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スタジオ・ムンバイの「夏の家」

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2012年8月、東京国立近代美術館(本館)の前庭にスタジオ・ムンバイ(インド)がデザインする「夏の家」(仮)がオープンします。という情報をキャッチしたのはいつだったか? TOTOギャラリー間で「スタジオ・ムンバイ展」を観たときに、上にようにブログに書きました。


東京国立近代美術館は、展覧会はすべて夏休み中です。その前庭で、スタジオ・ムンバイの「夏の家」が完成し、暑い夏の日に観てきました。当初、「夏の家」がどんなものか、まったく分かりませんでした。また、どうして近代美術館の前庭に、スタジオ・ムンバイの「夏の家」が、しかも、近美のホームページをみるとスタジオ・ムンバイの「バラック」とあるではないですか。いまの時代、建築家が「バラック」を建てるという時代ではありません。が、しかし、「バラック」、これは面白そう、ゼッタイに観ておきたいと思い行ってきました。


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先日、ベネチア・ビエンナーレの国際建築展で、伊東豊雄率いる日本チームが東日本大震災の被災地、陸前高田市に建てた「みんなの家」のスタディ模型を並べて会場に展示し、最優秀賞の金獅子賞に選ばれました。「みんなの家」は、特にこれと言った機能があるわけではなく、ただの掘っ立て小屋のような、小さな建築に過ぎません。実は機能がない、あるいは用途がない建築をつくるのが、建築家はもっとも不得意とするところなのです。


スタジオ・ムンバイの「夏の家」は、これといった定まった機能があるわけではありません。思い出したのが、パリのラ・ヴィレット公園に建つ、バーナード・チュミによる「フォーリー」と呼ばれる小建築群です。僕は2度ほど、ラ・ヴィレット公園に観に行きました。「フォーリー」とは、無理矢理日本語にすると「あずまや」です。大きな西洋庭園に点在する休憩所のようなものです。当時盛んに「無用の用」と言う言葉で言われていました。


スタジオ・ムンバイの「夏の家」も、特にこれといった機能があるわけではない、3つの建築から成り立っています。国立近代美術館の前庭に建ち並ぶのは、巨大玩具のようでもあり、茶室の待合のようでもあり、ちょっとした休憩所のようでもあります。まさに「無用の用」です。辞書で調べてみると、「一見無用とされているものが、実は大切な役割を果たしていること」、とあります。


「夏の家」では、小さな建築を建てることを通して、日本語の「バラック」が持つ可能性を追求した、とあります。「バラック」とは、戦後の復興の時によく使われました。本来バラック(barrack)は兵舎という意味なんだそうです。僕は初めて知りました。バラックには、人々が自分の過ごす場所をその都度工夫していく、未完の建物ならではの魅力がありますと述べられています。そういえば、石山修武に「バラック浄土」(相模書房:1982年)という著作がありました。


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スタジオ・ムンバイによる「バラック」
東京国立近代美術館が開館した1952 年は戦後復興の途中であり、東京にはまだまだバラックが多く残っていました。それらは、何もかもを失い、家をつくる必要に迫られた人々が、建設の知識がないまま自分の手で工夫を重ねてつくりあげたすまいの原型であるといえます。そしてバラックには、人々が自分の過ごす場所をその都度工夫していく、未完の建物ならではの魅力があります。新築/改修、職人/素人に関わらず建物を建て、日々更新していくという建築のあり方は、スタジオ・ムンバイが建築に取り組む方法と重なります。本来バラック(barrack)は兵舎という意味ですが、日本人がイメージするバラックは英語のshelter やhut(小屋)も含んでいます。今和次郎は、『震災バラックの回顧』(1927 年)において、この日本語の「バラック」が指すものを丁寧に調査し、示しました。そして、関東大震災後に地面から湧き出るように次々と建てられた「バラック」の数々と、田舎の農家や開墾地の家々を、同質の視点で見つめ、それら原始的な建て方の小屋に、人がすまいを自ら工作することの価値を見出したのです。この視点は、震災を経た2012 年の日本において重要な問題でもあります。かねてよりインドの田舎の集落や移動住居を調査してきたスタジオ・ムンバイは、今のバラック調査に大きく共感しました。そこで、本プロジェクトでは、小さな建築を建てることを通して、日本語の「バラック」が持つ可能性を追求します。また、今和次郎の他、ジョン・ラスキンやバーナード・ルドルフスキー『建築家なしの建築』などにも共通する民俗的な建築の魅力を、スタジオ・ムンバイがどう思考し、実践するかが本プロジェクトのみどころのひとつです。


スタジオ・ムンバイ
1995 年、ビジョイ・ジェインがムンバイに設立した、大工職人と設計者による、設計から施工まで一括して手掛ける建築事務所。当初15 名程度だったスタッフは、現在120 名を超える。土地の材料や伝統的な技術を重んじ、手作業による施工をベースにしたオーガニックな建築作品を数多くつくる。職人や芸術家とともに独自の建材をつくり、スケッチや大きなモックアップでの検討を何度も繰り返すプロセスそのものがデザインになることが特徴。建築作品の殆どはインドに建設されているが、ヴェネチア・ビエンナーレ建築展(2010 年)への出品をはじめ、建築雑誌『El Croquis』で特集されるなど、世界で注目を集める。


スタジオ・ムンバイの「夏の家」


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TOTOギャラリー間で「スタジオ・ムンバイ展」を観た!




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