンソールの芸術を生み出した写実と幻想の系譜をたどります。


「損保ジャパン東郷青児美術館」ホームページ


とんとん・にっき-ensor2 アントワープ王立美術館所蔵

「ジェームズ・アンソール―写実と幻想の系譜―」

図録

執筆:

ヘルヴィック・トッツ

鈴木俊晴

翻訳・編集:

小林晶子(損保ジャパン東郷青児美術館学芸員)

鴫原悠(愛媛県美術館学芸員)

鈴木俊晴(豊田市美術館学芸員)

根本亮子(岩手県立美術館学芸員)

橋村直樹(岡山県立美術館学芸員)

NHKプロモーション

発行:

NHKプロモーション




過去の関連記事:ベルギー・シュルレアリスム関連

アントワープ聖母大聖堂の「聖母被昇天」を観た!
「アントワープ聖母大聖堂」でルーベンスの作品を観た!
「ベルギー王立美術館」を観た!
国立新美術館で「シュルレアリスム展」を観た!
横浜美術館でコレクション展「ダリとシュルレアリスム」他を観た!
東京オペラシティアートギャラリーで「アントワープ王立美術館コレクション展」を観た!
茨城県立近代美術館で「アンソールからマグリットへ」を観た!


過去の関連記事:損保関連

損保ジャパン東郷青児美術館で「モーリス・ドニ」展を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「GLOBAL NEW ART この世界を生きるアート」展を観た!

損保ジャパン東郷青児美術館で「櫃田伸也展――通り過ぎた風景」を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「ウフィツィ美術館 自画像コレクション」展を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「モーリス・ユトリロ展」を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「相笠昌義展・日常生活」を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「没後80年 岸田劉生 肖像画をこえて」を観た!

損保ジャパン東郷青児美術館で「ジョットとその遺産展」を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「モーリス・ド・ヴァラマンク展」を観た!
損保ジャパン東郷青児美術館で「ベルト・モリゾ展」を観る!







Viewing all articles
Browse latest Browse all 2506

Trending Articles