昨日の朝日新聞広告特集に、「おもしろ建築が続々!リノベーション先進地 オランダ見聞録」という記事が載っていました。「古い建物を大胆に再生させている国がある。それはオランダ。建築物を補修し、長く活用する伝統があるヨーロッパで、そのユニークさはピカイチ。いざ、おもしろ建築散歩へ!」とあり、幾つかのリノベーションの例が載っていました。一つ目は「教会が書店に!」、二つ目は「回転橋がカフェに」、三つ目は「倉庫がショッピングモールに」の三つです。
古くなった建物をリノベーション(改築)しながら使い続けることは歴史の古い欧米では当然のことでした。十分に手を加え、維持されてきた建物は、高価格で売買されるという。しかし日本では、建物の不動産価値は完成直後が最も高く、時が経つにつれて下がっていきます。建物よりも土地の価値が優先されます。とはいえ、最近では古い建物を解体し、新しい建物を建てるという「スクラップ・アンド・ビルド」は見直されつつあります。既存の建物を活かしたリノベーションが注目されるようになりました。建築廃材を抑えることも理由の一つですが、リーマンショック以降の不況の中で、経済的にも有効な手段です。それ以上に重要なのは、新しい建物にはない、古い建物の持つ歴史的な時間の可能性だと言えます。
僕が1973年夏にアメリカへ建築視察旅行に行ったときに、サンフランシスコで二つのリノベーションの実例を見学しました。サンフランシスコ湾側にある工場や倉庫をコンバージョン(用途転用)した建物です。一つはチョコレート工場を商業施設に改修した「ギラデリー・スクエア」、もう一つは缶詰工場をショッピングモールに改修した「ザ・キャナリー」です。この二つの商業施設の間は、たしかサンフランシスコ名物ケーブルカーの発着場所でした。かなり早い時期の大規模リノベーションの実例でしたが、先日知人がこの地区、フィッシャーマンズワーフへ行って食事をしてきたと言うから、未だに利用されていて、長い寿命なのには驚きました。
それはさておき、ここではオランダ・マーストリヒトの古い教会を書店にリノベーションした例の話です。何度過去のブログに書いていますが、昨年4月に「オランダ・ベルギー・ルクセンブルグ」10日間の旅に行ってきました。マーストリヒトへ行ったのは第6日目、4月16日(土)のことでした。午後からマーストリヒト旧市街を徒歩で観て回りました。その時に偶然入った教会が書店だった、というわけです。たぶん、いまから思うと、ガイドさんが面白い本屋があるから観に行ったらと教えてくれたのかもしれません。
オランダでは、キリスト教のコミュニティーが縮小して、使われなくなった教会堂が増えているという。オランダ南部の都市マーストリヒトで、ゴシック様式の大空間を持つ教会が書店「Selexyz Dominicanen」として、2006年に改修・再生されました。本を売るために必要な面積は、教会堂の2倍。書架スペースを3階建てにして片側に寄せることでそれを解決し、天井や奥行きはオリジナルのままです。面白いのは、一番奥、そうです、祭壇の場所がなんとカフェになっていました。天井が高く、落ちつくところで本を読みながらゆっくりとコーヒーを飲む、こんな贅沢は他では味わえません。オランダならではの、斬新なデザインです。もちろんオランダでは、国家的な規模で、リノベーションを支援し促進する仕組みが充実しているという。