小熊英二の「社会を変えるには」(講談社新書:2012年8月20日第1刷発行)を読みました。それにしてもこの本のカバーデザインはなんなんだ、まったく内容に即していない、下手くそでなにも考えていません。「私たちはいまどこにいるのか―小熊英二時評集」を読んだあと、小熊の原点を知るために「単一民族神話の起源」を購入しましたが、まだ読んでいません。あっ、そうだ、出てすぐに購入した「在日一世の記憶」(集英社新書:2008年10月22日第1刷発行、2009年10月31日第5刷発行)という本もありました。これは姜尚中との共編です。
「私たちはいかどこにいるのか」を読んで、このブログに書いたときに、小熊の「1968」という本を次は読むべきだと、自分で書いたのですが、上巻1092ページ、下巻1008ページ、定価は各巻7,140円(税込)、つまり2冊で14,280円ということで、怖じ気づいて買うのを躊躇っています。「『辺境』からはじまる 東京/東北論」(赤坂憲雄・小熊英二編著:明石書店)もあるし、10月12日発売予定の「平成史」共著(河出書房新社)もあるようです。
「私たちはいまどこにいるのか」の最終章「未来への鍵」で、次のように書いています。
現代日本の最大の問題は、高度成長期につくられ、1980年代まで機能した社会のあり方が、不適合を興していることだと思います。・・・その戦後社会が終わりつつあるいま、つぎの社会をつくるための基盤になる、日本社会の構成員の合意がどのようなものであるかを見つけだすことが、未来への鍵になると思います。思想や言論に携わるものの役割は、その合意を築く、あるいは探りだす、手助けをすることであるはずです。
新書で500ページもある、まさにタイムリーな、そしてすごい本です。2011年の東日本大震災と、福島第一原発事故以後に書かれたものです。なにしろ民主主義の起源にまで遡って詳細に解説しているから、これだけ分厚くなってしまうのです。現代の民主制は代議制民主主義、たかだか数百年前に成立した政治の一形態だと、小熊は言う。
現代の誰しもが共有している問題意識があると小熊は言う。それは、「誰もが『自由』になってきた」「誰も自分の言うことを聞いてくれなくなってきた」「自分はないがしろにされている」という感覚。現代日本で「社会を変える」にはどうしたらよいか。みんなが共通して抱いている「自分がないがしろにされている」という感覚を足場に、動きをおこすこと。そこから対話と参加をうながし、社会構造を変え、「われわれ」を作る動きにつなげていくことだ。その意味では、現代日本における原発は、かっこうのテーマだ、という。
いつの時代も、人びとは漠然とした不安や不満を抱えているが、明確な形になっていない。そうした漠然としたものが、目に見える具体的な形としてこの世に現れたとき、人びとは「これが問題だったのだ」「これを変えれば社会は変わるのだ」として行動に立ち上がる。見えないものが見えるようになったとき、人間は感動=行動する。「民意」がこの世に現れてきた瞬間、自分の悩みに答えが見えてきた瞬間、生き方を変える具体的方法をつかんだ瞬間、人は「まつりごと」の領域に入り込み、感動=行動します。
運動のおもしろさは、自分たちで「作っていく」ことにあるという。デモの意味については、まず参加者が楽しい。こういうことを考えているのは自分だけじゃない、という感覚がもてるlこと。そして、「参加者はみんなが生き生きとしていて、思わず参加したくなる『まつりごと』が、民主主義の原点です。自分たちが、自分個人を超えたものを『代表』していると思えるとき、それとつながっていると感じられるときは、人は生き生きとします」。
最後にこうあります。
動くこと、活動すること、他人とともに「社会を作る」ことは、楽しいことです。すてきな社会や、すてきな家族や、すてきな政治は、待っていても、とりかえても、現れません。自分で作るしかないのです。・・・社会を変えるにはあなたが変わること。あなたが変わるには、あなたが動くこと。言い古された言葉のようですが、いまではそのことの意味が、新しく活かしなおされる時代になってきつつあるのです。
小熊英二:略歴
1962年東京生まれ。1987年東京大学農学部卒業。出版者勤務を経て、1998年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了。現在、慶應義塾大学総合政策部教授。著書に「1968」「〈民主〉と〈愛国〉」「〈日本人〉の境界」「単一民族神話の起源」(以上、新曜社)、「増補改訂日本という国」(イースト・プレス)、「私たちはいまどこにいるのか―小熊英二時評集」(毎日新聞社)、共著に「『東北』再生」(イースト・プレス)、編著に「辺境からはじまる―東京/東北論」(明石書店)など。
内容紹介
私はしばしば、「デモをやって何か変わるんですか?」と聞かれました。「デモより投票をしたほうがいいんじゃないですか」「政党を組織しないと力にならないんじゃないですか」「ただの自己満足じゃないですか」と言われたりしたこともあります。しかし、そもそも社会を変えるというのはどういうことでしょうか。――<「はじめに」より>
いま日本でおきていることは、どういうことか?社会を変えるというのは、どういうことなのか?歴史的、社会構造的、思想的に考え、社会運動の新しい可能性を探る大型の論考です。
目次
第1章 日本社会はいまどこにいるのか
第2章 社会運動の変遷
第3章 戦後日本の社会運動
第4章 民主主義とは
第5章 近代自由民主主義とその限界
第6章 異なるあり方への思索
第7章 社会を変えるには
野田佳彦首相は22日、反原発市民団体「首都圏反原発連合」の代表者11人と首相官邸で面会し、政府の原子力政策について「基本的な方針は脱原発依存だ。中長期的に原子力に依存する態勢を変えていくことを目標にしている」と述べた。首相は関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働への理解も求めたが、市民団体側は運転再開の中止を訴えるなど、議論は平行線に終わった。
(毎日新聞)
*小熊は市民団体側の一人として、首相との面会を管前首相を通じてセットし、面会には同席もしていました。
8 6 東電前・銀座 原発やめろデモ!!!!! 小熊英二アピール 日比谷公園・中幸門
6.11★新宿・原発やめろデモ!出発前02●小熊英二さん(社会学者)
沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮
植民地支配から復帰運動まで
1998年7月10日:初版第1刷発行
1998年9月30日:初版第2刷発行
著者:小熊英二
「単一民族神話の紀元」
〈日本人〉の自画像の系譜
1995年7月10日:初版第1刷発行
2010年10月20日:初版第22刷発行
著者:小熊英二
発行所:新曜社
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